カスタマーハラスメント(カスハラ)は、従業員の心理的な負担を増加させるだけでなく、企業のブランドイメージにも悪影響を及ぼす可能性があります。
このような背景のもと、企業はカスハラ対策を真剣に考え、従業員を保護し、健全な職場環境を維持するための戦略を策定することが求められます。
本ブログでは、企業がカスハラ対応として取り組むべき重要なポイントを、実用的なアドバイスと共に紹介します。
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目次
カスハラ対応①企業の基本方針を明確にする
企業がカスタマーハラスメント(カスハラ)に関するマニュアルを作る前に、企業としての基本方針をはっきりと策定することは非常に重要です。
その理由は、企業のトップがカスハラに対して断固たる対応をすると決め、その方針を従業員全員に知らせない限り、具体的なマニュアルを作っても、従業員はカスハラの被害を上司に相談することが難しくなってしまうからです。これは、いわば「形だけの対策」になってしまいます。
厚生労働省が発行しているカスハラ対策マニュアルにも、企業が基本方針を明確にすることの大切さが記載されています。つまり、「企業として基本方針や姿勢を明確にすることで、従業員が企業に守られ、尊重されながら安心して業務に取り組むことができるようになります」と説明されています。
基本方針には、例えば以下のような要素を含めることが推奨されます。
各業界や企業ごとに基本方針を策定する際は、可能な限り上記の要素を取り入れると良いでしょう。これにより、カスハラだけでなく、インターネットを通じて発生するクレームや、クレーマーによる不当な要求に対しても、従業員がどのように対応すべきかのガイドラインを設けることができます。
カスハラ対応②相談体制の整備する
企業がカスタマーハラスメント(カスハラ)に関する基本方針を明確にしても、従業員が「誰に相談すればいいのか分からない」と感じる場合、その方針は意味をなしません。
そのため、従業員が安心してカスハラやインターネット上のクレームに関して相談できる体制を整えることが非常に重要です。これにより、従業員はどんな時にも適切な対応を取ることができ、クレーマーからの不当な要求に対しても毅然とした態度を保つことが可能になります。
1. 相談窓口(相談対応者)の設定
従業員がカスハラに遭遇した場合、最初に相談する相談窓口(相談対応者)は、物理的および心理的に距離が近い一定の役職者(例えば、支店長など)にすることが望ましいです。
これは、カスハラに対する初動対応が非常に重要であり、迅速かつ適切な初動対応によって、多くのクレームを未然に防ぐことができるからです。
初動対応を誤ると、さらなるクレームを引き起こすことになりかねません。そのため、従業員が信頼でき、容易に相談できる相談窓口の設定がカスハラ対策においては不可欠です。
本社担当部署の設定
支店長などを相談対応者として指名するだけでは、実質的には「支店単位でカスハラ対策を行ってください」という指示にすぎません。
これでは、支店ごとに対応にばらつきが生じ、カスハラやインターネット上でのクレーム対応に関しても、情報が本社に共有されず、統一的な対応が取れない恐れがあります。そのため、一次的な相談対応者に相談が入った後の制度を構築し、本社で各支店からのカスハラ事例を集積するシステムを確立することが重要です。
本社のどの部署がカスハラ対策に最適かを検討する必要があります。厚生労働省のカスハラマニュアルでは、人事労務部門や法務部門が推奨されていますが、カスハラやクレーマーからの不当なクレーム対応は、労働問題よりも「裁判外交渉」の性質を持つため、法務部門が適しています。法務部門は、クレームがカスハラに該当するかの判断を含め、法的な判断を伴う事案に対処する責任があります。
したがって、相談対応者用のマニュアル作成や研修を行い、スキルアップを図ることも必要です。カスハラ対応は裁判外交渉そのものであり、高度な法的判断を要するため、顧問弁護士からの助言を受ける体制も整えるべきです。一次的な相談対応者だけでなく、本社の相談対応者(法務部など)も設置し、カスハラ対応後に情報を蓄積、分析し、共有することが、日々の対応改善に繋がります。
カスハラ対策はすぐに成果が出るものではありませんが、適切な体制を整え、経験を蓄積することで、徐々に改善していきます。
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カスハラ対応③従業員(被害者)への配慮の取り組み
カスタマーハラスメント(カスハラ)やインターネットを通じたクレームに対応する際、第三者の視点からはさほど重大ではないと思われる事案でも、対象となる従業員自身は深刻な精神的ダメージを受けることがあります。
特に、責任感が強く、真面目な従業員ほど、クレーマーからの攻撃を深刻に受け止めがちです。
従業員(被害者)のメンタルヘルスへの対応
そのため、カスハラやインターネット上でのクレームに対する物理的な対応だけでなく、従業員のメンタルヘルスにも十分注意を払うことが重要です。メンタルヘルスが悪化すれば、休職や退職、最悪のケースでは自殺に至る可能性もあります。
従業員が精神的に不調であると感じたら、できるだけ早い段階で対応するべきです。具体的には、ストレス調査の実施、産業医やその他の産業保健スタッフによる面談、必要に応じて医療機関への受診を勧めるなど、適切な支援を提供する必要があります。
このようにして、カスハラやクレーマーから受ける精神的な圧力に対応するだけでなく、従業員のメンタルヘルスを守り、健康な職場環境を維持することが、企業にとって非常に大切な取り組みです。
従業員を一人で対応させない取組
カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応は、従業員のメンタルヘルスに深刻なダメージを与える可能性があるため、可能な限り従業員を一人で対応させないようにすることが大切です。また、インターネット上のクレームや不当なクレーマーとの交渉では、複数人での対応を原則とするべきです。その理由は、不当なクレーマーが従業員を孤立させ、自分に有利な交渉を進めようとする傾向があるからです。
さらに、カスハラの問題を従業員個人の問題ではなく、企業全体の問題として捉えることが重要です。たとえ特定のカスハラ事案で従業員に落ち度があったとしても、その従業員個人を責めるのではなく、企業全体としての対応を考えるべきです。優秀な従業員であってもミスは起こり得るため、カスハラ事案は企業全体で対応し、解決に努めるべきです。
このような取り組みにより、従業員はカスハラやインターネット上でのクレーム、不当なクレーマーからの攻撃に対しても、孤立することなく、企業全体のサポートを受けながら対応することができるようになります。これは、従業員だけでなく企業にとっても、より良い職場環境を作り出すためには欠かせない方針です。
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カスハラ対応④研修の実施
カスタマーハラスメント(カスハラ)に関するマニュアルを作成したとしても、カスハラへの対応は言うほど簡単ではなく、実際に行うのは難しいとされる分野です。そのため、マニュアルを作成しただけでは不十分であり、従業員がその内容を十分に理解し、適切に活用できるようにするための研修が必要です。
インターネット上のクレームや対面でのクレーマーからの威圧的な態度に直面しても、マニュアルの内容を頭に入れているだけでは、想定通りに対応できないことがよくあります。特に、企業側のミスが原因で始まるクレームでは、従業員は負い目を感じ、相手のペースに巻き込まれやすくなります。
これを防ぐためには、カスハラへの適切な対応技術を身につけることができる効果的な研修の実施が必要です。具体的には、ロールプレイングを用いた研修が最も効果的であり、従業員が顧客役と従業員役に分かれて実際に演習を行うことで、カスハラへの対処方法を学びます。また、実際のカスハラ事例を共有し、それらを基に反省点や改善点を見つけ出し、マニュアルの改定につなげることも大切です。
さらに、従業員や相談対応者向けの研修だけでなく、経営層や法務部門向けの研修も実施することが推奨されます。これは、安全配慮義務や配置転換など、現場の従業員には伝えるべきではないが、経営層や法務部門で扱うべき重要な問題もあるためです。
カスハラ対応⑤事例の蓄積とアップデート
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、一朝一夕には行えるものではありませんが、各カスハラ事例を丁寧に蓄積し、分析し、共有することで、日々の改善が可能です。このプロセスは、計画・実施・評価・改善のサイクルであるPDCAによって効果的に進められます。カスハラマニュアルも定期的に見直し、更新することで、従業員個人だけでなく企業全体の改善サイクルを回すことができます。
そして、更新したカスハラマニュアルの内容を従業員全員が理解し、適切に活用できるようにするためには、研修が必要となります。インターネット上でのクレームやクレーマーに対する対応も含め、以下の手順を毎年定期的に実施することが推奨されます。
- 事例の蓄積と分析
カスハラの事例を蓄積し、分析します。 - カスハラマニュアルの改定
分析した結果を基に、カスハラマニュアルを更新します。 - 研修の実施
改定したカスハラマニュアルの内容を社内全体に周知し、理解を深めるために研修を行います。これにより、実際の事例を基にした学習が促され、従業員一人ひとりがクレームやクレーマーに対する適切な対応方法を身につけることができます。
このように定期的な事例の分析、マニュアルの更新、そして研修の実施を通じて、カスハラ対策は日々改善されていきます。
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カスタマーハラスメント対策チェックシートの有効活用
厚生労働省が提供するカスタマーハラスメント(カスハラ)対策マニュアルには、「カスタマーハラスメント対策チェックシート」が含まれています。このチェックシートは、企業や従業員がカスハラやインターネット上のクレーム対応において、どのように進めていくべきかを検討するための大切なツールです。
チェックシートは、大きく分けて「企業のチェックシート」と「従業員のチェックシート」の二部構成になっています。企業のチェックシートは、主にカスハラ対策を推進する組織(例えば、法務部門)が、対策の漏れがないかをチェックするために使用します。
一方で、従業員のチェックシートは、カスハラに直面する可能性のあるすべての従業員に配布し、彼らが自己チェックを行うために用います。このプロセスを通じて、対策の不足や知識の不足が明らかになれば、カスハラマニュアルの見直しや研修の実施により、改善を図る必要があります。
さらに、企業はこのチェックシートをアンケートのように利用することも推奨されており、多くの企業では独自のカスハラに関するアンケートを定期的に実施しています。このように定期的に実施されるアンケートやチェックシートを通じて、従業員の声を集め、それをもとにカスハラマニュアルの改定や研修プログラムの充実を図ることが、非常に重要です。
クレーマーからの不当な要求や、インターネットを介したクレームに対する効果的な対応策を確立するためには、現場の声を反映させた取り組みが不可欠です。
ぜひ、皆さんも活用してみてください。
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まとめ
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、現代の企業運営において避けて通れない重要な課題です。企業が従業員を守り、安全で健全な職場環境を維持するためには、計画的かつ継続的な取り組みが求められます。
以下に、企業が実施すべき対策の中でも特に重要なポイントをピックアップしました。
- 基本方針の明確化
- 企業のトップからカスハラへの毅然とした対応姿勢を示す。
- カスハラの定義や企業の取り組み姿勢を全従業員に周知する。
- 相談体制の確立
- 明確かつアクセスしやすい相談窓口の設定。
- 従業員が安心して相談できる環境の整備。
- 従業員への配慮とサポート
- カスハラによる精神的ダメージへの対応とケア。
- 一人で対応させないためのチームアプローチの促進。
- 研修の実施
- カスハラ対応のための研修を定期的に行い、実践的な技術を身につけさせる。
- ロールプレイングや事例研究を通じて、実際の対応力を高める。
- 事例の蓄積とマニュアルの定期的な見直し
- カスハラ事例を蓄積し、分析、共有することで継続的な改善を図る。
- PDCAサイクルを活用して、対策の有効性を高める。
いかがでしたか?
香川総合法律事務所では、カスハラやインターネットを通じたクレームの対応、企業向けカスハラマニュアルの作成、従業員研修等のサポートを提供しております。カスハラやクレームにお困りの企業様は、ぜひご相談ください。
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・カスタマーハラスメントの具体的な内容
・カスタマーハラスメントを自社にとって重大な問題と捉える
・カスタマーハラスメントを決して放置しない
・カスタマーハラスメントから従業員を守る
・従業員の人権を尊重する
・インターネット上の不当な要求や言動を受けたら、周囲に相談するようにする
・カスタマーハラスメントに対しては、組織全体で断固とした対応を取る