接客やカスタマーサポートに携わっていると、理不尽な暴言や過大な要求――いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)に直面することがあります。
「ひとまず誰に相談すればいいのか分からない」「警察や弁護士に頼るべきラインはどこ?」――そんな迷いを抱える個人と、従業員を守る仕組みを整えたい企業担当者の双方に向けて、本記事では、無料で使える公的窓口から社内相談体制の構築、証拠保全の実践方法、法的対応や保険の活用までを網羅的に解説します。
読み進めれば、あなたが今まさに取るべき次の一手が明確になるはずです。
- 公的・民間のカスハラ相談窓口を一覧で把握できる(厚労省の無料サービスや労働局、警察窓口、民間相談サービスなど)
- 相談内容別に警察・弁護士へエスカレーションする基準が分かる(緊急時は110番、法的対応が必要な場合は弁護士相談など)
- 社内相談窓口の設計手順と外部サービス比較を参考に具体的な対策が取れる(社内体制づくりから外部委託サービスの費用・対応時間まで)
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目次
カスハラとは?相談窓口を使うべき3つの理由

この章では、カスハラ(カスタマーハラスメント)の定義とクレームとの線引きを整理したうえで、被害を受けた際に相談窓口を活用するメリットを3つの観点――早期解決・証拠保全・メンタルケア――から具体的に解説します。まずは「どこからがハラスメントなのか」を正しく理解し、次に「なぜ第三者に相談することが重要なのか」を押さえることで、迷わず適切な対応へ踏み出せる基盤を作りましょう。
カスハラの定義と線引き
「カスハラ(カスタマーハラスメント)」とは、顧客や取引先などからの過度な迷惑行為を指します。一般的な正当なクレームとは異なり、社会通念上著しく不当な要求や言動が伴うものです。
例えば、暴行・脅迫、執拗な暴言、土下座の強要、過度な補償要求などが該当します。
常識の範囲を超えた無理難題や人格否定の言動は、もはや「クレーム」の域を超えてカスハラです。企業としては正当な指摘と悪質なハラスメントを区別し、後者には毅然と対応する必要があります。線引きに迷う場合は、「要求内容が妥当か」「態度が社会通念に照らして適切か」を判断基準にしましょう。
カスハラのよくある被害事例と心身への影響
カスハラの被害は様々な業界で報告されています。よくある事例として、店員に土下座を強要しその様子をSNS拡散、飲食店で他の客の食品に嫌がらせをしてクレーム、窓口に何時間も居座り威圧するケース等があります。
こうした行為にさらされた従業員は強いストレスを受け、怒りや恐怖、不安を感じることが多いです。prtimes.jpの調査によれば約6割の人がカスハラによって「強いストレス・精神的疲労」を感じ、3~4割が「怒りや不安、恐怖心」を抱えています。
さらに3割以上が仕事の意欲低下やパフォーマンス低下を経験しています。頻繁に被害に遭えば、不眠や出勤困難に陥るケースもあり、実際に被害者の約17%が不眠症状、6%が休みがち、4%が通院や服薬に至ったとの報告もあります。
心身の不調から休職や退職に追い込まれる例もあり、企業側にとっても大きな損失です。つまりカスハラは被害者本人だけでなく職場全体の士気や生産性にも悪影響を及ぼす深刻な問題です。
相談窓口を利用するメリット
被害を受けたとき、早めに相談窓口を利用することには大きなメリットがあります。
まず、専門の相談員や機関に話すことで客観的なアドバイスを得られ、早期解決につながる可能性が高まります。問題を放置するとエスカレートしがちですが、第三者の介入で初期段階から適切に対処できれば、長引く前に収束させることも可能です。
次に、証拠の保全という観点です。
相談窓口では被害の状況や経緯を伝えることで記録が残り、必要に応じて専門家から**「録音や記録を残しておきましょう」といったアドバイスも得られます。実際、電話対応中であれば通話を録音しておくことは明確な証拠となり、後から内容を分析するのにも役立つとされています。記録を取っていることを相手に伝えれば理不尽な要求の抑止効果も期待できます。
さらに、メンタルケアの面でも相談は有効です。
一人で悩みを抱え込むと心の負担が増す一方ですが、窓口で専門家に状況を話すだけでも心理的に楽になることがあります。相談員は傾聴のプロであり、必要に応じてカウンセリング機関や医療機関への橋渡しも行ってくれます。
早期解決・証拠保全・メンタルケアという3つのメリットを考えれば、カスハラ被害に遭ったら遠慮せず然るべき相談窓口を頼るのが賢明です。
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まず相談したい!カスハラの公的な無料相談窓口一覧【個人向け】
カスハラ被害に悩んだとき、まずは公的機関が提供する無料相談窓口を活用してみましょう。以下に主な窓口とその特徴をまとめます。
窓口名 | 概要・受付時間 |
---|---|
都道府県労働局・労働基準監督署 (総合労働相談コーナー) | 厚労省管轄の総合労働相談窓口。全国の都道府県労働局や労基署に設置され、労働問題全般について無料相談できます。 解雇や賃金トラブルからパワハラ・カスハラまで幅広く、専門相談員が面談や電話で対応。 各都道府県の窓口は平日昼間が中心ですが、地域によっては夜間相談日を設けている場合も。まずはお近くの労働局相談コーナーに連絡してみましょう。 ▶︎ 問い合わせ先例:東京労働局 総合労働相談コーナー(電話0120-601-556)など |
警察相談専用ダイヤル「#9110」 | 警察への電話相談窓口。110番のような緊急通報ではなく、事件事故か迷うような相談全般に対応しています。「悪質なクレーム被害を警察に相談したいが、110番するほどではない…」という時に役立ちます。 #9110にかけると発信地の都道府県警察本部の相談窓口につながり、担当者がアドバイスしてくれます。受付時間は都道府県によりますが、多くは平日昼間~夕方(例:警視庁は平日8:30~17:15)です。 |
上記のように公的な相談先はいずれも無料で利用できます。一人で抱え込まず、「これはカスハラかも?」と思ったら気軽に連絡してみましょう。状況を整理して伝えることで、適切な助言や必要な機関への橋渡しをしてもらえます。
カスハラで弁護士・専門機関に相談する前に知っておくこと

公的窓口での相談を経て、「これは法的措置を検討した方がよい」と判断したら、弁護士など専門家への相談を検討しましょう。専門機関に進む前に知っておきたいポイントを整理します。
弁護士相談の流れ・費用相場・成功事例
弁護士に相談する場合、まずは法律相談(初回面談)を予約します。多くの弁護士事務所では30分~1時間程度の初回相談を行っており、費用は無料~5,000円程度が相場です。地域の弁護士会が主催する無料相談会を利用できる場合もあります。
相談では、被害状況(日時、相手の言動、こちらの対応、証拠の有無など)を伝え、取り得る法的手段についてアドバイスをもらいます。例えば、相手に対し内容証明郵便で警告文を送付する、民事で損害賠償請求を検討する、あるいは刑事事件化(被害届提出)するか等です。
依頼する場合の費用は案件によりますが、内容証明1通で数万円、民事訴訟なら着手金や報酬金として数十万円規模が目安となります。
成功事例としては、悪質クレーマーに対し弁護士名で警告状を送ったところ接触が止んだケースや、土下座強要・暴行について損害賠償請求し和解金を得た例などがあります。
実際、商品クレーム対応中に土下座を強要され精神的苦痛を受けた店員が強要罪で加害顧客を逮捕・起訴に持ち込み、後に民事でも慰謝料を獲得したケースもあります。
弁護士に相談すれば必ず訴訟になるわけではなく、多くは弁護士から先方への通知を出した段階で収束することもあります。まずは相談だけでもしてみる価値は大いにあるでしょう。
録音・証拠収集のポイントと注意点
法的対応を視野に入れるなら、証拠の収集・保全が極めて重要です。会話の録音は最も有力な証拠になります。自分が当事者として会話に参加している限り、相手に無断で録音しても日本の法律では問題ありません(盗聴とは異なります)。特に電話対応中であれば、通話録音は被害を裏付ける明確な証拠になるため必ず実施しましょう。
可能であれば、「この通話は録音させていただいております」と伝えることで相手のエスカレートを防止できる可能性もあります。
対面の場合も、スマートフォンの録音機能やICレコーダーを活用して記録を残してください。併せて、後日のために出来事のメモを詳細に取ることも大切です(発生日時、場所、相手の発言内容、周囲の目撃者など)。
メールやチャットでのやり取りなら画面のスクリーンショットや保存を確実に行いましょう。物理的な嫌がらせ(例えば投げつけられた物や破損した物品)があれば写真撮影して証拠化します。
保険(労災・損害保険)で補償されるケース
カスハラによる被害は、場合によって保険による救済を受けられることがあります。まず、被害に遭った従業員本人の立場では、労災保険(労働者災害補償保険)の適用が考えられます。職場で顧客からのハラスメントにより強い精神的ストレスを受けうつ病等を発症した場合、一定の認定基準を満たせば労災補償の対象となり得ます。
実際、顧客からの執拗な迷惑行為で適応障害になったケースが労災認定された例も報告されています。労災と認められれば治療費や休業補償給付が受けられ、復職準備が整うまでの収入も一定割合カバーされます。
身体的な被害(ケガ)についても、就業中であれば基本的に労災の対象です。一方、企業側の備えとしては、カスタマーハラスメント対応のための損害保険に加入するケースが増えています。いわゆる「クレーム対応費用保険」(損害保険の特約)などでは、カスハラ発生時に弁護士へ相談・委任する費用を補償してくれたり、24時間対応の専用相談デスク(コンシェルジュサービス)を利用できる商品もあります。
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裁判例から見る勝ちやすい争点
裁判に発展したカスハラ事案では、どんなポイントが認められやすいかを把握しておくと参考になります。まず、顧客(加害者)本人への民事訴訟では、明確な違法行為(暴行・傷害、脅迫、名誉毀損など)があれば賠償が認められやすいです。
例えば前述の土下座強要事件では、刑事の有罪判決(強要罪)確定を踏まえ、民事でも慰謝料等の支払い義務が認められるでしょう。また、顧客の悪質な言動が原因で店が休業に追い込まれたような場合、営業妨害として損害賠償請求が認められた例もあります。
一方、近年増えているのが従業員が自社(使用者)を訴えるケースです。「会社が適切に守ってくれず心理的障害を負った」という主張で、安全配慮義務違反による損害賠償を求めるものです。この場合の争点は会社がどの程度カスハラ対策を取っていたかになります。
直近の裁判例では、放送受信料コールセンターの従業員が顧客からのわいせつ発言・暴言被害について会社を訴えましたが、会社が社内ルール整備や複数対応などの対策を講じていたため「安全配慮義務違反なし」と判断され、賠償責任は否定されています。
企業・団体向け|社内カスハラ相談窓口の立ち上げガイド

企業として従業員をカスハラから守るためには、社内の相談体制整備が不可欠です。ここでは、社内にカスハラ相談窓口を設置・運用する際のポイントを解説します。
体制設計──人事・法務・外部パートナーの役割分担
まずは相談対応の体制づくりです。一般的に、人事部門が中心となり相談窓口の運営を担います。人事は現場からの相談を受け、事実確認や対応策の検討をリードします。法務・コンプライアンス部門が社内にあれば、法的リスクの評価や対外交渉(弁護士連携など)の役割を果たします。
産業医やメンタルヘルス担当がいる場合は、相談者の心身ケアや休職対応について助言をもらうと良いでしょう。そして近年重要性が増しているのが外部パートナーとの連携です。例えば社外の弁護士顧問がいれば、顧客対応時の法的助言や訴訟リスクの判断を仰げます。
また、外部のハラスメント相談員(社会保険労務士やカウンセラー等)に委託して社外相談窓口を設ける企業も増えています。従業員が「社内の人には言いづらい…」という場合でも、外部の第三者なら安心して相談できる利点があります。
企業規模によっては、人事・総務部門内で完結せず、リスク管理委員会のような横断的チームを組むのも有効です。ここには人事・法務に加え、現場部門の管理職、有志の従業員代表、必要に応じて顧問弁護士やEAP担当者も参加させ、定期的にカスハラ対策を協議します。
役割分担を明確にし、「誰が相談を受け、誰が調査し、誰が最終判断するか」を決めておくことが大切です。
受付→事実確認→対応決定→フォローの標準フロー
社内相談窓口を運用する際は、対応の基本フローをあらかじめ定めておきます。一般的な流れは次のとおりです。
1. 相談の受付・傾聴
相談窓口担当者が相談者の話を丁寧に聴取します。被害状況や経緯、相談者の要望などを聞き取り、必要な事実関係を整理します。「相談してくれてありがとう」「あなたは悪くない」といった姿勢で寄り添い、不安を和らげることが大切です。ここでは相談記録をしっかり残し、匿名希望なら匿名を尊重します。
2. 事実関係の確認・調査
相談内容が事実かつ深刻な場合、社内調査を行います。例えば、当該顧客とのやり取りの記録(録音・メール等)を確認したり、一緒に対応していた同僚へのヒアリングを実施します。プライバシーに配慮しつつ、公平な立場で証拠と証言を集めることが重要です。顧客情報が絡むため取り扱いは慎重に、必要なら法務部門や顧問弁護士にも調査に加わってもらいます。
3. 対応策の決定・実行
調査結果を踏まえ、会社としての対応方針を決定します。ケースによって、上司から顧客に注意連絡を入れる、取引先であれば担当者交代や契約見直し、悪質な場合は出入り禁止措置を検討します。同時に、相談者(被害社員)への配慮策も決めます。
必要なら勤務変更や有給休暇付与で一時的に現場から離す、心療内科受診を促す、社内ケア担当との面談設定等です。社内の規程(就業規則やハラスメント防止規程)に照らし、懲戒や処分に該当する社員の不適切対応があればそれも対処します。最終決定は経営層まで上げ、組織として正式に意思決定してください。決定事項は相談者へ速やかにフィードバックし、納得を得るよう努めましょう。
4. フォローアップ
対応策を実行した後も、継続的なフォローが欠かせません。
相談者に対しては、「その後体調や状況はどうか」「問題は再発していないか」等を定期的に確認します。顧客側にも対応後の様子を注意深く見守ります。また、今回のケースを社内で教訓化することも大切です(プライバシーに配慮した上で、起きた事例と対処法を共有し再発防止に活かす)。もし対応後も改善しないようなら、改めて専門機関への相談や法的手段も検討します。その意味でフォロー段階でも外部専門家と連携し、次の一手を用意しておくと安心です。
以上が基本フローですが、「セカンドハラスメント」の防止も常に念頭に置きましょう。他の社員に詮索されたり、相談したこと自体を上司から非難されたりしないよう、情報管理を徹底します。また相談者の同意なく対応を進めない、意向を無視しないことも信頼維持に不可欠です。こうした標準フローを予めハラスメント対応マニュアルとして文書化し、担当者間で共有しておくとスムーズに運用できます。
社内周知の方法と作り方
相談窓口を設置しても、それが周知され利用されなければ意味がありません。そこで、社内への知らせ方や教育方法も工夫しましょう。
まずポスターや社内掲示です。厚生労働省は2022年に業種別の「カスタマーハラスメント対策ポスター」を4種類作成し公開していますmhlw.go.jp。
これらは無料でダウンロードでき、飲食店向けや小売店向けなど現場に合わせたデザインになっています。自社でもこれを活用しつつ、自社の相談窓口の連絡先(内部/外部問わず)を追記したポスターを作成すると良いでしょう。また、社内報や社内SNSでも定期的に窓口の案内を発信します。
次に教育ツールとしては、eラーニングや研修でカスハラ対応を教えることが有効です。
具体的には、「カスタマーハラスメントとは何か」「被害に遭ったらどうするか」「相談窓口はどこか」「現場での対処法(上司への即時報告、安全確保の優先、謝罪しすぎない等)」を盛り込んだ研修コンテンツを作成します。動画やスライド教材を作り、年に一度は全社員に受講させると良いでしょう。
ロールプレイも効果的です。例えばコールセンター研修では、怒鳴る客役と対応者役で寸劇を行い、適切な切り上げ方やエスカレーション手順を体験します。教育では経営トップからのメッセージも重要です。「お客様からの悪質な行為には会社として断固対応する。従業員の皆さんは遠慮なく声を上げてください」という趣旨を、社長コメントや動画で伝えてください。それが心理的安全性につながり、相談窓口の利用促進にもなります。
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カスハラ対応のケース別フローチャート|警察・弁護士・保険はいつ使う?

カスハラへの具体的対応策は、ケースの緊急度や内容によって異なります。ここでは、想定されるケースごとに「誰に相談・通報すべきか」の判断目安を示します。
暴言・脅迫など緊急度が高いケース
顧客から「殺すぞ」「会社に火をつけてやる」等の明確な脅迫があったり、物を投げつける・掴みかかる等の暴力行為が発生した場合は、即座に緊急対応が必要です。このようなケースでは迷わず警察に通報してください。
店頭や窓口であればその場で110番通報し、可能なら上司や同僚にも助けを求めます。相手がその場を去った後でも、被害が重大なら早急に被害届の提出を検討します。警察沙汰にすることで相手への抑止にもなりますし、エスカレートを防ぐためにも早めの介入が望ましいです。
また暴力はなくとも、長時間の罵声・威嚇で身の危険を感じる場合や、明らかに正常なクレーム対応の範囲を逸脱している場合も同様です。一方で、緊急度が高いか判断に迷うケースもあるでしょう。その場合は警察相談(#9110)にまず相談するのも手です。
「警察に言うぞ」と顧客に脅された場合など、自分では判断しかねるときに#9110で状況を話せば、通報すべきかアドバイスをもらえます。いずれにせよ、「安全第一」です。命や身体に危害の恐れがあれば即110番、少しでも危ないと感じたらためらわず周囲に「助けてください!」と声を上げ、避難してください。
後から振り返って「あれはクレーム対応の範囲だったかな…」と思うことがあっても、命あっての物種です。上司や会社もその点は理解すべきで、従業員が緊急避難したことを責めてはいけません。「逃げるが勝ち」も正当な対応であると、社内教育でも強調しておきましょう。
損害賠償・裁判を検討するケース
顧客の迷惑行為によって実際に損害が発生している場合(例えば顧客対応に追われ他の業務が滞った損失、店舗設備を破壊された物的損害、従業員の治療費等)や、明確な違法行為があった場合には、法的措置による救済を検討します。
まず社内の法務担当や顧問弁護士に相談し、損害賠償請求の可否を判断しましょう。請求先は加害顧客本人になります。訴訟までするかどうかはケースバイケースですが、内容証明による請求書送付で済む場合もあります。例えば「○月○日に貴殿が行った暴力行為により当社従業員が負傷した治療費○円および慰謝料○円を請求します」といったものです。
相手が個人で資力がない場合、判決を取っても回収困難なので慎重に見極めます。一方、顧客が企業・団体の場合(取引先のパワハラ的要求など)は、その組織に対し損害を請求することも検討されます。また、すでに述べたように従業員が会社に対して損害賠償請求する展開もありえます。
心身症・休職を伴うメンタルヘルスケース
従業員がカスハラ被害によりメンタル不調(うつ病・適応障害など)を発症し、診断書が出て休職に至るケースもあります。この場合、企業は迅速に労災申請のフォローを行い、本人の治療と復職支援に努める必要があります。
業界別(飲食・介護・銀行・建設・鉄道)のカスハラ相談窓口連携例

カスハラは業界によって発生しやすいシーンや対策のステークホルダーが異なります。以下に各業界での特徴的な取り組みや連携例を紹介します。
飲食業におけるカスハラ相談窓口
飲食店では店員への暴言やクレームが日常的に起こりえます。
大手チェーンではマニュアルで「迷惑行為客への対応」を定め、深刻な場合は即警察通報するルールを設けています。現場判断が難しいため、エリアマネージャーへのホットラインを設置し電話一本で駆けつける体制を敷く例もあります。
また、業界団体(日本フードサービス協会など)がクレーム対応研修を開催し、加盟各社で情報共有する取り組みもあります。実際、ある牛丼チェーンでは悪質クレーマーを全店舗出禁リストに登録し、現場だけで抱え込まない仕組みを作っています。
介護・医療におけるカスハラ相談窓口
介護施設や病院では、利用者や家族からのハラスメントが問題になっています。
厚労省は介護現場のハラスメント事例集を公表し、現場職員への支援を呼びかけていますmhlw.go.jp。多くの病院では苦情相談窓口を設け、ソーシャルワーカー等が家族対応にあたる体制です。
また警察署との連携も進んでおり、ある自治体では県庁窓口・県警がタッグを組んで対応し一定の成果を上げています。
具体的には、暴力を振るう認知症高齢者への対応で警察OBが指導に入り、刑事事件化せず解決したケースなどがあります。介護職員へのメンタルケアにも力を入れており、自治体単位でハラスメント相談センターを設ける例もあります。
銀行・金融におけるカスハラ相談窓口
金融機関ではコンプライアンス上、お客様からの申し出には丁寧に対応する文化が強いですが、それが逆に過剰クレームを呼ぶこともあります。
大手銀行では店頭での暴言や長時間居座りに対し、本部危機管理室へ即時報告するルールがあります。本部が法務部門と協議し、悪質な場合は警備員や警察と連携して対応します。また金融庁からも「顧客からのハラスメントには適切に対応し職員を守るように」と通知が出ており、各行で「迷惑行為対応マニュアル」が整備されています。銀行協会を通じての情報共有や、暴力団関係の恐喝について警察との連携も密に行われています。
建設・不動産におけるカスハラ相談窓口
建設業では元請け・下請けの力関係からくるハラスメント(いわゆる押し付けや無茶な要求)が問題化しつつあります。また不動産販売や住宅リフォーム現場でも顧客からの理不尽クレームが起こります。
業界団体(例:全建総連など)は職場のハラスメント相談窓口を設け、加盟企業の従業員からの相談を受け付けています。大手建設会社ではコンプライアンス窓口でパワハラ・カスハラを一括して受け付け、必要に応じて発注者に対する改善要求を行う例もあります。
行政も公共工事の現場でのハラスメント防止に乗り出しており、契約書に著しい迷惑行為時の対処条項を盛り込む動きがあります。建設現場は閉鎖的になりやすいので、組合や労働局と連携した外部相談窓口の活用が鍵です。
以上のように、業界によって行政・警察・業界団体との連携方法が様々です。自社の属する業界の情報を収集し、活用できる外部資源(例えば業界団体のホットラインや、行政の助成制度など)は積極的に取り入れましょう。自社だけで抱え込まず、全ての業界・社会全体でカスハラ撲滅に取り組む姿勢が大切です。
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カスハラ対応でよくある質問

ここでは、カスハラに関するよくある質問をまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
Q1:「カスハラかクレームか迷うときは?」
A1: 顧客からきつい言葉を受けても、それが正当な苦情か悪質なハラスメントか判断に迷うケースは多いです。そんな時は一人で判断せず、まずは上司や同僚に相談してください。客観的に見れば「それは行き過ぎだ」と評価できることがあります。また社内のガイドライン(あれば)に照らしてみましょう。一般に、要求内容が事実に基づき妥当かつ対応可能な範囲であればクレーム、事実無関係の難癖や対応不能な過剰要求、人格攻撃があればカスハラと判断できます。
迷う場合でも無理は禁物です。対応中でもおかしいと感じたら上司にエスカレーションし、お客様には「少々お待ちください」と一旦保留にして構いません。証拠(録音やメモ)を残しておくことも重要です。後から上司と検討材料にできます。そして何より、「迷ったら社内のハラスメント相談窓口へ」が鉄則です。
第三者に共有することで、自分がおかしな対応をしていないか確認できますし、必要なら次の対策(お客様への注意喚起や謝罪対応など)も会社として検討してもらえます。一人で抱え込まないことが肝心です。
Q2:「相談内容を録音しても法律上問題ない?」
A2: 自分が当事者として会話に参加している場合、録音すること自体は違法ではありません。盗聴(自分のいない場面の会話を密かに録る)とは異なり、日本では会話参加者による記録行為はプライバシー侵害に当たらないとの解釈です。
実際、企業のクレーム対応でも通話録音は日常的に行われています。したがって、カスハラ被害の証拠として録音することは推奨される対応です。
「警察に被害届を出すタイミングは?」
A3: 明確な犯罪行為があったら早めに警察に相談・届出するのが基本です。
例えば暴力を受けて怪我をした、殺害予告めいた脅迫を受けた、強要罪に当たる土下座強制があった等は、直ちに110番通報→被害届提出を検討してください。
被害届は事件後できるだけ早い方が事実関係が認められやすいです。また、最初は軽微でも同じ相手からの迷惑行為が反復継続している場合も、早めに警察に相談することをお勧めします。警察は民事不介入とはいえ、度を超えた嫌がらせは業務妨害罪やストーカー規制法に抵触するケースもあります。「この程度で届けていいのか…」と迷う場合は警察相談専用#9110に電話し、状況を説明してみましょう。専門担当者が届出すべきかどうかアドバイスしてくれます。
届出のタイミングを逃しやすいのは、例えばお客様から執拗なクレーム電話を受け続けメンタル不調になったケースです。
被害が蓄積しているのに、それぞれは「暴言を吐かれただけ」で逮捕沙汰にはしにくいと悩むことがあります。しかし、まとめて状況を訴えれば警察が指導・警告してくれる場合もあります。刑事事件化するか否かは警察判断ですが、迷ったらまず相談が鉄則です。
Q4:「社内窓口で解決できない場合の次の一手は?」
A4: 社内相談窓口で対応策を講じたものの効果がなく問題が解決しない場合、外部の力を借りる段階に移行します。まず考えられるのは専門の公的機関やADR機関への相談依頼です。例えば労働局の紛争調整委員会によるあっせん手続を利用すれば、企業と被害社員間のトラブルを第三者仲介で解決に導けるかもしれません。顧客相手の場合は、消費者センターや業界の苦情相談機関に仲裁をお願いする方法もあります。
次に、弁護士に正式に依頼する決断も視野に入ります。会社として顧客に法的措置を取るにせよ、社員が会社を相手に権利主張するにせよ、弁護士代理で交渉・訴訟に臨むことで事態の打開を図ります。
また警察への被害届提出も、社内対応で限界を感じたら改めて検討しましょう。被害社員本人が難しければ、会社が代理で相談することも可能です。
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まとめ|今日からできる3ステップ

カスハラは誰にでも起こり得る深刻な問題ですが、正しい知識と準備があれば恐れることはありません。最後に、今日から実践できる3つのステップをまとめます。
- 公的窓口に無料相談し、状況を客観視する – 一人で悩まず、まずは厚労省の「カスハラ対策相談ナビ」や労働局の相談コーナー等に連絡を。第三者に話すことで問題が整理され、適切な対処法が見えてきます。無料で利用できる機関をフル活用しましょう。
- 証拠を整理し、必要なら弁護士・警察にエスカレーション – 日時や内容の記録、録音データなど証拠を集めつつ、被害が深刻なら専門家に相談します。早めに弁護士に相談すれば法的手段の選択肢も明確になりますし、犯罪行為があれば警察への相談・被害届提出を検討します。安全確保と権利保護のため、一歩踏み出す勇気を持ちましょう。
- 企業は社内窓口+外部パートナーで再発防止体制を構築 – 企業側では相談窓口を整備し従業員がすぐ相談できる環境を作ります。同時に外部の専門サービスや保険も導入して万全を期しましょう。社員への教育・周知を繰り返し、カスハラを許さない企業風土を醸成することも再発防止の鍵です。
カスタマーハラスメントは社会全体で対策が進みつつある課題です。適切に相談し行動すれば、決して解決できない問題ではありません。被害に悩んでいる方は、どうか一人で抱え込まず、本記事で紹介した窓口や専門家の力を頼ってください。
企業のご担当者も、大切な従業員を守るために今日からできる施策を少しずつでも実践していきましょう。「お客様の迷惑行為にはNOと言っていい」――その意識改革が、健全で安心して働ける職場づくりにつながります。
当事務所もカスハラに対して、サポートしております。
マニュアル作成から、企業内研修、クレーム対応まで、さまざまな業界・業種で実績をあげてきた弁護士が、企業の抱えるハラスメント問題を解決致します。
お困りの際は、ぜひご相談ください。
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