カスハラ対策マニュアル!クレームの違いと企業がすべき6つの対策方法

カスハラ対策

近年、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉が急激にクローズアップされています。カスハラとは、客や取引先という上位の立場を利用した、悪質な嫌がらせや、過度なクレームのことです。

カスハラは、今や従業員だけの問題ではありません。カスハラは、企業の生産性の低下、さらには従業員の休職や退職の原因にもなりうることから、深刻な社会問題となっており、企業は早急に対策を講じる必要があります。

ここでは、先日発表された厚労省の「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」に対応した内容で、企業が行うべき対策について解説していきます。

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カスハラ放置は危ない?カスハラ対策の義務と必要性

カスハラ対策の必要性

社会問題となっているカスタマーハラスメントですが、カスハラ対策の必要性は、特に営利企業において、軽視される傾向にあります。

「対策を行っても数字上の利益がでるわけではない」、
「クレームが発生してから個別に解決すればいい」、

という認識がその根底にはあるようですが、これは誤解です。

カスハラ対策は、パワハラやセクハラといった企業内で起こるハラスメント問題同様、義務であり、カスハラは企業運営に大きな悪影響を及ぼします。

カスハラ対策は企業の義務

企業には、労働契約に付随する義務として、従業員が安心して健康に働くための配慮をしなければならない「安全配慮義務」があります。もし従業員が外部から悪質なカスハラやクレームを受けた場合は、企業は従業員の相談に応じ、適切に対応するための体制設備や被害者への配慮の取組を行う必要があります。

厚生労働省も「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表

深刻化するカスハラ問題に対し、国も本格的に対策に乗り出しました。

2020年1月に告示されたパワハラ防止指針に、企業のカスハラ対策の必要性が言及されたのをはじめ、2022年2月25日には、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しています。これには、カスハラやクレームを想定した事前の準備や、実際に行った際の対応など、カスハラ対策の基本的な枠組みが記載されています。

カスタマーハラスメント対策企業マニュアル – 厚生労働省

カスハラを放置するリスク

企業がカスハラを放置することにより、以下のリスクが考えられます。

生産性や収益の低下

カスハラに対し、なんら対策を講じないことは、間違いなく企業の利益を損ないます。カスハラやクレーマーに対応する従業員は、その対応により精神的に疲弊し、業務効率が低下します。その皺寄せは同僚に向かい、部署、さらには会社全体に波及し生産性や収益が低下します。

従業員の休職・退職の増加

カスタマーハラスメントに対応する従業員は、多大なストレスを抱えることになります。これにより心のバランスを崩し、睡眠障害や精神疾患などの健康被害を患い、休職する方も少なくありません。また企業が対策を行わないとすれば、従業員は自分の身を守るために退職してしまうリスクもあります。

責任問題の追及

もし、ハラスメント対策を怠っていたことが原因で従業員の身に最悪の事態が起こった場合は、「安全配慮義務違反」で責任問題を追及されることとなります。従業員を守るためのなんら措置を行っていない企業は、パワハラやセクハラを放置する企業と同列と見なされ、社会的避難を受けることにもなります。

休職や離職でも、従業員から企業が訴えられるケースも、頻繁に起こっております。

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カスハラ(カスタマーハラスメント)とは

カスタマーハラスメント対策の必要性は、ご理解いただけたかと思います。

それでは、そもそもカスハラとは一体、なんなのでしょうか。

カスハラとは、カスタマーハラスメントの略で直訳すると、「顧客による嫌がらせ」のことです。客や取引先という上位の立場を利用した、悪質な嫌がらせや過度なクレームが、カスハラにあたります。

カスハラが増えた背景

カスハラが増加した背景として考えられるのは、インターネット、スマホ、SNSの普及です。

昔から同じような意味で「クレーム」がありましたが、企業は今ほどクレームを恐れていませんでした。なぜならば、悪質なクレーマーに対しては毅然と対応することができたからです。しかし、ネットによる情報発信の機会の増加により、悪質なクレーマーはネット拡散による企業攻撃という武器を手に入れました。ネット拡散による風評被害を恐れた企業は、クレーム対応に毅然と対応することが著しく困難になったのです。

また、30年以上続く長引く不況により、お客様至上主義とも言える風潮が浸透したことも原因の一つだと考えられます。

カスハラとクレームの違い

クレームは直訳すると、要求、主張、苦情などを意味し、一般的には「苦情」など負の意味で使われます。クレームには「正当なクレーム」と「不当なクレーム」があり、中でも「不当なクレーム」はカスハラにあたります。(なお、正当カスハラという概念は存在しません)

例えば、店員が顧客のバッグを汚してしまった場合、バッグの代金以外に過度な謝罪と高額な慰謝料を要求してきたとしたら、それは不当なクレームであり、カスハラにあたります。

カスハラの本質は「嫌がらせ」です。カスハラの中には、当然「要求」が含まれているものも多いですが、「要求」がなくても顧客の嫌がらせであれば、カスハラと言えるでしょう。

こちらの記事では、カスハラとクレームの違いを、分かりやすく図を用いながら解説しています。是非、合わせてご覧ください。

カスハラとは?カスタマーハラスメントとクレームとの違いをわかりやすく図解!

カスハラ(カスタマーハラスメント)の事例

カスハラ(カスタマーハラスメント)の事例

カスハラや不当なクレームに正しく対応するためにも、企業や団体は何がカスハラに当たるのか、理解を深める必要があります。2017年10月に、UAゼンゼンが公表した「顧客からのハラスメントの定義とその対応に関するガイドライン第2版」では、カスタマーハラスメントとなる顧客からの行為や要求を、次のように類型化しています。

(1)欠陥があった商品の代金より、高額な賠償を要求
(2)謝罪として土下座を求める要求
(3)従業員の解雇を求める要求
(4)自社製品以外の要求
(5)不当な返品を要求(返品期限を過ぎている返品など)
(6)実現不可能な要求(法律を変える、子どもを泣き止ませるなど)
(7)発生した事実に対して相応に対応したにもかかわらず、企業トップをだせという要求
(8)暴力をふるう、身体を触るなどの行為
(9)性的な発言をする、女性蔑視の発言をする行為

https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000732126.pdf

顧客からの要求内容が、嫌がらせ、もしくは不当であった場合はカスハラに該当し、その場合は純然たる態度をもって対応しましょう。

カスハラの事例とそれぞれの犯罪行為について

悪質なカスハラは犯罪行為です。

犯罪に発展した際は、警察や裁判所を通じて紛争を解決することが望ましいです。カスハラに関連する犯罪についての知識を持つことは、緊急時に冷静に行動するための支えとなります。ここで、よくある違法行為について確認してみましょう。

脅迫罪

人を脅して恐怖を感じさせる行為は、脅迫罪に当たることがあり、この場合、最大2年の懲役か30万円以下の罰金が科される可能性があります。

脅迫罪に該当する行為

脅迫罪の例として考えられるのは、相手が謝罪して適切な賠償を提案しているにも関わらず、大声を上げたり物を壊したりして「それだけでは納得できない」としつこく要求するような行為です。

具体的な言動事例

「俺は客だ!この店は何を考えてるんだ!(机を叩いたり、壁を蹴ったりする)」
「担当者の名前は覚えたぞ。既にあちらの人たちと話は済んでいるからな」

恐喝罪

脅迫を使って相手を怖がらせ、金品を強要する行為は、最大10年の懲役刑に問われる恐喝罪に該当する可能性があります。脅迫罪との主な違いは、金品の要求の有無です。

恐喝罪に該当する行為

「インターネット上で悪評を広める」「上司に報告する」などの脅しをかけ、不当な見返りや金品を要求する行為。

具体的な言動事例

「謝罪だけで済ませるつもり?最低でも慰謝料として100万円は必要だよ」
「この件を公にしたくないでしょ?『適切な誠意』を示すことが常識だよね?」

強要罪

脅迫や暴力を使って、相手に義務のないことを強要する行為は、最大3年の懲役刑に問われる強要罪に該当する可能性があります。

強要罪に該当する行為

単なる謝罪では納得せず、相手に「土下座」や「謝罪文の提出」、「関係者の辞職」などの義務を超えた行動を強いたり、達成不可能な償いを要求したりする行為。

具体的な言動事例

「さあ、今ここで土下座しろ!」
「今すぐここで謝罪文を書いて、他の客に聞こえるように読めよ」

威力業務妨害罪

威力を用いて業務を妨害した場合、最大3年の懲役か50万円以下の罰金の対象となる威力業務妨害罪に該当する可能性があります。

威力業務妨害罪に該当する行為

大声で叫んだり、机を叩いたり蹴ったりして、その場にいる人々を怖がらせたり、迷惑をかけたりしながら、自分の要求を強引に通そうとする行為。

具体的な言動事例

「(机を激しく叩きながら)おい、聞いてるのか?どうするんだよ!」
「(周りの人々に向かって大声で)お客様に対してこんな態度を取るんですか?」

不退去罪

合理的な理由がないにもかかわらず、他人の敷地内に無断で居続ける行為は、最大3年の懲役か10万円以下の罰金の対象となる不退去罪に該当する可能性があります。

不退去罪に該当する行為

嫌がらせや圧力をかける目的で、「要求が受け入れられるまで帰らない」と主張し、オフィスや店舗などに無断で居座り続ける行為。

具体的な言動事例

「俺は客だぞ?客に向かって『帰れ』って何だよ!」
「本部の責任者が来るまでここで待つよ。閉店時間?そんなの関係ない!」

カスハラ対応・クレーム対応のプロセス

カスハラ対応・クレーム対応のプロセス

上記でも述べたように、カスハラには純然たる態度をもって対応しましょう。
カスハラ対応、クレーム対応には適切なプロセスがあります。以下の手順で対応を行えば、スムーズに事態を把握し、対策を練ることが可能です。

  1. 【聴取】顧客の主張のヒアリングを行う
  2. 【調査】聴取を踏まえ、客観的事実関係の確認を行う
  3. 【判定】調査を踏まえ、法的責任についての判定を行う
  4. 【回答】判定を踏まえ、回答を行う
  5. 【正当クレームの場合:履行と再発防止】 回答した内容を履行し、正当クレームの内容を社内にフィードバックする

    【不当クレームの場合:反復と法的措置】既存の回答を繰り返し反復し膠着状態を作る。これで解決しなければ、仮処分等の法的措置を検討する。

まずは、何があったのか事実関係を整理し、顧客がどうして欲しいのか要望をしっかりヒアリングします。丁寧な対応を心がけ道義的な謝罪を挟みつつ相手の感情を穏やかにし、聴取に徹して曖昧な回答や意見は控えましょう。記録化することも大事です。

調査では、顧客の要求の裏付けや客観証拠を確認します。従業員やその他関係者に対して聞き取りをし、レシートや診断書などの物的証拠があるかも確認します。

調査内容を元に、顧客の要求が正当か不当かのジャッジをします。法的責任の有無を判定し、法的責任を踏まえた上で企業がとるべき対応を決定します。担当者だけで判断せず、組織的に対応するようにしましょう。

こちらの記事では、カスハラ対応のプロセス・ステップを更に深堀して解説しています。合わせてご覧ください。

クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を!謝罪の区別と4つのステップ対応

判定によってとるべき方法は異なりますが、どちらであっても適切に、丁寧な対応を心がけるようにしましょう。

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カスハラ対策で企業が取るべき6つの方法

カスハラ対策の6つの方法

企業や団体は、従業員や会社全体を守るためにも、カスハラに対して事前の対応準備をしておく必要があります。それでは、いったいどのような対策を講じれば良いのでしょう。

以下は企業が行うべきカスハラ対策の6つの項目です。

  • 基本方針の決定
  • マニュアル・対応フローの作成
  • 相談窓口(コールセンター)の設置
  • 被害者への配慮のための取組
  • カスハラ対策に関する研修の実施
  • 事例の蓄積とアップデート

どれも非常に重要な施策なので、それぞれ順に解説していきます。

基本方針(ガイドライン)の策定

クレームは企業(団体)の活動に対する避難や要求です。そのため、クレーマーに対しては「組織としての回答」を行わなければなりません。この前提がないと、クレーマーは自身の要求を通すため、「上司を出せ」「人事部と話がしたい」「社長に繋げ」などの担当者の変更を希望し、クレームは延々に続く可能性があります。

こういったことを未然に防ぐためも、マニュアル作成の前に、会社としての基本方針を策定しておく必要があります。

まずは企業のトップや経営陣が、企業としてカスハラに毅然とした対応をすることを決意し、従業員に周知していきましょう。

企業にとって顧客は非常に重要な存在で、たとえ要求内容が不当クレームであったとしても、売上や企業の印象、評判を考えた結果、応じることもあるでしょう。会社のトップや経営陣は、経営方針や経営理念、行動理念に照らし合わせながら、企業を取り巻く環境を踏まえた上で、事前に基本方針を定めておきましょう。

なお、妥当性のないクレームに応じるとしても、担当従業員の心身に配慮する必要はあります。

相談窓口の設置

基本方針を定めても、カスハラ被害にあった担当者が「誰に相談すれば良いのかわからない状態」では意味がありません。そこで、カスタマーハラスメントに対して気軽に相談できるような、相談体制を整備することが必要です。

一時的な相談担当者は、顧客担当者と物理的・心理的距離が近い一定の役職者にすると良いでしょう。

また、実際にカスハラに直面した時だけでなく、カスハラに発展しそうな場合や、不当クレームに当たるか判断がつかない場合も含めて、幅広く相談できる相談窓口の設置も重要です。

なお、相談窓口はカスハラに限定したものである必要はありません。セクハラ、パワハラ等を取り扱うハラスメント相談窓口として、社内関係者(人事労務部・法務部門等)や外部関係機関(弁護士等)と連携を取りやすくすると良いでしょう。

相談窓口の設置により、従業員の心理的負担は緩和され、安心して働いてもらうことが期待できます。

クレーム対策・カスハラ対策マニュアルの作成

カスハラ、クレームに対応する可能性がある従業員に対し、クレーム発生時に「正当クレームか不当クレームか」、「実際にクレーマーにどのような対応をとるべきか」等が想定できるよう、マニュアルを作成し周知することも重要です。

企業ごとにクレームの実例と、今後発生する可能性のあるクレームを事例としてあげ、それに対する適切な対応や回答を記載したマニュアルを作成すると良いでしょう。

また、先述した「クレーム対応の適切なプロセス」を参考に、実際にクレームに対応した従業員が、

誰に(どの部署に)報告し、 
誰が客観的な事実関係を確認し、
責任の判定をし、
会社としての回答を決定するのか、

取り決めておくとスムーズでしょう。

参考として、カスハラ対策マニュアルの目次案を作成しました。是非、ご活用ください。

被害者への配慮のための取組

カスハラ対応は負担が大きく、当人も気づかぬうちに、深刻な精神ダメージを受けていることも少なくありません。

そのため、企業は従業員がカスハラに直面した場合、早急に被害を受けた従業員に対する配慮の措置を行う必要があります。従業員の安全の確保の他、カウンセリングなど精神面への配慮を行う体制も築いておきましょう。

この取組を疎かにすると、従業員の会社に対する信頼感が薄れるだけでなく、従業員は精神的なストレスにより、休職や離職のリスクがあります。

カスハラ対応の研修

カスハラマニュアルを作成し周知しただけでは、意味がありません。マニュアルを読んでいたとしても、実際の現場では、行動に移せないことも想定できます。そこで、マニュアルの策定に加え、従業員に対しカスハラ対応の研修を行うことが重要です。

研修は、個々の従業員へのクレーム対応技能を定着させる、効果的な内容である必要があります。具体的にはロールプレイングが最も効果的です。担当者とクレーマー役を分けて、実際に演じてもらいましょう。

なお、研修については、現場担当者や相談対応向けの研修とは別に、経営層や法務部向けの研修も行った方が良いです。可能な限り関係者全員が受講し、かつ定期的に実施するようにしましょう。

事例の蓄積とアップデート

カスハラの対応は、一朝一夕でできるものではありません。そのため、一つ一つカスハラ事例を蓄積し、分析し、共有し、日々改善していく必要があります。

マニュアルや研修の内容も、定期的に見直しましょう。

まとめ

カスハラ対策についてのまとめ

カスハラやクレームは、担当の従業員だけが気にすればよい問題ではありません。カスハラを軽視し、何ら対策を講じなければ、やがてそれは組織全体に悪い影響を及ぼします。

まずは企業のトップや経営陣が、カスハラに対する認識を改め、企業としてカスハラに毅然とした対応をすることを決意し、周知しましょう。企業として基本方針や姿勢を明確にすることは、従業員を守ることに繋がり、安心して業務を進めることができるのです。

もし、カスハラやクレームでお困りごとがあれば、我々にご相談ください。

マニュアル作成から、企業内研修、クレーム対応まで、さまざまな業界・業種で実績をあげてきた弁護士が、企業の抱えるハラスメント問題を解決致します。

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香川 希理(香川総合法律事務所)
香川総合法律事務所は、カスハラ問題やクレーム対応など、企業法務全般を得意とした法律事務所です。東京の銀座にて、多くの企業様の法的サポートを行っています。マニュアル策定、企業研修、契約書の見直し、クレーム対応等、お困りごとがあればお気軽にご相談ください。カスハラの著書・講演多数の実績ある弁護士が、お客様のお悩みを解決致します。