「お客様は神様」という呪縛に苦しみ、理不尽な暴言や要求に「どこまで我慢すればいいの?」と疲弊していませんか?
「こんなことを言われたけど、これはカスハラに該当する?」
「カスハラで訴えられたらどうしようと不安で、言い返すことができない」
その迷いこそが、現場スタッフを危険に晒し、心を壊す原因です。「嫌だと感じたら」という主観的な判断では、いざという時に自分を守れません。必要なのは、誰が見ても「アウト」と判断できる「客観的なモノサシ(基準)」です。
この記事では、厚生労働省の定義や過去の裁判例に基づき、「現場で即座に使える3段階の判定レベル」と、警察通報に踏み切るための「具体的な数値基準」を徹底解説します。
この記事を読めば、「このラインを超えたら即通報」という明確な基準を持ち、自信を持って「NO」と言えるようになります。 もう、曖昧な境界線に悩むのは終わりにしましょう。
目次
カスハラはどこから?カスハラの厚生労働省が定める定義

カスハラとはどこから認定されるのか。まず、公的な定義をしっかり押さえてください。 ここを理解しておくと、上司や顧客に対して「これは厚生労働省の基準でカスタマーハラスメントになります」と堂々と説明できます。
厚生労働省が策定した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラかどうかの判断軸として、以下の2点を挙げています。
判断の軸となる2つの要素
- 要求内容の妥当性
- その要求に正当な根拠があるか?
- 企業の提供する商品・サービスに過失があるか?
- 手段・態様の相当性
- その要求を通すための言い方ややり方は、社会通念上許される範囲か?
特に重要なのは手段・態様の相当性
現場で最も誤解されているのが、この点です。 「店舗側にミスがあったら、顧客は怒る権利がある」と思い込んでいませんか?
確かに、「腐った商品を売った」「オーダーを間違えた」といった場合、顧客の「要求内容(交換や返金)」には妥当性があります。 しかし、だからといって「土下座しろ」「死ね」と暴言を吐いていい理由にはなりません。
ここが重要です。たとえ店側に100%のミスがあっても、相手が「暴力」や「脅迫」「人格否定」といった不相当な手段を使った時点で、その行為は「カスハラ」になります。
「何を言ったか(内容)」よりも「どう言ったか(手段)」。 このロジックを現場全体で共有することが、カスハラ対策の第一歩です。
正当なクレームと悪質カスハラの境界線

「カスハラ対策をすると、お客様の声(クレーム)を無視することになるのでは?」 そう心配する真面目なスタッフのために、両者の違いを明確にしておきましょう。目的を見れば、その違いは一目瞭然です。
目的の違い:「問題解決」か「攻撃」か
- 正当なクレーム:
- 目的: サービスの改善、被害の回復(交換・修理)。
- 特徴: 企業にとって耳の痛い話であっても、改善のヒントになる**「有益な情報」**です。
- 悪質なカスハラ:
- 目的: 従業員を困らせる、優越感に浸る(カスハラ心理)、ストレス発散、不当な金品の要求。
- 特徴: 企業や従業員を傷つけるだけの**「攻撃」**です。聞く必要はありません。
正当なクレームがカスハラに変質する瞬間
最初は「正当なクレーム」だったものが、途中から「カスハラ」に変わることもよくあります。 この「スイッチが入る瞬間(Switching Point)」を見逃さないでください。
- 「商品の不具合」の話だったのに、いつの間にか「お前の態度が気に入らない」に論点がすり替わった瞬間。
- 謝罪を受け入れて問題解決したはずなのに、「で、誠意(金銭)はどう見せるんだ?」と新たな要求を始めた瞬間。
論点が「事象」から「人格攻撃」や「過剰な要求」にズレた時、それはもうクレーム対応ではありません。「交渉」または「防衛」のフェーズに入っています。
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カスハラ判定の「3つのレベル」と対応アクション
では、具体的に現場はどう動けばいいのでしょうか? 状況を白か黒かで判断しようとすると迷いが生じます。信号機のように「3つのレベル(イエロー・オレンジ・レッド)」で判断し、アクションを変えていくのが最も実践的です。
この基準をバックヤードに貼っておくだけで、スタッフの安心感は劇的に向上します。
レベル1(イエロー):要注意(Customer Service)
まだ「お客様」として対応しますが、警戒アラートを鳴らす段階です。
- 状態:
- 声が少し大きい、イライラしている。
- 敬語を使わない、タメ口。
- 同じ質問を繰り返す。
- 現場のアクション:
- 「傾聴」: 相手の言い分を遮らずに聞き、事実確認を急ぐ。
- 「警戒」: 「長引きそうだな」「雲行きが怪しいな」と認識し、周囲のスタッフや上司に目配せして合図を送る。
レベル2(オレンジ):警告・対応打ち切り(Warning)
ここからが「カスハラ認定」のラインです。「接客」を止め、「警告」に切り替えます。
- 状態:
- 人格否定: 「バカ」「無能」「辞めろ」などの暴言。
- 威圧: 机を叩く、詰め寄る。
- 執拗: 同じ要求を3回以上繰り返す、長時間(30分以上)拘束する。
- 現場のアクション:
- 「警告」: 謝罪を止め、毅然と伝える。「お客様、そのような発言はお控えください」「これ以上の対応は致しかねます」。
- 「交代」: 担当者を現場責任者(店長・SV)へ交代する。
- 「記録」: 録音を開始し、「トラブル防止のため録音させていただきます」と告知する。
レベル3(レッド):即通報(Crime)
もはやお客様ではありません。「犯罪者」として扱います。
- 状態:
- 暴力: 殴る、蹴る、物を投げる。
- 脅迫: 「殺すぞ」「夜道に気をつけろ」「家に火をつける」。
- 強要: 土下座をさせる、念書を書かせる。
- 不退去: 「帰ってくれ」と言っても居座り続ける。
- セクハラ: 身体を触る、卑猥な言葉をかける。
- 現場のアクション:
- 「通報」: 警告なしで、即座に110番通報。
- 「退避」: 相手の説得は不要。従業員をバックヤード等の安全な場所に逃がす。身の安全が最優先。
ここが分かれ目!業種別カスハラのセーフ・アウトの具体的境界線

カスハラはどこからなのか、その境界線は業種によって「許容範囲」が微妙に異なります。 ここでは、特に判断が難しい「小売・飲食」「医療・介護」「コールセンター」「役所」の4業種について、具体的なカスハラ事例を元に「どこからがカスハラか」を深掘りします。
1. 小売・飲食・サービス業
「お客様は神様」という意識が強い業界であり、最も判断に迷いやすい領域です。
- 【セーフ】:
- 「料理が遅い」「味が濃い」といった品質への不満。
- 「店員の態度が悪い」という指摘(たとえ言い方がきつくても、事実であれば正当)。
- 【アウト】:
- 土下座・金品の要求: 商品代金の返金を超え、「慰謝料」「迷惑料」を要求した時点。
- 居座り: 閉店時間を過ぎても帰らない、または「帰ってください」と伝えても居座る行為(不退去罪)。
- SNS晒し: 「動画を撮って拡散するぞ」と脅す行為(脅迫・名誉毀損)。
2. 医療・介護現場(認知症患者含む)
命や健康に関わるため感情的になりやすく、また「病気(認知症等)」が原因の場合の判断が非常に難しい現場です。
- 【セーフ】:
- 痛みや不安からくる一時的な怒声や暴言(病状の範囲内)。
- 治療方針に対する強い質問や不安の吐露。
- 【アウト】:
- 暴力行為: 理由が何であれ、職員を叩く、つねる、物を投げる行為は即アウト(傷害・暴行)。
- セクハラ: 身体を触る、卑猥な言葉をかける行為。
- 医療・介護の拒否: 職員への暴言により信頼関係が構築できない場合、応招義務(医師法)の例外として診療を拒否できるケースがあります。
3. コールセンター・電話対応
顔が見えない分、執拗な攻撃が続きやすく、精神的ダメージが大きい現場です。
- 【セーフ】:
- 商品や手続きの不備に対する強い口調での苦情。
- 一度や二度の同じ質問(理解不足)。
- 【アウト】:
- 人格否定: 「バカ」「死ね」「辞めろ」などの暴言。
- リピート: 1日に何十回もかける、毎日何時間も拘束する。
- プライバシー侵害: オペレーターのフルネームや住所をしつこく聞き出そうとする行為。
4. 役所・公務員
「税金で食わせている」という論理で、過剰な要求を正当化するケースが目立ちます。
- 【セーフ】:
- 行政サービスや手続きに対する不満、意見。
- 制度に対する批判(職員個人への攻撃ではない場合)。
- 【アウト】:
- 不当要求: 法令上できない手続きを無理やり通そうとする強要。
- 長時間拘束: 窓口を占拠し、他の市民への対応を妨げる行為(威力業務妨害)。
- 個人攻撃: 「税金泥棒」「お前じゃ話にならん」といった職員個人への執拗な攻撃。
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具体的にどこからがアウト?厚労省「9つの類型」と判断基準
さらに判断を確実にするために、厚生労働省が定義する「カスハラの類型(パターン)」を当てはめてみましょう。 相手の行動が以下のどれかに該当すれば、それは「個人のわがまま」ではなく、組織として対処すべき「類型的カスハラ」です。
1. 時間拘束型
- 居座り: 退去を求めても帰らない。閉店時間を過ぎても居座る。(不退去罪)
- 長電話: 業務に支障が出るレベルで長時間電話を占有する。(業務妨害罪)
2. 暴言型
- 「バカ」「死ね」「役立たず」などの人格否定。大声での威嚇。(侮辱罪、威力業務妨害罪)
3. 威嚇・脅迫型
- 「殺すぞ」「夜道に気をつけろ」「反社との繋がり」をちらつかせる。「ネットで晒すぞ」と脅す。(脅迫罪、恐喝罪)
4. 暴力型
- 殴る蹴るはもちろん、胸ぐらを掴む、物を投げる、机を叩く、土下座を強要する。(暴行罪、傷害罪、強要罪)
5. リピート型
- 理不尽な要望を、日を変え、手を変え、執拗に繰り返す。(業務妨害罪)
6. 権威型
- 「お客様は神様だろ」「俺は〇〇を知っている」と特別扱いを強要する。
7. 店舗外拘束型
- 自宅やファミレスなどに呼びつける行為。原則として応じてはいけません。
8. SNS・ネット誹謗中傷型
- ネット上での実名晒しや、事実無根の書き込み。(名誉毀損罪、信用毀損罪)
9. セクシャルハラスメント型
- 身体を触る、卑猥な言葉をかける、盗撮、待ち伏せ。(不同意わいせつ罪、ストーカー規制法違反)
カスハラの言った言わないを封じる!証拠保全の鉄則と法的効力

「カスハラだ!」と主張しても、証拠がなければ警察も会社も動けません。 ここでは、いざという時に自分を守るための「証拠の残し方」について、法的な観点から解説します。
1. 「秘密録音」は違法ではない
「相手の許可なく録音(秘密録音)していいのか?」と不安になる方が多いですが、カスハラの証拠収集としての秘密録音は、原則として適法であり、裁判での証拠能力も認められます。 「言った言わない」の水掛け論を防ぐため、暴言が始まったら迷わず録音を開始してください。
- コツ: 相手に「品質向上のため録音させていただきます」と告げることは、それ自体が強力な抑止力になります。
2. 「対応記録メモ」の書き方
録音ができない状況でも、メモは有効な証拠になります。以下の「5W1H」を意識して、できるだけ詳細に残しましょう。
- When: 日時(〇月〇日 〇時〇分〜〇時〇分)
- Where: 場所(レジ前、応接室など)
- Who: 相手の特徴(氏名、性別、年齢、服装)、対応した従業員、目撃者
- What: 何を言われたか(暴言の内容を一言一句正確に。「バカと言われた」ではなく「『お前はバカか、死ね』と言われた」と書く)
- How: どのような態度で(大声で、机を叩きながら、詰め寄って)
3. 防犯カメラ映像の保存期間
防犯カメラの映像は、通常1週間〜1ヶ月程度で上書きされてしまいます。 トラブルがあった際は、すぐに店長や本部に報告し、該当期間の映像データを別媒体にバックアップしてもらうよう依頼してください。映像(行動)と音声(録音)がセットになれば、最強の証拠になります。
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予防こそ最大の防御!カスハラを寄せ付けない環境整備
カスハラが発生してから対応するのではなく、そもそも「カスハラを起こさせない」「被害を拡大させない」ための環境づくりも重要です。
1. 「防犯カメラ作動中」等のポスター掲示
「見られている」「記録されている」という意識は、犯罪心理を抑制します。 レジ前や受付に「防犯カメラ作動中」「トラブル防止のため録音しております」といったステッカーを貼るだけで、悪質クレーマーへの牽制になります。
2. 従業員のプライバシー保護(名札の表記)
名札のフルネームからSNSを特定され、ストーカー被害に遭うケースが増えています。 従業員を守るため、名札は**「名字のみ」「イニシャル」「ビジネスネーム」**に変更することを推奨します。多くの自治体や大手チェーンでも導入が進んでいます。
3. 利用規約・約款への「カスハラ条項」の明記
「当店は、カスタマーハラスメント行為が確認された場合、ご利用をお断りします」という一文を利用規約や約款、店頭掲示に盛り込みます。 これにより、いざという時の「契約解除」「退去要求」の正当性が補強されます。
カスハラと判断した後の「組織的対応」と「警察連携」
「これはカスハラだ(レベル2・3)」と判断した後、どう動くべきか。 ここが現場を守る最後の砦です。
現場任せにしない「エスカレーションフロー」
スタッフ一人に背負わせてはいけません。 **「レベル2になったら店長を呼ぶ」「レベル3ならバイト判断で通報OK」**といった権限委譲を明確にしてください。 「通報していいのはエリアマネージャーの許可が出てから」などという悠長なルールは、現場の命を危険に晒します。
毅然とした「お断り(出禁)」の伝え方
対応を打ち切る際は、以下のフレーズを壊れたレコードのように繰り返します。
「当社の規定により、これ以上の対応は致しかねます」 「お引き取りください」
理由を聞かれても、「規定です」の一点張りで構いません。議論する必要はありません。
警察に通報するタイミングと伝え方
110番通報する際、「客と揉めている」と伝えると「民事不介入」と判断され、対応が遅れるリスクがあります。 以下のように、「刑事事件(犯罪)」であることを強調して伝えてください。
- 「店内で暴れている人がいます(威力業務妨害)」
- 「帰ってくれと言っても居座られて困っています(不退去罪)」
- 「従業員が脅されています(脅迫罪)」
まとめ|基準を持つことは、自分と仲間を守ること

ここまで、カスハラはどこからなのか、その線引きと具体的な対処法を解説してきました。
最後に、これだけは覚えておいてください。 カスハラの境界線は、「我慢できるか」という感情論ではなく、「言動・時間・回数」という事実で引くものです。
曖昧な基準のまま現場に丸投げすることは、従業員を見殺しにするのと同じです。 逆に、明確な判断基準とマニュアルがあれば、現場は堂々と「NO」と言えるようになります。それは決して冷たい対応ではなく、組織として従業員と善良な顧客を守るための、正義ある行動です。
【あなたの会社が今すぐ取るべきアクション】
- 基準の明文化: 記事内の「3つのレベル」や「数値基準」を参考に、自社の「レッドライン」を策定する。
- 現場への周知: 「このラインを超えたら会社が全責任を持って守る」と従業員に伝え、安心感を与える。
- 専門家との連携: 判断に迷うグレーゾーンや、悪質なケースについては、弁護士(咲くやこの花法律事務所などの企業法務専門がおすすめ)や警察などの専門機関と連携できる体制を整える。
知識と準備があれば、カスハラは恐れる対象ではなく、粛々と処理すべき業務の一つになります。 大切な仲間が笑顔で働ける職場を取り戻すために、今日から一歩を踏み出しましょう。
現場を守る「備え」は万全ですか?
「記事の内容はわかったけれど、自社に合わせた基準を作る時間がない」 「万が一のために、プロに相談できる体制を作っておきたい」
そんな現場責任者や企業担当者の方へ、私たちはカスハラ対策の専門家として、無料相談を実施しています。
カスハラ関連の著書出版・講演多数の実績ある弁護士が、企業の抱えるハラスメント問題を解決致します。
カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。
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