クレーマーやカスハラを行う顧客の中には、代理人を立ててクレーム・カスハラを行うことがあります。
このような場合に会社はどのように対応すべきなのでしょうか。
この記事では、クレーマーやカスハラを行う顧客が代理人を立ててきた場合の対応方法についてお伝えします。
目次
代理人について知っておくべき法律問題
クレーマー・カスハラ顧客が代理人を立てる場合に、知っておくべき法律問題には次のようなものがあります。
代理人と交渉をする義務
代理人と交渉をする義務はありません。
そもそも会社は本人からのクレーム・カスハラであっても、対応する法的義務はありません。
そのため、代理人を立てたからといって、必ずしも交渉に応じなければならない義務はありません。
報酬を得て代理人となれるのは原則弁護士のみ
代理人の中には、報酬をもらっているケースがあります。
典型的なのは弁護士です。
ただし、法律の定めがない限り弁護士以外の者が和解契約のような法律事務を報酬を得て代理することはできないとされています(弁護士法72条:非弁行為の禁止)。
弁護士法72条に違反して、報酬を得て代理人として相手と和解の交渉をした者に対しては、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金刑となる旨規定されています(弁護士法77条3号)。
したがって、弁護士ではない代理人が報酬を得ている場合には、非弁行為である旨を主張することができます。
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クレーマー・カスハラ顧客が代理人を立ててきた場合に検討すべき事項
クレーマー・カスハラ顧客が代理人を立ててきた場合にどのような検討をすべきでしょうか。
1. クレーマー・カスハラ顧客が指定してきた代理人と交渉するかどうか
まず、クレーマー・カスハラ顧客が指定してきた代理人と交渉するかどうかを決めます。
上述の通り、代理人を指定してきたとしても、これに応じる義務はありません。
とはいえ、代理人と交渉した方が、企業としてはメリットが大きいケースがあります。
例えば、本人が感情的になってしまっているような場合に、冷静な代理人と交渉をまとめたほうが、話し合いがスムーズに行く可能性が高いです。
そのため、事態の収拾に代理人との交渉が役に立つのかを検討します。
2. 代理人と交渉する場合には法に違反していないか確認する
上述も通り、報酬を得て代理人となれるのは、法律の規定が無い限り弁護士のみです。
弁護士以外の者が法律の規定に基づかず報酬を得て代理人として介入してくる場合には、非弁行為となります。
たとえ代理人との交渉が事態の収拾に役に立つ場合であったとしても、非弁行為を行う者を相手にすることは、コンプライアンスの観点から慎むべきです。
代理人が暴力団員等であるような場合も同様です。
代理人として介入してきた者がいる場合には、代理人と交渉することが法に違反していないかの確認をすることも重要です。
代理人の性質ごとの具体的な対応方法
では、代理人として現れた者がどのような人かによって、対応方法を確認しましょう。
代理人が「弁護士」の場合
たとえ弁護士が代理人となったとしても、交渉に応じる義務が生じるわけではありません。
また、弁護士が受任したからといって、必ずしも顧客の要求が法的に妥当とは限りません。
しかし、代理人が弁護士である場合、弁護士を立てた顧客としては訴訟も辞さない覚悟で交渉をしてきている可能性があります。
そのため、訴訟リスクを考慮し、代理人との交渉に応じることも考えられます。
ただし、弁護士であると名乗っているだけでは、その者が本当に弁護士かどうかわかりません。
電話などで連絡を受けた場合には、当該弁護士の氏名・事務所名・事務所所在地などを確認しましょう。
弁護士の登録については、日本弁護士連合会のホームページで検索をすることができます。
その上で、弁護士から委任状の提示を受けるようにしましょう。
弁護士としての氏名をきちんと名乗らず、委任状の提示もしない場合には、弁護士でない者が弁護士を名乗って交渉をしている可能性もあります。
代理人が「認定司法書士」の場合
司法書士の中でも、法務大臣の認定を受けた司法書士については、簡易裁判所で扱う民事事件の代理をすることができます(司法書士法3条6号)。
この司法書士法の規定は、弁護士法72条に定められている例外です。
弁護士と同様に、司法書士も日本司法書士連合会のホームページで検索をすることができます。
代理人が「行政書士」の場合
行政書士は、行政書士法1条の2で権利関係や事実関係についての書面を作ることができることが規定されており、この書面を作成するための代理権があるとされています(行政書士法1条の3第3項)。
この権限を利用して、内容証明の作成を業務とする行政書士がいます。
そのため、企業に対するクレームや要望を内容証明で代理人として送ってくることがあります。
このような場合でも、行政書士が有している代理権は書面作成の代理権のみで、顧客の代理人として会社と交渉することができる権限はありません。
もし行政書士が代理人として交渉までしてきた場合には、非弁行為としての対応をすることになります。
代理人が「近親者」の場合
近親者などが代理人として交渉を求める場合もあります。
本人が感情的になっている場合には、近親者を代理人として扱うほうが、冷静に交渉ができる場合もあります。
このような場合には、近親者を代理人として認めても良いでしょう。
しかし、本当に本人に意思に基づく代理なのか、代理人と称する人が代理人本人なのかを確認する必要があります。
そのため、本人との関係性が疑わしい場合には、委任状の提示とともに、代理人の身分証明書の提示をしてもらうようにしましょう。
その他
いわゆる「事件屋」と呼ばれる、弁護士資格などをもたずに当事者の争いに報酬を得て介入する者が代理人として交渉を求めてきた場合には、拒絶すべきです。
また、代理人となる者が弁護士法72条に抵触することを意識せずに代理人となっているようなケースもあるので注意をしましょう。
例えば、宅地の購入をするのにトラブルになったケースで、不動産会社が代理人として交渉を求めてくることは、宅建業法でもこのような権限は認められていないため、非弁行為といえます。
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クレーマー・カスハラ顧客が代理人を立てたときの対応をマニュアル化しよう
以上を念頭に、会社としての対応をマニュアル化するようにしましょう。
クレーマー・カスハラ顧客への事前の対応の必要性
クレーマー・カスハラ顧客を想定した事前の対応は、
①業務効率化②従業員への安全配慮義務の履行
の点から必要であるといえます。
クレームやカスハラが発生するたびに、その対応について決めるのは効率的ではありません。
事前に準備しておくことによって、クレーム・カスハラが発生したときに迅速に対応をすることができます。
また、会社は労働契約を締結している従業員に対して、生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をする義務を有しています(労働契約法5条:安全配慮義務)。
クレーマーやカスハラへの対応は、非常に精神的な負担を伴い、精神疾患の原因になることや時には暴力事件になることもあります。
そのため、クレーム・カスハラへの対応をスムーズにできるように環境を整えておくことは、安全配慮義務の履行につながることになるといえます。
クレーマー・カスハラ顧客への対応をマニュアル化する
クレーマー・カスハラへの事前の備えとしては、対応方法についてマニュアル化をして周知・徹底・教育行っておくことが、厚生労働省のカスタマーハラスメント企業対応マニュアルでも推奨されています。
代理人との交渉を求めてくる場合も、上記の注意点を意識して、どのように対応していくかをマニュアル化するようにしましょう。
まとめ
本記事のまとめは以下の通りです。
- 代理人と交渉する義務はない
- 弁護士以外の代理人が報酬を受け取っている場合は原則として非弁行為にあたる
- 訴訟のリスクを考えること
- 「事件屋」との交渉は拒絶すること
代理人と交渉することがトラブル解決に役に立つ場合には、代理人と交渉することになります。
相手方に代理人がいる場合の対応方法についても、事前にマニュアル化をして誰でもいつでも対応できるようにしておきましょう。
香川総合法律事務所では、当該企業の実態に添った具体的なマニュアル作成及び実演を交えたコーチング研修等を行っております。クレーマー顧客対応や訴訟になった場合のシームレスな訴訟対応も可能ですので、クレーム対応に不安がおありの場合は是非ご相談ください。
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