【カスハラ・クレームの事例】スーパーや飲食店などの食品業界におけるケーススタディ

【カスハラ・クレームの事例】スーパーや飲食店などの食品業界におけるケーススタディ

スーパーや飲食店など、食品業界における顧客対応は、他のどの業界よりも独特の課題を抱えています。

特にカスタマーハラスメント(カスハラ)という形でのクレーム対応は、業界全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。消える商品、主観的な感覚に依存する評価など、食品業界が直面する特有の問題をどのように解決していくかは、企業の持続可能性と直接関連しています。

この記事では、食品業界でのカスハラの特徴と対策について、実際のケーススタディを交えながら詳しく掘り下げていきます。

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スーパーや飲食店などの食品業界のカスハラの特徴

スーパーや飲食店などの食品業界のカスハラの特徴

スーパーや飲食店などの食品業界のケーススタディを見ていく前に、まずは食品業界におけるカスハラの特徴や注意点を見ていきましょう。

商品は消滅するので証拠提供が難しい

どの業界でも、商品に関するクレームが発生した際には、該当商品を回収し検査することが一般的です。しかし、食品は消費されるとなくなってしまうため、「もう食べてしまった/飲んでしまった」と言われた場合、またはそのように主張された場合、物理的な調査が不可能となります。

たとえば、顧客が健康を害したと訴える場合、病院の診断書を提出してもらうことにより、ある程度事実関係を確認できます。しかし、「味が変だった」といった主観的なクレームに関しては、具体的な商品や写真がないと、その真偽を確かめる方法がありません。これは、証拠を提示するよう求める反論が悪質なクレーマーにはできません。

それにもかかわらず、「証拠がなければ対応できません」と一概に断ると、商品の不具合や改善の機会を見落とすリスクがあり、正当なクレームを提出した顧客に悪い印象を与えかねませんし、企業や商品のイメージダウンにつながることがあります。

このような状況では、従来のクレーム対応としては、性善説に基づき一律に対処することが多いです。たとえ商品に欠陥があったというクレームがあったとしても、物理的な現品がない場合でも、購入証明(レシートや写真など)があれば、返金を行い、謝罪をするといった対応をします。これは、初期の対応策として不合理ではないと考えられます。

無論、無条件の返金は避けるべきですが、食品業界では比較的に低価格であることが多く、一律の対応による金銭的リスクは小さいです。それに対し、個別のクレームに対応する際に必要とされる人的資源は膨大ですから、企業としては、小さなリスクを冒してでも労力を削減するのは合理的な選択と言えるでしょう。

ただし、カスハラを行う顧客は精神的満足を求めている場合が多いです。そのため、単一の返金対応だけでは満足せず、繰り返し要求を行うことがあります。現代のカスハラ対応では、従来の枠組みでは捉えきれない顧客ニーズにどう応じるかが重要な課題です。

カスハラ対策

顧客の主観面も踏まえて対応をする必要がある

食品は基本的に、顧客の五感、特に味覚に訴えかけて提供されます。例えば、電化製品などでは、消費電力の低さや処理能力の高さなどの客観的な数値が評価基準として機能しますが、食品業界ではこのような客観的な基準はあまり役立ちません。

食品メーカーは、重量が軽いという点を競争の主戦場にするわけではなく、味を最優先し、これを最も重要な評価基準として設定します。そのため、食品業界では常に、「顧客の感じ方」という曖昧で不確かな要素を重視して事業を行うことが前提とされています。

「食の安全」だけでなく「食の安心」への配慮も重要視される理由は、顧客が事業者の「安全である」という説明を信頼できなければ、食品の評価が下がり、購買意欲が低下するからです。この傾向は他業種にも見られますが、食品業界では特に顕著です。

食品業界に携わる者ならば、この点を肌で感じていることでしょう。

しかし、カスハラ対応の場面でこの実感が悪用され、過剰な対応が求められることもあります。そのため、事業者は顧客からのクレームに対してどこまで対応すべきか、懸念を訴える顧客に対してどのように応じるかという対応基準をしっかりと設定する必要があります。

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スーパーや飲食店などの食品業界のケーススタディ

スーパーや飲食店などの食品業界のケーススタディ

<事例>
菓子製造業者であるA社は、小売店を通じて全国的に商品を展開しています。ある日、A社のお客様相談室に、Bさんと名乗る人物から電話がありました。Bさんは、A社のスナック菓子(販売価格300円)を食べた後に気分が悪くなったと訴えました。すでに商品は食べ尽くされており、現物は残っていない状況です。

1. Bから治療費の負担を求められた場合,A社としてはどのように対応すべきか。
2. Bから商品代金の返金を求められた場合,A社としてはどのように対応すべきか。
3. Bが「商品回収をしろ」といった要求を繰り返す場合,A社としてはどのように対応すべきか。

それでは実際にケーススタディを交えながら、どのようにカスハラに対応していくべきか、見ていきましょう。

治療費負担の要求への対応

1. 病院での診療提案

A社としては、初めにBさんに病院での診察を受けるよう勧めます。もしBさんが費用面で不安を感じる場合は、A社が初診の費用を負担することも提案できます。この費用負担は商品の安全性を確認するためのものであり、「商品に欠陥がある可能性があるため治療費を支払います」と公言することは避けるべきです。

2. 治療費負担の拒否

もしBさんが受診を拒否し、治療費相当の金額の支払いを要求する場合、これはBさんが不当なクレーマーである可能性が高いと考えられます。診断書や領収書の提出を拒否する場合も同様です。このような場合、A社としては治療費の負担を行うべきではありません。

3. 医師の診断結果に基づく対応

Bさんが診療を受け、その結果として領収書や診断書を提出した場合、A社は事前の約束に従って費用を負担します。ただし、診断結果が異常を示さない場合には、診断書が提出されない限り、治療費の支払いは行いません。

4. 通院が必要となった場合の対応

診療の後、さらなる通院が必要になった場合、費用負担は慎重に考慮する必要があります。これは単なる調査を超えた損害賠償の可能性があるため、治療費が高額になるリスクも考慮する必要があります。そのため、容易に費用を負担するべきではなく、同じ製品や原材料に関連する他の健康被害情報を調査し、それを基に法的な責任を検討するべきです。

このように、食品業界におけるクレーム対応は、カスハラ対応を含めて非常に注意深く進める必要があります。

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商品代金の返金要求への対応

商品代金の返金要求への対応

商品代金の返金の検討

商品代金の返金については、理想的には治療費と同様に、調査を行った上で返金の必要性を検討するべきです。ただし、治療費と異なり、商品代金ははっきりとした金額がすでに把握されています。これにより、個々の事案について責任の有無を判断するコストと返金を行うコストを比較しやすくなります。したがって、例えば現品やレシートの確認を条件にして返金対応を行うのは、合理的な判断です。

返金対応の重要性

企業は商品の安全性を検証することが必要で、顧客のクレームはその重要なきっかけとなります。単に返金して問題を解決したと見なすのは適切ではありません。重要なのは、返金前に徹底した調査を行うことです。

コストと返金のバランス

例として挙げられるこのケースの商品価格は300円であり、返金にかかるコストは大きくはありません。従って、A社がBさんへの対応で費用対効果を考慮した結果、返金を行っても問題ないと判断することができます。

例外的な状況の考慮

ただし、一律に返金対応を行わない場合も想定する必要があります。返金要求が複数回に上る顧客の場合、その回数が増えるほど、虚偽の申告ではないかと疑う必要があります。このような状況では、一律に返金するのではなく、個別対応を行うべきです。つまり、顧客の主張する被害の事実が認められるか、そしてその事実が自社製品に起因するものかどうかを調査した上で返金対応を行うことが適切です。

商品回収要求への適切な対応方法

商品回収要求の基本方針

商品回収の要求については、基本的には受け入れる必要はありません。顧客の不安を理解することは大切ですが、企業は食品衛生法に従って適切な調査を実施し、その結果に基づいて必要に応じてのみ商品回収などの措置を取るべきです。

これは、客観的な証拠に基づき食品の安全性に実際の問題がある場合に限定されます。事実に基づかない個々の顧客の要求に基づいて商品回収を行うことは適切ではなく、この行動が顧客との契約上の義務違反につながることもありません。

不当な要求への対応

そのため、A社はBさんに、商品回収に関しては詳細な調査後に検討するという方針を明確に伝えるべきです。もしBさんがこの説明に満足せずに商品回収を繰り返し要求する場合、その要求が不当であると判断し、適切なクレーム対応が求められます。

この過程でA社はBさんを説得しようとするよりも、もしBさんが規制当局に報告したり、SNSで情報を拡散したりする事態に備え、充分な調査を行った上で正確な説明をした証拠を残すことが重要です。

このアプローチにより、食品業界でのカスハラ対応が適切に管理され、企業の評判を守りつつ、クレーマーに対して公正かつ効果的な方法で対応することが可能となります。

ポイント

・商品単価が比較的安く、顧客の数が多い業種であることから、一律の返金対応を行うことのメリットは大きい。ただし、例外的に個別対応を行う基準を設定しておく必要がある。

・健康被害の訴えがある場合、医師の診断を受けてもらうことは企業側にも対応方針の参考となるメリットがあるので、積極的に勧めてよい。ただし、費用負担については、損害賠償ではなく、「調査のために自社が負担する費用」という位置づけを崩さない。

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まとめ

【カスハラ・クレームの事例】スーパーや飲食店などの食品業界におけるケーススタディのまとめ

いかがでしたか?
食品業界におけるカスハラ対応は、その特殊性から様々な課題を内包しています。本稿では、消費される商品の性質から生じる証拠の提出の困難さ、主観的クレームへの対処、そしてカスハラ顧客の繰り返し要求など、業界特有の問題に焦点を当てて解説しました。

カスハラやクレーム対応は、食品業界に限らず多くの業界で重要な課題となっています。適切な対応が企業の信頼を保ち、顧客満足に直結するため、これらの挑戦に効果的に対処することが企業の持続可能性に寄与します。

香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。

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