介護業界において、カスタマーハラスメント(カスハラ)は深刻な問題となっています。サービス提供者は日々、サービス利用者やその親族からの過度な要求や不適切な言動に直面し、精神的な負担を感じています。
本記事では、介護業界におけるカスハラの特徴や、実際のケーススタディを通じて有効な対応策を紹介します。カスハラに適切に対処するためのポイントを押さえ、サービス提供者としての業務を安心して続けられるようにしましょう。
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目次
介護業界のカスハラの特徴
ケーススタディを見ていく前に、まずは介護業界におけるカスハラの特徴を紹介します。
カスハラが長期化しやすい
介護サービス利用者(以下「サービス利用者」といいます)は、生活を維持するために必要だからこそ、介護サービスを利用しています。そのため、介護業界のカスハラ(カスタマーハラスメント)は、サービス提供者(以下「サービス提供者」といいます)がサービス利用者の生活を考慮すると、簡単にサービスを中止できない場合が多いです。その結果、カスハラが発生した場合、長期化しやすいという特徴があります。
サービス利用者がサービス提供者に不満を抱き、カスハラに発展したとしても、サービス提供者はその事情を踏まえ、ときには正義感から介護サービスを継続し、カスハラに耐え、精神的に消耗してしまうことが多いです。
介護業界では、どんなに言動に気を付けていてもカスハラが発生してしまうことがあり、どのように対応すれば従業員の精神的ストレスを減らせるか、また、カスハラを沈静化させることができるかという観点からの対策が重要になります。
サービス利用者および親族との間で誤解や摩擦が生じやすい
介護サービスは、生活に必要だからこそ利用されます。つまり、何らかの生活上の不自由が存在するため、サービス利用者は精神的ストレスが生じやすい状況にあります。
また、サービス利用者が精神的疾患を抱えていたり、認知症であったりすることも多く、これによりサービス提供者の説明やサービス提供の方法を理解できなかったり、コミュニケーションがうまく取れず、誤解や摩擦が生じやすいです。
さらに、サービス提供者はサービス提供に際して、サービス利用者の親族とも円滑なコミュニケーションをとることが求められます。しかし、サービス利用者の親族は介護疲れや経済的な負担で身体的・精神的ストレスを抱えていることが多く、心理的な余裕がない状況になりやすいです。
そのため、サービス利用者と同様に、サービス提供者とサービス利用者の親族との間でも誤解や摩擦が生じやすい特徴があります。
サービス提供者に対して甘えが生じやすい
介護サービスは、サービス利用者およびその親族とサービス提供者との間で継続的な人間関係を築きます。この関係は、サービス利用者およびその親族の生活に深く関連しているため、親密なものになりやすいです。その結果、サービス利用者およびその親族には、サービス提供者に対する甘えが生じやすくなります。
甘えが生じると、心理的なストッパーが外れ、サービス利用者およびその親族の欲求や不満が容易に表出され、自己中心的な言動が生じやすくなります。
例えば、サービス利用者が孤独を感じている場合、恋愛の対象とされることや、欲求によってセクシャルハラスメントの言動や行動が発生することもあります。
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介護業界におけるカスハラのケーススタディと対応方法
それでは、実際に介護業界におけるケーススタディを見ていきながら、どのように対応していけば良いかを解説していきます。なお、ポイントとしては以下が挙げられます。
介護業界におけるカスハラ事例①サービス利用者からのクレーム
サービス提供者は、何ら問題なく介護サービスを終えたにもかかわらず、サービス利用者から、介護サービス利用中に、けがを負わせられたとして、治療費と慰謝料を請求された。
サービス提供者はどのように対応すれば良いでしょうか。このようなケースでは、まず以下のポイントに注意して対応することが重要です。
1. 事実関係の確認
サービス利用者が問題としている介護サービスの記録を確認し、実際にけがを負わせた事実があるかどうかを確認します。記録を丁寧に見直し、事実関係をしっかり把握することが必要です。
2. けがを負わせた事実が認められた場合の対応
もし実際にけがを負わせた事実がある場合は、まず丁寧に謝罪します。その後、法的責任を評価し、必要に応じて適切な賠償を行います。ただし、慰謝料については、後日のカスハラ(カスタマーハラスメント)を防ぐために、サービス利用者の請求額をそのまま支払うことが必ずしも最善の対応ではないことを覚えておくべきです。
3. けがを負わせた事実が認められない場合の対応
もしけがを負わせた事実がない場合は、介護記録や介護方法に基づいて、合理的に説明します。サービス利用者の疾患等で説明が難しい場合は、家族に説明し、理解を得ることが重要です。家族からもサービス利用者に説明してもらうことで、円満に解決できる可能性があります。
また、サービス利用者が納得せず、さらにクレームが続く場合は、カスハラに発展しないように注意を促し、家族やケアマネジャー、行政機関と連携して対応を協議します。
それでもカスハラが続く場合は、サービスの利用停止も検討する必要があります。その際、カスハラの言動や行動の記録をしっかり残しておくことが大切です。
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介護業界におけるカスハラ事例②サービス利用者の親族からのカスハラ
サービス提供者は、サービス利用者の親族から、暴言を吐かれたり、サービス提供者の指示に従ってもらえなかったり、介護サービスを妨害されるなどしている。
次第に、介護サービスが継続困難となり、やむなく介護サービスの利用停止を考えざるを得なくなった。
この場合、サービス提供者はどのように対応すればよいでしょうか。
1. 事実関係の確認
まず、サービス利用者の親族からカスハラを受けるようになった場合、介護記録やケアマネジャー、関係行政機関からの情報収集により、原因を探り、サービス提供者に落ち度があるかどうかを確認する必要があります。
サービス利用者の親族が精神疾患を抱えていたり、介護による経済的・精神的負担を感じていたり、介護サービスへの理解不足など、さまざまな原因でカスハラが発生する可能性があります。
2. サービス提供者に落ち度が認められる場合
サービス提供者に落ち度がある場合は、まずその点について真摯に謝罪することが重要です。適切な謝罪を行った後でも、暴言が続く場合は、サービス提供者から暴言をやめるように通告し、それでも改善しない場合には、ケアマネジャーや関係行政機関からカスハラに当たることを指摘・指導してもらうことが考えられます。
また、後日、利用停止を選択せざるを得ない場合に備え、暴言等のカスハラの詳細や、それに対する対応を記録しておくことが重要です。サービスの利用停止事由が契約の解約理由に当たらないとして、親族から損害賠償を請求される裁判例もありますので、記録は慎重に残しておくべきです。
3. サービス提供者に落ち度が認められない場合
サービス提供者に落ち度がない場合は、原因を探り、それぞれの原因に対して適切なアプローチをとることが必要です。
具体的には、前述したサービス提供者からの通告、ケアマネジャーや行政機関からカスハラに当たることを指摘・説明してもらうことに加え、サービス利用者の親族が精神的・経済的負担を抱えている場合や介護サービスへの理解不足が原因である場合には、関係行政機関に相談し、親族に対するケアや行政給付の提供を支援してもらうことが考えられます。
それでもカスハラが止まらない場合は、利用停止を選択せざるを得ない場合もあるため、カスハラに当たる言動等の記録を残しておくことが必要です。
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まとめ
介護業界では、サービス利用者やその親族からのカスハラ(カスタマーハラスメント)がしばしば問題となります。介護サービスの提供者は、利用者の生活に深く関わっているため、簡単にサービスを中止することができず、カスハラが長期化しやすい特徴があります。また、利用者やその親族が精神的・経済的に余裕がない場合、誤解や摩擦が生じやすく、サービス提供者に対する甘えが生じやすい状況も見受けられます。
このような状況に対処するためには、日頃からサービス記録やカスハラの言動・行動の記録をしっかりと残し、適切な対応を取ることが重要です。事例を通じて学んだように、まずは事実関係を確認し、適切な謝罪や説明を行うことが必要です。また、必要に応じてケアマネジャーや関係行政機関と連携し、カスハラを防止するための対策を講じることが求められます。
香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。
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介護業界においては、厚生労働省から「介護現場におけるハラスメント対策」について、「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(平成31(2019)年3月)、「研修の手引き」(令和元年度)、「介護現場におけるハラスメント事例集」(令和3年3月)が既に出されています。
介護という特殊性から、協議解決が望ましい場合も多いですが、以下のような問題が発生します。
があります。
これらの理由から、サービスの記録や、カスハラ(カスタマーハラスメント)の言動・行動の記録、カスハラへの対応方法の記録を日頃から残しておくことが必要です。