カスハラ・クレーム時の企業対応:撮影・録音問題への効果的なアプローチ

今日は、企業や店舗で働く皆さんが時々直面するかもしれない、カスハラや不当クレーマーへの対応方法についてお話ししたいと思います。

特に、不当な要求や不適切な態度を取る顧客とのやり取りを録音することについて、法的な側面や実務上の注意点を詳しく解説します。

どのようにして適切に録音を行い、その録音が後のトラブル解決にどのように役立つのか、また録音の際に注意すべき点は何かについても触れていきます。

また、後半ではカスハラや不当クレーマーに録音・録画されてしまった際の注意点や対処法についても解説して行きます。

では、さっそく詳細を見ていきましょう。

「誠意を見せろ」と曖昧な要求をするクレーマー・カスハラへの対応
「責任者を出せ」「上司を出せ」と要求する悪質クレーマー・カスハラへの対応方法
土下座を要求してくるクレーマー・カスハラの法的問題と対応方法

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カスハラ顧客やクレーマーに対し企業側が録音することの可否

カスハラ顧客やクレーマーに対し企業側が録音することの可否

カスハラや不当なクレーマーとの面談や電話の際には、その状況を録音することが推奨です。

不当なクレーマーが暴力行為、暴言、脅迫的な言動などを行った場合、後に刑事告訴や民事上の法的措置をとる際の証拠として残しておく必要があります。

しかし、相手方に無断で録音することが許されるのかについて、従業員の方々が気にされることが多いと思います。そこで、こちらの記事では、顧客の発言を録音することの可否についてわかりやすく説明します。

録音することを伝えるかどうか

まず、録音していることを相手方に伝えるかどうかを検討する必要があります。この点については、録音の目的に応じて、相手方に伝えるかどうかを使い分けるべきです。

証拠保全を目的とする場合

録音の目的が「証拠保全」にある場合、録音していることを伝える必要はありません。

例えば、繰り返し受けている悪質なカスハラやクレーマーからのクレームに対し、具体的な法的対応を検討している段階であれば、録音していることを伝えずに、脅迫的な言動などを証拠として保持することも重要です。

相手方への牽制を目的とする場合

一方、録音の目的が「相手方への牽制」にある場合は、録音していることを伝えるべきです。

特に、不当なカスハラやクレーマーからのクレームが激しい場合には、録音していることを伝えることが有効です。

不当クレーマーは、会話が録音されていることを知ると、自らのクレームが証拠として残ることを恐れて、話し方を変えることがあります。

しかし、録音していることを伝えると、「録音するな!」や「なぜ録音しているのか」という反応が返ってくることも予想されますが、その際には「あなたの発言を正確に理解するために録音させていただきます」と伝え、録音を続けて構いません。

無断録音・録画の証拠としての効力

訴訟において、カスハラやクレーマーからの不当な行動を記録した無断録音データを証拠として提出する際、プライバシー権の侵害や違法な証拠収集であるため、証拠能力がないと争われる可能性があります。

民事事件における裁判例

この点に関して、カスハラやクレーマーに関連する民事事件では、無断録音データの証拠能力を認めた裁判例が多く存在します。

例えば、東京高裁のある判決では、会社の人事課長を接待しながら自分に有利な供述を得るために行った無断録音について、「話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得るが、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準にするべき」と判断しました。

そして、このケースでは、録音されたテープは人格権を著しく反社会的な手段で侵害したものではないとし、証拠能力を認めました。

刑事事件における裁判例

刑事事件においても、カスハラやクレーマーからの不当な行動を記録した無断録音データの証拠能力を認めた裁判例は多数あります。

たとえば、詐欺被害者が相手方の説明内容に疑問を抱き、証拠とするために無断で録音したケースでは、録音テープの証拠能力を否定しないと判断されました。

また、松江地裁のある判決では、殺人未遂教唆事件において、一方当事者が相手方の同意なしに行った対話の録音について、「録音の目的、対象、方法等の諸事情を総合し、手続きに重大な違法があるかどうかを考慮して決定するのが適当である」として、本件事実関係の下では、録音テープの証拠能力を否定するべき違法な点はないと判断しました。

無断録音とプライバシー権について

企業がカスハラやクレーマーからの不当な要求に対して顧客のクレームを無断で録音することが、プライバシー権侵害として違法となるかどうかを検討しましょう。

プライバシー権は伝統的に「私生活上の事柄をみだりに公開されない法的保障・権利」と定義されており、私生活上の事柄が公表された場合に違法性が問題となってきました。しかし近年では、「自己に関する情報をコントロールする権利」として再定義されています(芦部信吾=高橋和之補訂『憲法 第七版』(岩波書店,2019年)124頁)。

公表を伴わない場合であっても違法性が問題になることがあります。ただし、企業が顧客のクレームを無断で録音することは、原則としてプライバシー権を侵害するとは考えられません。

なぜなら、企業にとってはクレームに対する適切な対応をするための録音の必要性があるためです。また、顧客にとっても企業がクレームの内容を適切に理解するためには、録音されることに一定の利益があると言えるからです。

無断録音と個人情報保護法

無断録音は、個人情報保護法に違反するかどうかも重要な問題です。

事業者が個人情報を取得する際には、原則としてあらかじめ利用目的を公表している場合を除き、個人情報を取得したら速やかに利用目的を本人に通知し、または公表しなければならないことになっています(個人情報保護法21条1項)。

しかし、上記の利用目的の通知や公表については、一定の場合には適用除外事由に該当することがあります(個人情報保護法21条4項)。

特に、カスハラやクレーマー対応のために無断で録音する場合には、個人情報保護法21条4項の適用除外事由に該当するため、利用目的の通知や公表をする必要はないと解されます。

具体的には、同法21条4項2号「利用目的を本人に通知し、または公表することにより当該個人情報取扱事業者の権利または正当な利益を害するおそれがある場合」や同法21条4項4号「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」に該当するとされています(『悪質クレーマー』39頁以下、日本弁護士連合会情報問題対策委員会編『Q&A個人情報取扱実務全書』(民事法研究会,2020年)98頁以下参照)。

これまで企業側が「録音」に関してどう対応すべきかを説明してきましたが、「録画」の場合にも類似の問題が存在します。録画を行う際にも、その必要性と相当性が認められれば、「証拠能力の問題」、「プライバシー権の問題」、そして「個人情報保護法の問題」を解決することが可能です。実際、多くの大手企業では、不当なクレーマーやカスハラに対処するために、専用の録画設備を備えた会議室を設けています。

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カスハラ顧客やクレーマーによる録音・録画への対処法

カスハラ顧客やクレーマーによる録音・録画への対処法

ここまでは、企業側が録音・撮影することについての注意点を解説しました。

しかし最近は、スマートフォンによる写真や動画の撮影が一般的になったため、クレーム対応中にカスハラやクレーマーからの不当な撮影を受けるケースが増えています。

特に、撮影された画像や動画がインターネット上に掲載され、問題が拡散するリスクがあります。このようなリスクを避けるために、ここからはどのような対策を講じるべきかについてご紹介します。

録音・録画されることのリスク

不当なクレーマーやカスハラ顧客によって担当者が写真や動画で撮影され、それがSNSなどに投稿されると、一度拡散された画像や動画を完全に削除するのは困難です。

法的措置を用いて投稿を削除することができたとしても、手続きには多くの時間と労力が必要であり、その間に被害が拡大する可能性があります。そのため、従業員が不当な撮影を受けることを未然に防ぐことが非常に重要です。

録音・録画を拒絶する法的根拠

クレーム対応中に顧客によって撮影された場合、肖像権、施設管理権、プライバシー権などを根拠に撮影を拒否する方法があります。

像権に基づく対応

憲法13条により保障される肖像権は、個人が承諾なしに撮影されない権利を含みます。

撮影行為が肖像権の侵害となるかどうかは、撮影の必要性や方法、目的、場所などが総合的に考慮されます。しかし、一般的に顧客による撮影は正当な目的を欠き、従業員の承諾もないため、肖像権の侵害と見なされることが多いです。そのため、顧客に対して肖像権を根拠に撮影の中止を求めることができます。

施設管理権に基づく対応

施設管理権は、建物や敷地の所有者・管理者に与えられた権利で、業務を適切に行うために必要な場合、撮影行為を制限することができます。

店舗や施設内での撮影は、その場の本来の目的に反し、業務の円滑な運営を妨げる可能性があるため、施設管理権を根拠に撮影を禁止することが可能です。

プライバシー権に基づく対応

プライバシー権は、個人が自己に関する情報をコントロールする権利であり、憲法13条の幸福追求権の一部として保護されています。

従業員が顧客に撮影された場合、それが公開されることによって生じるリスクを考えると、顧客による撮影は従業員のプライバシー権を侵害すると言えます。

ただし、撮影行為が正当な理由を伴う場合は、プライバシー権侵害が適法となることもありますが、一般的に顧客による撮影はこの条件を満たしません。したがって、顧客に対してプライバシー権を根拠に撮影の中止を求めることができます。

録音・録画されてしまった際の対応方法

カスハラやクレーマーによる撮影行為が強行的に続けられた場合、まずは冷静に対応し、撮影の中止を繰り返し求めることが重要です。

撮影がやむことがない場合は、対応を中断することも一つの方法です。

このような撮影拒否の姿勢を示していれば、顧客のスマートフォンに動画が残ったとしても、SNSにアップされた場合の炎上リスクは低くなります。万が一裁判に発展したとしても、謝罪をしていないため、自分が非を認めた証拠とはならず、裁判上のリスクも低いと言えます。

撮影された動画がSNSや動画投稿サイトにアップされた場合は、速やかに運営会社に削除を請求することが必要です。

削除請求だけでは問題が解決しない場合は、弁護士に相談し、顧客に対して肖像権侵害を理由に損害賠償請求を行うことも検討しましょう。さらに、投稿者が特定できない場合には、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律に基づいた発信者情報開示請求を行うことが考えられます。これらの法的措置の詳細については、第4章をご参照ください。

重要ポイント①:法的措置に関する経営判断
これまで説明したように、カスハラやクレーマーによる撮影や投稿に対して法的措置を取ることは可能です。しかし、企業が個人との間でどこまで法的措置を取るかは、経営上の判断となります。企業として、個人に対してどこまで対応するか、また、従業員の権利が侵害された際の対応方法など、撮影・録画された場合の方針を事前に検討する必要があります。

重要ポイント②:録音された際の対応
ここまで、主に相手方からの「録画」された場合の対応について説明しました。一方で、「録音」の場合は、秘密裏に行われることがあり、録音されていることに気づかないケースも多いです。そのため、拒絶するかどうかよりも、仮に「録音」されていても問題のないような対応を心掛けることが重要です。この点では、道義的な謝罪と法的な謝罪の使い分けなどが重要になります。

クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を!謝罪の区別と4つのステップ対応

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まとめ

まとめ

本記事を通じて、企業がカスハラやクレーマーによる不当な撮影や録音にどのように対応すべきかについて詳しく見てきました。

企業側の「録音」および「録画」の可否に関する問題から、法的措置の選択、プライバシー権と個人情報保護法に関する考慮まで、さまざまな側面を検討しました。特に、不当な撮影や録音に対しては、その必要性と相当性を基に適切に対応することが重要であることが分かりました。

実際の業務においては、事前にしっかりとした対策を講じ、従業員への教育を行うことが不可欠です。これにより、企業としての法的リスクを最小限に抑え、従業員および顧客の権利とプライバシーを守ることができます。

カスハラやクレーマーによる問題は、企業運営において避けられない課題です。しかし、適切な知識と対策を持つことで、これらの挑戦に効果的に対処し、企業の信頼と安全を保持することが可能です。

香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。

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