【カスハラ・クレームの事例】小売業界におけるケーススタディ

小売業界では、日々多くの顧客との接点を持つ中で、さまざまなクレームや顧客からの嫌がらせ(カスハラ)に直面することがあります。これらに効果的に対応するためには、事前の準備と適切な知識が不可欠です。

本記事では、百貨店、アパレル、家電量販店など、小売業界でのカスハラ・クレーマーに遭遇した際の対処法を紹介し、商品に関する問題と対応に関する問題の区別、現場での直接対面時の対応、さらにはケーススタディを通じて実際の対応例を解説します。

これらのポイントを理解し、適用することで、小売業界の従業員や経営者は、カスハラやクレームによる影響を最小限に抑え、より良い顧客サービスを提供することが可能になります。

カスハラ対策
店舗・営業所で怒鳴る・暴言を吐くカスハラへの対応の必要性と方法

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小売業界でのカスハラ・クレーム対応のポイント

小売業界でのカスハラ・クレーム対応のポイント

小売業界におけるカスハラ対応のポイントでは、商品の不具合や従業員のサービスに関するお客様からのクレームや嫌がらせ(カスハラ)にどのように対応するかが重要です。

特に、「商品」関連のクレームと「対応」に関するカスハラを区別し、それぞれに適切な手法を適用することが求められます。

具体的な対策としては、事前に明確な対応基準を設定し、従業員が迷わずに対処できるようにすること、およびカスハラに対しては、解決を追求するよりも平和的な共存を目指すことが効果的です。

このセクションでは、小売業界で遭遇する可能性のあるカスハラの具体例と、それに対処するための戦略を紹介していきます。

「商品」と「対応」の違いを理解すること

小売業界で起こるカスハラは、扱っている商品や価格帯、お客様の層、営業時間などによってさまざまですが、大きく「商品」に関する問題と、「対応」に関する問題に分けられます。

前者は、商品に不具合があるというクレームが代表的で、後者は店員さんの応対に満足できなかったという意見が多いです。

「商品」が原因の場合は、お客様が受けた損害がはっきりしています。不具合のある商品を確認し、交換することで問題は解決します。このような対応は基本的なもので、もし商品に問題がないと判断される場合や、交換してもクレームが続く場合には、カスハラ対応に移行する流れがあります。これはあくまで一例ですが、どう対応するかに迷うことは少ないと言えます。

一方で、「対応」が原因のカスハラは、小売業界でよく見られ、悩みの種です。

多くの場合、カスハラクレーマーは「気分を害したから謝ってほしい」「お客様なんだから言うことを聞いて」といった、実際には損害がないにも関わらず対応を求めてきます。

これは法的に問題になることは少ないですが、個人の価値観に基づくため、解決を目指して対応するのが非常に難しいです。このようなクレームに対しては、解決を目指すよりも、平行線の状態を保つことを目指すべきです。

「商品」に関するクレームとは異なり、別の考え方が必要であり、そのための方針をしっかりと立てておく必要があります。

現場での直接対面とカスハラ対応の重要性

小売業で働いていると、お客様は店舗を訪れ、時には再訪します。これは、お客様が不満を持つ場合、直接その従業員に対応を求めることができるということを意味します。

カスハラ対応においては、このような直接の接触がもたらすリスクは非常に大きいと言えます。直接のやりとりがあると、第三者が間に入るチャンスが少なくなり、組織的な対応が難しくなります。この結果、従業員個人の判断に頼ることになり、企業としての方針から外れた対応をしてしまうリスクが高まります。

最悪の場合、カスハラの発生を企業が把握できずに、被害が続くことも考えられます。結果として、カスハラによる人的資源の無駄遣いや、労働関係上の責任問題が企業に降りかかることになります。

そこで、現場の従業員は、カスハラ対応の基本を学び、「この状況では一人で対応してはいけない」と判断できるくらいの知識と能力を身につけることが必要です。

特に小売業界では、お客様を引きつけるためのホスピタリティが重要であり、従業員が過剰に応対しようとするあまり、組織的対応につなげる基準を見誤る可能性があります。そのため、企業は明確で、少し厳しめの基準を設けることで、現場での個人による対応を最小限に抑えることが大切です。

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小売業界におけるカスハラ・クレームのケーススタディ

小売業界におけるカスハラ・クレームのケーススタディ

小売業界では、カスハラやクレーマーへの対応が重要な課題となっています。特に、「モノ」と「ヒト」に関するクレームは異なるアプローチが必要です。

「モノ」へのクレームの対応

商品に関するクレームでは、対応基準を明確に設定することが可能です。カスハラや不当なクレームを受けた際には、これらの基準をもとに、特別な対応を避けることが重要です。

「ヒト」へのクレームの対応

従業員の対応に不満を持つクレームでは、まず謝罪して状況を見極めます。謝罪後も納得が得られない場合は、実際には損害が発生していない可能性が高いため、対応を終了させることが適切です。

小売業界におけるカスハラ・クレーム事例①商品に欠陥があるとされる場合

小売業界におけるカスハラ・クレーム事例①商品に欠陥があるとされる場合

事例
A百貨店のサポートダイヤルに、Bさんと名乗る方から、「購入した雨傘が壊れた。不良品だと思うので、交換してほしい」との連絡がありました。Bさんは非常に怒っており、「普通に使っているのに壊れるなんておかしい」「早く対応して」と強く訴えています。

A百貨店として、どのように初動対応をするべきでしょうか?

A百貨店はBさんから商品を受け取り、検査を実施しましたが、商品に欠陥は見られませんでした。メーカーに確認したところ、その商品の耐用年数は3年とのことですが、Bさんが傘を購入されたのは10年以上前でした。したがって、雨傘の破損は経年劣化によるものと判断し、交換基準には該当しないとBさんに通知しました。しかし、Bさんは納得せず、毎日のように電話を繰り返しています。A百貨店としては、どのように対応すべきでしょうか?

初動対応について

「商品」に関するクレームがあった際には、その現品の調査・確認が非常に重要ですし、これが方針を決める上で役立つ手段となります。ですから、まずはお客様からその雨傘の提出を受けることを目指して対応するべきです。

ただし、お客様が非常に怒っている状態で、簡単には物を提出してもらえない可能性があります。これにより、従業員の間でどのように進めるべきかの迷いが生じがちです。つまり、クレームの解消を目指すためには物の提出が必要ですが、提出を求めること自体が「お客様の納得」を必要とするかもしれない、というわけです。

ここで企業側の責任は、従業員が迷わずに対応できるように具体的な小目標を設けることです。従業員は大きな「解決」を目指す必要はなく、小目標を達成することが求められます。たとえば、事前に「現物の確認ができなければ交換はできない」というルールを社内に設けておくことで、従業員はお客様に対して明確にそのルールを説明し、選択を求めることができます。

一部の方は、もしかすると商品に欠陥がある可能性がある状況でお客様に選択を迫ることがリスクだと感じるかもしれません。しかし、このような条件提示はお客様に直接的な損害を与えるわけではないため、これを拒否する行為自体がお客様が不当なクレーマーであることを示唆します。正当なお客様であれば、通常は拒否しないでしょう。さらに言えば、裁判を含む法的手段をとるにしても証拠が提示できないお客様がそれに踏み切る可能性は低いです。

以上のことから、A百貨店としては、交換基準をBさんに説明し、調査・確認をさせていただきたいとお願いすることになります。もしBさんがこれに応じない、あるいは謝罪をしても怒りが収まらない場合には、企業の「社内ルール」を根拠に対応を終了しても問題ありません。

納得が得られない場合の対応

民法では、商品が引き渡しから10年経過すると、契約不適合責任に関する請求権の時効が成立します。これは、商品に欠陥があってもなくても、A百貨店には交換に応じる義務がないことを意味します。

しかし、一律にこのような対応をすると、営業上の問題が生じるため、多くの企業では交換対応に関する基準を設けています。その基準には期間制限が含まれていることが一般的です。基本的に、これらの基準に従った対応をすることで問題はないはずです。

ただし、本事例のように不合理な要求をしてくる顧客の場合、基準に沿った回答をしても「誠意が見られない」「お客様のせいにしている」と不満を持続することが多いです。重要なのは、この段階で「解決」を追求しないことです。顧客のクレームが不当であること、そして、毎日のように電話をかけ続ける行為が不適切であることを認識する必要があります。

そのため、A百貨店としては、交換基準に該当しないという説明をした後でも連絡が続く場合は、Bさんに対して今後は電話に応じない旨を伝えることになります。

それでも連絡が止まない場合には、自社や弁護士名義での書面を送り、対応を正当化する証拠を作り、その後は一切応答しない方針を取ります。対応を打ち切る際のリスクは、A百貨店の交渉意思に関係なく解決を求める手段、つまり訴訟をBさんが起こす可能性がありますが、契約不適合責任の時効が経過しており、証拠も乏しいため、リスクは小さいと判断できます。

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小売業界におけるカスハラ・クレーム事例②|対人関係でのクレーム事例 ─ 誤った商品説明への対応

小売業界におけるカスハラ・クレーム事例②|対人関係でのクレーム事例 ─ 誤った商品説明への対応

事例
C店という家電量販店で、販売員のDさんがカメラについて説明していたとき、その説明を受けたEさんから「説明内容が間違っている」というクレームがありました。DさんはEさんに対してすぐに謝罪し、説明内容を訂正しましたが、Eさんは「自分はメーカーで働いており、このようなプロ意識のない対応は許せない。C店としての公式見解を示してほしい。それが示されるまで帰らない」と強く言いました。

この状況でC店とDさんはどのように対応すべきでしょうか。

クレームの分析

この事例のように、企業が何らかの間違いをしたことについて指摘された場合、まず謝罪をすることが必須です。そのミスが明らかな場合は、そのミスを認めて謝罪し、調査が必要な場合でもまずは道義的に謝罪することになります。

しかし、顧客Eの指摘が正しくても、販売員Dの間違った説明がEさんに何らかの実質的な損害を与えたわけではありません。

ですので、謝罪と訂正を超える何かを求めるのは不当な要求です。謝罪後も要求を続けるEさんの主張は、不当なクレームと解釈することができます。Dさんは責任者に連絡し、複数のスタッフで対応を行うべきです。

C店としては、事前に「間違いがあった場合でも、不当なカスハラやクレームには毅然とした対応をする」という方針を明確にしておく必要があります。これにより、ミスをした従業員が不当なクレーマーに長引く追及を受けることがないように注意が必要です。

クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を!謝罪の区別と4つのステップ対応

対応方法

Eさんはいわゆる「世直し型」のクレーマーで、強い正義感を動機としています。そのため、説得することは非常に難しいでしょう。

詳細な話し合いで満足する可能性もありますが、企業にとっては大きなコストがかかりますし、謝罪しても納得しない相手に対してそこまでの対応をする必要はありません。結局のところ、場合によっては現場からその人を排除する方針を立てるべきかもしれません。

民法555条によると、売買契約は財産権の移転と代金支払いの約束によって成立します。これは、商品がレジを通過し、代金が支払われた時点で売買契約が成立することを意味します。

そのため、C店がEさんを顧客として扱う義務は、実際には商品を販売する段階においてのみ発生します。謝罪をしても納得しない場合、「商品を販売しないのでお帰りください」と伝えることは可能です。

Eさんがこれを拒否した場合、C店は施設管理権を根拠に退去を求めることができ、拒否すると不退去罪に該当する可能性がありますので、その場合は警察に通報することも検討されるべきです。

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まとめ

【カスハラ・クレームの事例】小売業界におけるケーススタディのまとめ

いかがでしたか?

小売業界では、日々多くのお客様と接する中で、さまざまなクレームやカスハラ(顧客による嫌がらせ)に直面することがあります。

これらに効果的に対処するためには、「商品」に関する問題と「対応」に関する問題を区別し、それぞれに適したアプローチを取ることが重要です。

「商品」に関するクレームでは、明確な対応基準に基づいて迅速に解決を図り、カスハラ対応への移行を検討する必要があります。一方で、「対応」に関するカスハラは、個人の価値観に基づくため、解決を目指すよりも平行線の状態を保つことを目指すべきです。

現場での直接対面におけるカスハラ対応では、第三者の介入が難しくなるため、組織的な対応が求められます。従業員は、カスハラ対応の基本を学び、状況に応じて適切に判断できる能力を身につけることが必要です。また、企業は従業員が個人で対応することを最小限に抑えるための明確で厳しい基準を設定することが大切です。

小売業界でのケーススタディを通して、カスハラやクレーマーへの対応には、事前にしっかりとした対応方針を立て、全従業員が対応マニュアルを理解し、適切な研修を受けていることが重要であることがわかります。

カスハラやクレームは、企業にとって大きなリスクをもたらす可能性があるため、これらの事例から学び、より良い顧客サービスを提供することが求められます。

香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。

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