土下座を要求してくるクレーマー・カスハラの法的問題と対応方法

土下座を要求してくるクレーマー・カスハラの法的問題と対応方法

不当なクレーム・カスハラとして土下座を要求してくる顧客がいます。

屈辱を強いる方法として、あるいは誠意ある謝罪の方法として土下座をしてもらうという考えを持っている人も少なくありません。

しかし、土下座を強いられた従業員の精神的ダメージは図りしれず、場合によっては精神疾患となることもあり、会社としての対策は必須です。

この記事では、土下座を要求してくるクレーマー・カスハラについて法的な問題と対応方法についてお伝えします。

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土下座をさせることの法的な問題点

土下座をさせることの法的な問題点

では、人に土下座をさせることには、どのような法的問題が発生しうるのでしょうか。

土下座を強いることは刑事罰の対象になり得る

人に土下座を強いることは、強要罪という犯罪となります。

強要罪(刑法223条)は、暴行・脅迫を用いて、人に義務の無いことをさせたり、権利を行使することを妨害した場合に成立し、3年以下の懲役刑となる旨規定されています。

謝罪の方法は自由なので、土下座を強いることは、義務の無いことをさせるものであり、強要罪にあたり得ます。

実際に、

衣料品チェーン店勤務の店員に土下座を強要し、その状況を撮影した画像をSNSにアップした事例で、強要罪・名誉毀損罪で略式起訴をされ、主婦に対して罰金30万円が科されたケース(週刊現代2013年10月26日号)

ボーリング場で店員に土下座を強要した事例で、被告人の前科を考慮して懲役8ヶ月の実刑判決を言い渡されたケース(大津地裁平成27.3.18判決)

家族の名前を間違えて呼んだ病院職員に対して、「殺したろか」という罵声を浴びせて土下座を強要した事件で、通報を受けた警察が強要罪・脅迫罪・威力業務妨害罪の疑いで逮捕したケース(2021年3月)

などがあります。

土下座をさせるようなケースでは強要罪以外にも犯罪が成立する可能性があるので後述します。

民事上の責任

人に土下座を強いる行為は、精神的苦痛を与えるため、土下座を強いられた従業員は、顧客に対して不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をすることが考えられます。

実際に、土下座を強要されたことで勤務先に出勤できなくなり、勤務先から解雇され、精神的苦痛を被ったとして、客に対して損害賠償請求をした事例で、10万円の慰謝料請求を認められた事例があります(東京地裁平成28.11.10日判決)。

また、店の営業妨害をされた場合は、会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求をすることも考えられます。

会社が従業員に責任を負うケースもあることに注意

土下座をさせた顧客と従業員との関係の他に、会社が従業員に対して責任を負うケースがあるので注意しましょう。

会社は従業員と労働契約を結んでいますが、労働契約法5条で会社は従業員の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をする義務があるとされています(安全配慮義務)。

会社として従業員に土下座を強いるような状況にならないように、適切な対応をしなければ、会社が安全配慮義務を問われて、損害賠償をする必要が出るケースも発生し得ます。

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従業員の土下座を強いるようなケースで成立しうる犯罪の種類

従業員の土下座を強いるようなケースで成立しうる犯罪の種類

従業員に土下座を強いるようなケースでは強要罪以外にも犯罪が成立し得ます。
では、どのような犯罪が成立しうるのかを確認しておきましょう。

脅迫罪(刑法222条)

生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知する脅迫を行った場合には、脅迫罪が成立します。

「土下座をしろ」と言うだけでは脅迫罪は成立しませんが、「土下座をしなければ殴る」と発言した場合には、身体に対して害悪を告知したことになり、脅迫罪が成立する可能性があります。

恐喝罪(刑法249条1項)

人を恐喝して財物を交付させた場合には、恐喝罪が成立します。「恐喝」とは、財物を交付することを目的として脅迫することをいいます。

ここにいう「脅迫」とは、「人をして畏怖の念を生ぜしめるに足りる害悪の通知であって人の反抗を抑圧する程度に至らない場合をいう」(東京高裁昭和31.1.14判決)とされています。

土下座をするように要求し、かつ金銭を要求した場合には恐喝罪が成立する可能性があります。

名誉毀損罪(刑法230条)

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合には名誉毀損罪が成立します。

従業員を土下座させた上でその様子を写真・動画に撮り、SNSで拡散したような場合には、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

威力業務妨害罪(刑法234条)

威力を用いて人の業務を妨害した場合には威力業務妨害罪が成立します。

「威力」というのは人の意思を制圧するに足りる勢力を意味します。

大声で土下座しろと怒鳴り続けることや、机や椅子を音を立てて叩き続けることも「威力」に該当します。

不退去罪(刑法130条後段)

要求を受けたにもかかわらず店や事業所・事務所などから退去しなかった場合には、不退去罪が成立します。

後述するように、相手方が土下座を要求し続ける場合には、退去してもらうなど毅然とした行動が必要となります。

「お引取りください」など退去を促したにもかかわらず、退去しない場合には不退去罪に該当します。

土下座を要求するカスハラ顧客・クレーマーへの対応方法

土下座を要求するカスハラ顧客・クレーマーへの対応方法

では土下座を要求する顧客に対して、どのような対応をすべきでしょうか。

土下座には応じない

まず、土下座に応じてはいけません。

上述したように、土下座を強いること自体が、民事上・刑事上の責任が問われる違法行為であり、そのような違法行為に応じる必要はありません。

また、土下座をしたからといって怒りが収まる保証はありません。

仮にその場は収まったとしても、今後さらに要求がエスカレートしてしまう可能性が否定できません。

自社に落ち度がある場合でも謝罪をすれば十分

仮に、自社に落ち度がある場合でも、落ち度について適切な対応をして謝罪をすれば足ります。

落ち度があることは土下座を強要して良い理由にはなりません。

事実関係が明らかでないうちは、「お客様を不快な気持ちにしてしまい大変申し訳ございません」「ご足労をおかけした点については申し訳ございません」など、従業員の責任を認めるような発言を避けながらも、相手怒りを和らげながら、「土下座はご容赦ください」と説得しましょう。

執拗に土下座を迫る場合には警察に通報する旨を伝える

以上のような対応をしても、「悪いと思っているならば土下座するべき」というような反論をしてくる場合もあり得るでしょう。

執拗に土下座を迫ってくる顧客の多くは、自分に非がない・土下座は顧客への誠意ある対応であると考えています。

そのため、それ以上納得しないのであれば、

  • 謝罪としては既に精一杯のものをしており、土下座はできない
  • それでも土下座を求めるならば退去してもらう
  • 退去しないのであれば警察を呼ぶ

ことを伝えましょう。

退去をしないことは不退去罪、土下座を強要していることは強要の未遂罪となり得ます。

経過によっては、暴行罪・傷害罪・脅迫罪・器物損壊罪などの犯罪が成立している可能性もあります。

警察に通報する旨を伝え、それでも土下座を要求したり暴れたりする場合には、迷わずに警察に通報するようにしましょう。

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土下座の要求には事前の備えが大事

土下座の要求には事前の備えが大事

土下座を要求する顧客はいつ発生するかわかりません。そのため、事前にしっかり準備をしておく必要があります。

防犯カメラ・ICレコーダーなど

防犯カメラの設置がない場合には、設置を検討しましょう。

防犯カメラは、土下座を要求する顧客への抑止はもちろん、万引き・強盗・従業員への暴力行為などあらゆる犯罪の抑止や証拠収集に役に立ちます。

従来は天井に設置するなどのタイプばかりでしたが、最近では家庭で子供やペットの様子を見守ることができる見守りカメラのようなものを、受付の机の上に置いておくことで防犯カメラの代わりに使用することも考えられます。

また、ICレコーダー等の録音機器は、発言や現場で発生した音などを録音することができるので、証拠の収集に役に立ちます。

なお、クレーマーの発言を同意なく録音したとしても、プライバシー権侵害などの問題は発生せず、証拠保全等のために必要な行為として許されると考えられます。

土下座を要求された場合を含めたクレーム・カスハラ対応のマニュアル化

土下座を要求するようなケースも含めた、不当なクレームやカスハラ対応については、いつでも対応できるようにマニュアル化するようにしましょう。

何も対策をしていない場合、最初に対応を始めた人に押し付けがちになり、一人で抱え込むことになって、適切な対応ができない可能性が高いです。

また、土下座を要求してくるような顧客が目の前にいる場合、気が動転して適切な対応は難しいでしょう。そのため、会社として組織的に対応することが重要です。

また、適切な対応策を練っておくことは、上述した従業員に対する安全配慮義務の履行にも繋がります。

具体的には、土下座を要求するような場合も含め、悪質クレーマーやカスハラが行われた場合の対応方法のマニュアル化や、社内の相談体制などを事前に整えておき、周知徹底をはかりましょう。

カスハラ対策

まとめ

土下座を要求してくるクレーマー・カスハラの法的問題と対応方法のまとめ

本記事のまとめは以下の通りです。

  • 土下座の強要は刑罰対象なので従う必要はない
  • 土下座をすることでクレーマーの要求がエスカレートする可能性がある
  • 土下座を強要したクレーマーではなく、それを放置した会社が責任を問われることもある
  • 自社に落ち度がある場合は謝罪だけで充分
  • 執拗に土下座を迫る場合は警察への通報も考えて
  • 不当なクレーム・カスハラにはいつでも対応できるようにマニュアル化しておく

謝罪のための方法として土下座を強要することは、違法なもので、損害賠償請求の対象にもなり得ます。そして、土下座は強いられた従業員に強い精神的なショックを与えるものです。

防犯カメラ・ICレコーダーの導入や、このようなタイプのクレーマー・カスハラが発生した場合の対応をマニュアル化して適切な対応ができるようにしておきましょう。

香川総合法律事務所では、当該企業の実態に添った具体的なマニュアル作成及び実演を交えたコーチング研修等を行っております。クレーマー顧客対応や訴訟になった場合のシームレスな訴訟対応も可能ですので、クレーム対応に不安がおありの場合は是非ご相談ください。

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香川 希理(香川総合法律事務所)
香川総合法律事務所は、カスハラ問題やクレーム対応など、企業法務全般を得意とした法律事務所です。東京の銀座にて、多くの企業様の法的サポートを行っています。マニュアル策定、企業研修、契約書の見直し、クレーム対応等、お困りごとがあればお気軽にご相談ください。カスハラの著書・講演多数の実績ある弁護士が、お客様のお悩みを解決致します。