「土下座しろ!」「今すぐ責任者を出せ!」 目の前で激昂するクレーマー。
罵声を浴びせられ、身の危険を感じながらも、「警察を呼んだら大げさになるかも」「逆恨みが怖い」とカスハラで警察への通報をためらっていませんか?
その迷いが、あなた自身と大切なスタッフを危険に晒しています。悪質なカスタマーハラスメント(カスハラ)は、単なる「接客トラブル」ではありません。刑法上では犯罪と見做されます。
万引き犯を見つけたら警察に通報するように、店内で暴れる相手を通報することは、決して「逃げ」でも「過剰反応」でもありません。企業として当然行うべき「正当防衛」であり、従業員を守るための「義務」なのです。
しかし、いざ110番しようとすると「本当に呼んでいいのか?」「警察になんて言えばいいのか?」と足がすくむのが人間です。
この記事では、カスハラ通報の基準となるべき「具体的なボーダーライン(数値基準)」と、警察に確実に動いてもらうための「110番トークスクリプト」、さらには通報後の取り調べや報復対策までを網羅的に解説します。
この記事を読み、「このラインを超えたら即通報」という明確な基準を持ってください。その自信が、いざという時にあなたの指を動かし、現場の安全を守る唯一の命綱となります。
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目次
カスハラで警察に通報していい!むしろ呼ぶべき理由

まず結論から伝えます。 「お客さま」であっても、法に触れる行為があればカスハラは警察を呼んでもいいですし、むしろ、躊躇なく毅然と警察に通報すべきです。
まだ多くの現場で「民事不介入だから警察は動かない」「客商売だから警察沙汰は恥だ」という誤解が根強く残っていますが、状況は劇的に変化しています。ここでは、なぜ今、躊躇なく警察を呼ぶべきなのか、その背景と理由を深く解説します。
警察庁も方針転換!民事不介入は過去の話
かつて警察は、店舗と顧客のトラブルに対して「個人間の揉め事」として消極的な姿勢を見せることがありました。しかし、コンビニやドラッグストア、公共交通機関などでの悪質クレーマー被害の急増、および社会的関心の高まりを受け、状況は一変しました。
警察庁は「悪質な事案には刑法を適用し、厳正に対処する」という方針へ大きくシフトしています。実際に、土下座の強要(強要罪)や長時間の居座り(不退去罪)、執拗なクレーム電話(偽計業務妨害罪)で逮捕されるケースも増えています。
現場が「これは犯罪だ」と判断し、適切に通報すれば、警察は民事トラブルではなく刑事事件として動いてくれます。警察は動かないのではなく、現場が『犯罪』として通報していないから動けないケースがほとんどなのです。
通報は従業員を守るための企業の義務
企業には、労働契約法第5条に基づき、従業員が安全に働ける環境を整える「安全配慮義務」があります。
もし、現場スタッフが恐怖を感じているのに、店長や本部が「穏便に済ませろ」「警察沙汰にするな」と通報を止め、その結果スタッフが暴行を受けて怪我をしたり、精神的ストレスでうつ病を発症したりした場合、どうなるでしょうか? 会社は「安全配慮義務違反」で、被害を受けた従業員から損害賠償を請求される可能性があります。実際に数千万円単位の賠償を命じられる判例も出ています。
また、一度でも毅然と警察を呼ぶことで、「あの店はすぐに警察を呼ぶ」「一線を越えたら許さない店だ」という噂が広まり、将来的な抑止力になります。カスハラ被害を警察に通報することは、目の前のトラブルを解決するだけでなく、未来のスタッフを守り、企業のブランドを守るための「投資」でもあるのです。
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カスハラで通報するための具体的なボーダーライン(数値基準)

「長時間って何分?」「悪質ってどのくらい?」
マニュアルに悪質な場合は通報と書いてあっても、現場は動けません。パニック状況の中で高度な判断を求めるのは酷です。
誰が見ても判断できる「数値化された判断基準(トリガー)」を設けることが重要です。 以下のいずれかに該当したら、問答無用で110番してください。
基準①退去命令を3回無視した(不退去罪)
店側(施設管理者)には、迷惑行為を行う客に対して「お引き取りください」と退去を求める権利(施設管理権)があります。この退去要請を無視して居座り続ける行為は、刑法130条の「不退去罪」(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)にあたります。
- ルール:「他のお客様のご迷惑になりますので、お帰りください」と3回警告しても従わない場合は、即通報。
- ポイント:1回目、2回目は丁寧でも構いませんが、3回目は「これ以上居座るなら警察に通報します」と明確な警告を含めてください。それでも動かないなら、その時点で犯罪成立です。
(参考条文:刑法 第130条(住居侵入等) | e-Gov法令検索)
基準②大声・怒号が10分以上続く(威力業務妨害罪)
大声で怒鳴り散らし、他の客が怖がって帰ってしまったり、電話対応ができなくなったりして「業務が止まった」場合、刑法234条の「威力業務妨害罪」(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
- ルール: 暴言の内容に関わらず、業務に支障が出るレベルの怒号が10分以上続いたら通報。
- ポイント: 「10分」というのはあくまで目安です。店内の雰囲気が凍りつき、他の業務が一切手につかない状態であれば、5分でも通報して構いません。重要なのは「威力(大声など)によって業務が妨害された」という事実です。
(参考条文:刑法 第234条(威力業務妨害) | e-Gov法令検索)
基準③身の危険を感じた瞬間(暴行・脅迫罪)
これは時間や回数に関係なく、発生した瞬間に通報です。
- 暴行罪(刑法208条): 殴る蹴るはもちろん、胸ぐらを掴む、水をかける、机を叩く、物を投げる行為も「不法な有形力の行使」として暴行罪になります。「怪我をしていないから」と我慢する必要はありません。
- 脅迫罪(刑法222条): 「殺すぞ」「火をつける」「夜道に気をつけろ」「お前の家族を痛い目に遭わせるぞ」といった、生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える告知。
- 強要罪(刑法223条): 土下座をさせる、無理やり念書を書かせる行為。
これらの行為があった場合、対話の余地はありません。即座に110番通報し、身の安全を確保してください。
カスハラで警察を確実に動かす110番通報トークスクリプト

いざ110番しても、伝え方を間違えると「ただの口喧嘩(民事)」と判断され、警察の到着が遅れるリスクがあります。通信指令室の警察官に「これは緊急の刑事事件である」と正しく認識させるためのトークスクリプトを用意しました。
NGワードは「クレーム」「トラブル」。正解は「犯罪」
- NG: 「お客さんと揉めていて困っています」「クレーム対応で困っています」
- 理由:「揉め事」や「クレーム」という言葉を使うと、警察は「民事トラブル(料金の不満など)」と受け取り、「介入しづらい(民事不介入)」と判断されるリスクがあります。
- OK:「店内で暴れている男がいます」「業務妨害を受けています」「暴行を受けました」
- 理由:「暴れている」「業務妨害」「暴行」といった言葉は、刑法上の構成要件を想起させます。「犯罪が起きている」と伝われば、警察は直ちに出動しなければなりません。
通報時の台本(スクリプト)
通報時は、以下の順序で端的に事実を伝えます。メモを見ながらでも構いません。
- 何があったか(罪名の示唆):「〇〇店です。店内で男性客が暴れています。威力業務妨害にあたります。すぐに来てください」
- 状況の詳細:「『殺すぞ』と脅迫し、什器を蹴り飛ばしています。スタッフに危険が及んでいます」
- 犯人の特徴:「40代くらいの男性、身長170cmくらい、黒のジャケットを着ています」
- 凶器の有無:「今のところ凶器は見えませんが、興奮していて危険です」
- 逃走の有無:「まだ店内に居座っています(または、〇〇方面へ逃走しました)」
【ポイント】 相手に悟られないよう、バックヤードから通報するか、スマホの「110番アプリ(文字や画像で通報可能)」を活用するのも有効です。また、セコムやココセコムなどの非常ボタンがある場合は、迷わず押してください。
(参考:警察庁「110番通報のポイント」)
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カスハラでの通報で警察が来るまでの10分間を生き残る対処法

通報してから警察が到着するまでの数分〜10分程度が、現場にとって最も危険で長く感じる時間帯です。この時間をどう凌ぐかが、被害を最小限に抑えるカギとなります。
相手を刺激せず証拠を残す「録音・録画」
警察が到着した際、犯人が「何もしていない」「店員が嘘をついている」とシラを切ることは日常茶飯事です。その時に最強の武器になるのが「客観的な証拠」です。
- 証拠保全:防犯カメラが作動しているか確認し、ボイスレコーダーやスマホで録音・録画を開始します。
- 告知の抑止力:「防犯のため、これ以降の会話は録音させていただきます」と告げることで、相手が「証拠が残る」と認識し、冷静になるケースもあります。ただし、さらに逆上しそうな場合は、隠し録りでも構いません(正当防衛としての秘密録音は適法です)。
他のお客様の誘導と避難経路の確保
- スタッフの安全:対応者以外はバックヤードへ退避します。対応者も、カウンター越しなど一定の距離を保ち、逃げ道を確保してください。絶対に密室(応接室など)に入ってはいけません。
- お客様の誘導:一般のお客さまを巻き込まないよう、「ただいまトラブル対応中です。危険ですので離れてください」と伝えて店舗外へ誘導するか、入店を制限します。
この間、相手への反論や説得は一切不要です。「警察を呼びましたので、到着するまでお待ちください」の一点張りで、時間を稼いでください(タイムアウト法)。
警察の到着後の流れとその後の対応

警察官が到着すると、現場の空気は一変します。しかし、ここで安心しきってはいけません。その後の対応次第で、相手が逮捕されるか、厳重注意で終わるかが決まります。
現行犯逮捕または任意同行の流れ
- 引き継ぎ:到着した警察官に状況を説明し、録音データや壊れた備品などの証拠を提示します。
- 連行:悪質性が高い場合、その場で「現行犯逮捕」されるか、警察署への「任意同行」が求められます。
- 厳重注意:逮捕に至らない場合でも、警察官から厳重注意を受けることで、多くの加害者は大人しくなります。
被害届の提出と「出入り禁止(出禁)」通告
警察に「まあまあ、相手も謝ってるし」と和解を促されることがありますが、悪質な場合は毅然と「処罰を望みます」「被害届を出します」と伝えてください。これが再発防止への強い意思表示になります。
また、その場での解決だけでなく、後日改めて内容証明郵便などで「出入り禁止」を通知しておくことが重要です。これにより、次にその客が来店した瞬間に「建造物侵入罪」や「不退去罪」で即時通報・逮捕できる法的根拠が完成します。
通報後のメンタルケア
警察対応が終わった後、対応したスタッフは極度の緊張から解放され、ドッと疲れが出たり、恐怖がフラッシュバックしたりすることがあります。管理者は「よくやった」「間違っていなかった」とスタッフの行動を全面的に肯定し、必要であれば産業医との面談を手配するなど、メンタルケアを徹底してください。
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カスハラでの通報に関するよくある質問(FAQ)
現場からよく寄せられる疑問について、カスハラ通報先の選び方など、さらに詳しく回答します。
カスハラをどこに通報すればよいですか?
身の危険を感じる緊急時は迷わず「110番」です。 緊急性がない場合(過去の被害や、今後の対策相談など)は、警察相談専用電話「#9110」にかけると、最寄りの警察署の相談窓口につながります。また、精神的な被害の相談や、会社が対応してくれない場合の相談先としては、厚生労働省の「総合労働相談コーナー」、弁護士などが適切です。
カスハラは警察を呼んでもいいですか?
はい、全く問題ありません。「カスハラ」という言葉がソフトに聞こえるかもしれませんが、その実態が暴行、脅迫、業務妨害など、刑法に触れる可能性がある行為であれば、それは犯罪です。
カスハラの訴え先はどこですか?
まずは社内の相談窓口(店長、エリアマネージャー、人事部など)へ報告しましょう。解決しない場合、または緊急の場合は、労働局の相談コーナー、弁護士、警察などが選択肢となります。「慰謝料を請求したい」なら弁護士、「相手を処罰してほしい」なら警察、「会社の対応を改善してほしい」なら労働局、というように目的によって使い分けましょう。
カスハラを警察に通報する基準は?
本記事で解説した通り、以下の3点が主要な基準です。
- 身の危険を感じた(暴行・脅迫・器物損壊)
- 業務が妨害された(大声・10分以上の居座り・電話の占有)
- 退去命令に従わない(3回警告しても帰らない)
クレーマーは警察を呼んでもいいですか?
単なるクレーム(商品への意見・要望)では呼べませんが、その手段が「悪質(暴言、長時間拘束、威嚇)」であれば、それはもはやクレームではなく「犯罪」であり、警察を呼ぶ正当な理由になります。
カスハラの証拠となるものは?
客観的な証拠があればあるほど、警察は動きやすくなります。
- 録音データ(音声): 暴言の内容、声の大きさ、執拗さがわかります。
- 防犯カメラ映像: 相手の行動、威圧的な態度、滞在時間がわかります。
- 対応記録: 日時、場所、相手の発言、こちらの対応を時系列でメモしたもの。
- メール・SNSのスクリーンショット: 文面での脅迫や誹謗中傷の証拠。
- 壊された物品の写真: 器物損壊の証拠。
- 医師の診断書: スタッフが怪我をしたり、PTSDになったりした場合の傷害罪の証拠。
労基に通報したら会社にバレますか?
カスハラ被害に対して会社が適切な対応をしてくれない場合、内部通報や労働基準監督署への通報を考えることもあるでしょう。労基署への通報は、原則として匿名性が守られます。相談員に「会社には名前を伏せてほしい」と伝えれば、配慮してくれます。
ただし、調査が入ることで、状況証拠(「あの件を知っているのは〇〇さんだけだ」など)から「誰が通報したか」推測される可能性はゼロではありません。絶対にバレずに解決したい場合は、まずは弁護士の無料相談などを活用し、慎重に進めるのも一つの手です。
カスハラを目撃した場合、第三者が通報してもいいですか?
はい、推奨されます。現場の従業員は恐怖で動けない場合があります。第三者(他のお客様)からの通報は、客観的な証拠としても有力です。東京都などの自治体では条例でカスハラ防止を推進しており、社会全体での監視の目が求められています。
公益通報とカスハラについて
企業が組織的にカスハラを隠蔽したり、適切な措置を講じない場合、公益通報として内部告発の対象となる可能性があります。コンプライアンス違反として通報窓口へ相談しましょう。
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まとめ|カスハラでの通報はあなたを守る命綱

ここまで、カスハラに対する警察通報の基準と手順を徹底解説してきました。
最後に、これだけは覚えておいてください。通報ボタンを押すことは、相手を攻撃することではありません。あなた自身と、あなたの大切な仲間を守るための「命綱」を引くことです。
迷ったら押してください。たとえ空振りでも構いません。警察が来て「事件ではない」と判断されたとしても、誰もあなたを責めません。「何もなくてよかったね」で済む話です。逆に、通報をためらって最悪の事態(怪我や事件化)になることだけは、絶対に避けなければなりません。
「何かあったら警察を呼ぶ」と決めておくだけで、現場の空気は驚くほど変わります。
【あなたの会社が今すぐ取るべきアクション】
- 基準の共有: 記事内の「数値基準」を参考に張り紙を作成し、バックヤードやレジ横に貼り出す。
- 通報訓練: 誰が通報し、誰が誘導するか、ロールプレイングを定期的に行う。
- 事前相談: 最寄りの警察署(生活安全課)に「こういうトラブルがあったら通報していいか」と相談に行き、顔つなぎをしておく。
準備こそが最大の防御です。毅然とした態度で、安全な職場を守り抜きましょう。
「通報フローをまとめた資料が欲しい」 「防犯対策について専門家に相談したい」
そのような経営者様・企業担当者様へ、私たちはカスハラ対策の専門家として、無料相談を実施しています。
カスハラ関連の著書出版・講演多数の実績ある弁護士が、企業の抱えるハラスメント問題を解決致します。
カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。
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