東京都カスハラ防止条例成立(2024/10/04)

 10月4日の東京都議会本会議で、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が全会一致で可決・成立しました。カスタマーハラスメント(以下カスハラ)を禁止する条例としては全国初となります。

 条例は、カスハラを「顧客らから就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義し、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と明記しています。

 対象は都内事業者、都内で業務に従事する者、顧客等で、各主体ごとに責務を定めています。事業者はカスハラ被害者となった従業員の安全確保と共に、カスハラの中止申入れなど適切な対応に努める責務を負います。

 また、都は事業者への情報提供、啓発や助言その他必要な施策を行い、別途カスハラ防止に関する指針を定めるものとしています。

 条例は罰則の無い理念条例で、来年4月1日から施行されます。

東京都カスハラ防止条例全文

   東京都カスタマー・ハラスメント防止条例


 東京は、多様な産業と高度な都市機能とが集積した世界有数の都市であり、日本の首都として、我が国の経済を牽引している。その基盤は、多岐にわたる仕事を通じて発揮される人の力である。東京が今後も持続的に発展していくためには、働く全ての人が持てる力を十分に発揮することにより、事業者が安定した事業活動を行い、誰もが等しく豊かな消費生活を営むことができる環境を創出していかなければならない。
 そのためには、働く人の安全及び健康を害する様々なハラスメントを未然に防止する必要がある。とりわけ、顧客等からの著しい迷惑行為であるカスタマー・ハラスメントは、働く人を傷つけるのみならず、商品又はサービスの提供を受ける環境や事業の継続に悪影響を及ぼすものとして、個々の事業者にとどまらず、社会全体で対応しなければならない。また、東京で働く人に影響する様々な手段によるカスタマー・ハラスメントを、東京都の区域内にとどまらず、あらゆる場面で防止することが重要である。
 もっとも、顧客等による苦情や意見、要望は、業務の改善や新たな商品又はサービスの開発につながるものであることは言うまでもない。また、働く人は、商品又はサービスを提供する就業者であると同時にそれらの提供を受ける顧客等でもあり、 誰もがカスタマー・ハラスメントを受ける側にも行う側にもなり得るという視点も不可欠である。
 東京都は、このような認識の下、顧客等と働く人とが対等な立場において相互に尊重する都市をつくりあげるとともに、カスタマー・ハラスメントのない公正かつ持続可能な社会を目指し、この条例を制定する。

(目的)
第一条 この条例は、カスタマー・ハラスメントの防止に関し、基本理念を定め、東京都(以下「都」という。)、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策(以下「カスタマー・ハラスメント防止施策」という。)の基本的な事項を定めることにより、顧客等の豊かな消費生活、就業者の安全及び健康の確保並びに事業者の安定した事業活動を促進し、もって公正かつ持続可能な社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 一 事業者 都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。) を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人をいう。
 二 就業者 都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)をいう。
 三 顧客等 顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係する者をいう。
 四 著しい迷惑行為 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。
 五 カスタマー・ハラスメント 顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。

(基本理念)
第三条 カスタマー・ハラスメントは、顧客等による著しい迷惑行為が就業者の人格又は尊厳を侵害する等就業環境を害し、事業者の事業の継続に影響を及ぼすものであるとの認識の下、社会全体でその防止が図られなければならない。
 カスタマー・ハラスメントの防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨としなければならない。

(カスタマー・ハラスメントの禁止)
第四条 何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。

(適用上の注意)
第五条 この条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。

(都の責務)
第六条 都は、第三条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、顧客等、就業者及び事業者に対し、カスタマー・ハラスメントの防止に関する情報の提供、啓発及び教育、相談及び助言その他必要な施策を行うものとする。

(顧客等の責務)
第七条 顧客等は、基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、就業者に対する言動に必要な注意を払うよう努めなければならない。
 顧客等は、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めなければならない。

(就業者の責務)
第八条 就業者は、基本理念にのっとり、顧客等の権利を尊重し、カスタマー・ハラスメントに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動をとるよう努めなければならない。
 就業者は、その業務に関して事業者が実施するカスタマー・ハラスメントの防止に関する取組に協力するよう努めなければならない。

(事業者の責務)
第九条 事業者は、基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めなければならない。
 事業者は、その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
 事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

(区市町村との連携)
第十条 都は、カスタマー・ハラスメント防止施策の実施に当たっては、特別区及び市町村との連携を図るよう努めるものとする。

(カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針の作成)
第十一条 都は、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(以下「指針」という。) を定めるものとする。
 指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 一 カスタマー・ハラスメントの内容に関する事項
 二 顧客等、就業者及び事業者の責務に関する事項
 三 都の施策に関する事項
 四 事業者の取組に関する事項
 五 前各号に掲げるもののほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な事項
 都は、指針を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、これを公表するものとする。

(財政上の措置)
第十二条 都は、カスタマー・ハラスメント防止施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。


(施策の推進)
第十三条 都は、指針に基づき、次に掲げるカスタマー・ハラスメント防止施策を実施するものとする。
 一 都の支援事業等に関する情報の提供
 二 カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動に関する啓発及び教育
 三 就業環境に関する相談及び助言
 四 消費生活に関する相談及び助言
 五 就業者の安全及び健康の確保に関する相談及び助言
 六 前各号に掲げるもののほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な施策
 都は、カスタマー・ハラスメント防止施策を効果的に推進するため、カスタマー・ハラスメント防止施策の実施及び当該実施状況等の検証に当たっては、関係機関等の意見を聴き、施策に反映するよう努めるものとする。


(事業者による措置等)
第十四条 事業者は、顧客等からのカスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
 就業者は、事業者が前項に規定するカスタマー・ハラスメント防止のための手引を作成したときは、当該手引を遵守するよう努めなければならない。
附則

(施行期日)
 この条例は、令和七年四月一日から施行する。

(検討)
 都は、社会環境の変化及びこの条例の規定の施行の状況その他カスタマー・ハラスメントの防止に関する取組の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

(提案理由)
 公正かつ持続可能な社会の実現に寄与するため、カスタマー・ハラスメントの防止に関し、基本理念を定め、東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策の基本的な事項を定める必要がある。

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
ABOUT US
香川 希理(香川総合法律事務所)
香川総合法律事務所は、カスハラ問題やクレーム対応など、企業法務全般を得意とした法律事務所です。東京の銀座にて、多くの企業様の法的サポートを行っています。マニュアル策定、企業研修、契約書の見直し、クレーム対応等、お困りごとがあればお気軽にご相談ください。カスハラの著書・講演多数の実績ある弁護士が、お客様のお悩みを解決致します。