カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は、単なるクレームではなく従業員の人格や業務を著しく侵害し、時に業務妨害や損害賠償請求に発展する社会問題です。
本記事では、被害者が泣き寝入りせず加害者に正当な責任を問うための知識と行動手順を、弁護士や現場経験者の声を交えて解説します。今まさに「訴えたい」と考えるあなたが、証拠確保・費用・判決事例を俯瞰し、冷静に次の一歩を踏み出せるよう支援します。
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目次
カスハラとは?法的定義と典型事例

カスハラとは、顧客の立場を盾に暴言・土下座強要・SNS晒しなど過度な要求を行い、サービス提供者の就業環境を損なう迷惑行為です。
2022年の厚生労働省マニュアルは「身体的・精神的被害を与える一切の言動」と定義し、企業には防止措置と安全配慮義務の徹底を求めました。本節では典型的な事例と発生要因を整理し、読者が「この行為は違法か?」を即時判断できる基準を示します。
判例から見る「違法ライン」
裁判例を知ると違法ラインが明確になります。2024年東京地裁は、客が大声で返金を強要し業務を中断させた行為を威力業務妨害罪に、大阪地裁は従業員の人格を否定し続けた罵倒を名誉毀損に認定しました。
裁判所は「言動の反復性」「公共性の有無」「業務への実害」を総合考慮します。日報に「対応のため2時間業務停止」と記録するだけでも後日の立証に有効です。
カスハラと単なるクレームの境界線
境界線は「要求の合理性」「表現の節度」「業務への影響」の3点で引けます。
料金ミス指摘は合理的ですが、土下座強要やSNS晒しを伴えば不当要求です。長時間電話で他業務を妨げれば業務妨害へ発展します。チェックリストで3項目以上該当したら即上長エスカレーションを。顧客関係の継続可否と違法性判断は切り離して考えることも重要です。
カスハラを訴える2つのルート|民事と刑事

カスハラに対抗する主な手段は「民事訴訟」と「刑事告訴」の二つです。
民事では損害賠償・慰謝料を請求し被害を金銭で回復できますが、証拠の質と被害額の合理性がカギとなります。
刑事では警察に被害届や告訴状を提出し、脅迫罪や威力業務妨害罪の成立を図ります。加害者が起訴されれば刑事罰が科されるため、和解交渉でも強いカードになります。両ルートを併用し、顧問弁護士と戦略を検討する企業が増えています。
民事で請求できる損害賠償・慰謝料
民事では売上損失や特別損害(人件費増)に加え、精神的苦痛への慰謝料が請求できます。暴言のみで10〜50万円、執拗な嫌がらせでは100万円超が認められた判例もあります。
慰謝料算定では「言動の悪質性」「被害期間」「公開性」が重視されます。日付入りメモや音声ログを体系的に保存し、標準フォーマットで報告を残すと立証が容易になります。
成立しうる刑事事件|脅迫罪・威力業務妨害ほか
刑事で成立しやすいのは脅迫罪(刑法222条)、威力業務妨害罪(同234条)、強要罪(同223条)など。
店舗での大声威迫は威力業務妨害、暴力示唆と無償要求は強要罪となる可能性があります。
警察は証拠不足の案件を受理しないため、録音・動画・第三者証言をセットで提出し「業務に具体的支障が出た」事実を示すことがカギです。刑事手続は加害者と直接交渉せずに済むため精神的負担を減らしたい場合に有効です。
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カスハラで訴える前にやるべき5つの準備

訴訟準備で結果の7割が決まります。
①証拠収集
②被害額算定
③社内体制整備
④専門家(顧問弁護士)選定
⑤リスクチェック
という5ステップを時系列で解説します。
それぞれ解説していきます。
①証拠収集のコツ:録音・録画・メモ
証拠収集の基本は「原本保存」「改ざん防止」「時系列整理」の3原則です。
電話は通話録音アプリで日時自動付与しクラウドに即バックアップをしましょう。動画は店内カメラとスマホ撮影の二重記録が理想です。筆者は暴言が続く客の席にICレコーダーを常設し、発言メモと番号管理するのも良いでしょう、
ファイルのハッシュ値を残せば編集疑惑を排除できます。資料は「日付‐通番」で統一し説明負荷を下げましょう。
②従業員ケアと再発防止策
従業員ケアは裁判で「安全配慮義務を果たしたか」を示す重要要素です。
暴言を受けたスタッフにカウンセリングを提供し、医師の診断書を取得すれば労災や損害賠償額の根拠になります。
危険接客時のフォロー体制やチーム対応ルールを明文化し社内研修で共有しましょう。「SOSチャット」運用により一人対応を防ぎ心理的安全性が向上するなども良いでしょう。研修記録や相談履歴を残すと社外説明や裁判でも有利です。
弁護士に相談するタイミングと費用感
弁護士相談は証拠が揃い損害額試算が終わった段階が理想です。しかし警察相談を迷う、加害者に反社疑いがある等の場合は早期に依頼することにしましょう。
着手金20万円前後+報酬金経済的利益の16%が目安ですが、顧問契約割引や成功報酬固定化など交渉余地があります。
法テラスや自治体の無料相談で方向性確認も可能です。見積り時には「成功」定義と含まれる実費項目を明記してもらい追加請求トラブルを防ぎましょう。
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カスハラを訴える!職種別の事例と注意点

業種によってカスハラの典型パターンと有効策は異なります。本章ではコールセンター・公務員窓口・医療機関の3領域を取り上げ、訴訟に至る事例と注意点を具体解説します。
判決文だけでは伝わらない現場の工夫や組織がリカバリーを成功させるポイントを示し、自社業態で取り得る交渉カードや証拠の撮り方を確認します。異業種の事例は裁判所の判断傾向を読む上で役立ち、弁護士選びのヒントにもなります。
カスハラを訴える!コールセンター事例
全通話録音を強みに暴言累積後ただちに弁護士名義で内容証明を送付し、18日で慰謝料45万円+謝罪文で和解するという事例です。
ポイントは「記録の網羅性」と「迅速な専門家介入」です。録音原データをクラウド共有し加害者へ提示して長期化を防止することです。
担当オペレーターは心的ダメージ評価を受け労災も認定され、企業イメージ向上にもつながりました。
カスハラを訴える!公務員窓口事例
市役所窓口での暴言・机叩き行為に対し、カウンター上の防犯カメラ映像と職員複数名の陳述書を揃え刑事告訴の例です。
威力業務妨害罪で略式起訴され罰金30万円が科されました。行政機関は公務執行妨害の適用も視野に入るため、映像やボディカメラの活用が有効。告訴時は上司決裁を迅速に取り、住民サービス低下リスクを説明することで組織合意を得やすくなります。
カスハラを訴える!医療・クリニック事例
診療待ち時間への怒号と医師への人格攻撃が繰り返されたケースで、カルテ記載の診療遅延時間と警備員の報告書を証拠化し、民事で慰謝料80万円を獲得した例です。
医療現場は患者の治療権と表現の自由のバランスが課題ですが、「他患者の診療機会を侵害した実害」を示すことで賠償が認められました。待合室表示で録音・録画を予告しておくと抑止効果が高まります。
カスハラに対する訴訟の費用・期間・リスク

カスハラに対する訴訟では、コストと時間を把握しないと途中で挫折しかねません。
本章では弁護士費用・裁判所手数料・証拠収集コストを一覧化し、平均期間と逆訴訟リスクを詳説します。準備段階で資金計画を立て、途中和解の選択肢も含めてシミュレーションしておくことが、精神的・金銭的ダメージを最小限に抑えるポイントです。
弁護士費用と回収可能額
弁護士費用は着手金+報酬金+実費が基本形です。中小企業事例では総額30〜80万円がボリュームゾーンです。
慰謝料相場や売上損失と比べペイするか、法的制裁を優先するかを検討しましょう。分割払いや成功報酬型を交渉できる事務所もあります。
調停・訴訟の期間目安
簡易裁判所の調停なら3〜6か月、地方裁判所の訴訟は6か月〜2年が一般的です。証拠の量と当事者数で変動します。フロー図で工程を可視化し、各フェーズで必要な書面や証人手配のタイミングを把握しておくとスムーズです。
逆に訴え返されないための注意点
加害者の名誉毀損やプライバシー侵害で逆訴訟されるリスクがあります。情報公開は最小限に留め、証拠提示は裁判所・弁護士に限定を。社内通達でSNS投稿を禁じるなど漏えい対策を徹底しましょう。
カスハラの相談窓口と次の一歩
泣き寝入りを避ける初動は相談窓口の活用です。
自治体・労働局の無料相談や業界団体の窓口を一覧にし、電話・メール受付時間を整理しました。
窓口名 | 概要・受付時間 |
---|---|
都道府県労働局・労働基準監督署 (総合労働相談コーナー) | 厚労省管轄の総合労働相談窓口。全国の都道府県労働局や労基署に設置され、労働問題全般について無料相談できます。 解雇や賃金トラブルからパワハラ・カスハラまで幅広く、専門相談員が面談や電話で対応。 各都道府県の窓口は平日昼間が中心ですが、地域によっては夜間相談日を設けている場合も。まずはお近くの労働局相談コーナーに連絡してみましょう。 ▶︎ 問い合わせ先例:東京労働局 総合労働相談コーナー(電話0120-601-556)など |
警察相談専用ダイヤル「#9110」 | 警察への電話相談窓口。110番のような緊急通報ではなく、事件事故か迷うような相談全般に対応しています。「悪質なクレーム被害を警察に相談したいが、110番するほどではない…」という時に役立ちます。 #9110にかけると発信地の都道府県警察本部の相談窓口につながり、担当者がアドバイスしてくれます。受付時間は都道府県によりますが、多くは平日昼間~夕方(例:警視庁は平日8:30~17:15)です。 |
また当メディア提携の法律事務所では、面談予約→委任契約までワンストップで対応しています。お気軽にご相談ください。
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カスハラを訴える際によくある質問(FAQ)
カスハラを訴える際によくある質問をまとめました。参考にしてください。
Q1.録音は違法にならない?
結論として、会話当事者が行う録音は原則合法で社会通念上も許容されます(盗聴罪非該当)。ただし公開方法が不適切だと名誉毀損やプライバシー侵害に発展する可能性があるため、裁判資料として限定活用し公開は控えてください。
Q2.見た目を侮辱された場合でも訴えられる?
容姿や身だしなみを嘲笑する発言は名誉毀損や侮辱罪の対象になり得ます。侮辱罪は刑法改正で厳罰化され、拘留または科料に加え、起訴されれば罰金刑が科される可能性があります。録音と併せ、発言後の業務支障を記録しておくと立証が強化されます。
Q3 .訴えを取り下げたいときの手続きは?
民事訴訟は和解・取り下げ書を裁判所に提出すれば終了します。刑事告訴の取り下げは被害者意思で可能ですが、起訴後は検察の判断となるため早期に弁護士へ意向を伝えましょう。取り下げても実費は戻らない点に注意が必要です。
Q4.海外在住の客でも日本で訴えられる?
日本国内で行われたハラスメントであれば日本の裁判所に管轄があります。海外在住者への送達はハーグ条約や各国法に基づく手続が必要で期間が延びるため、弁護士に国際送達経験があるか確認してください。
まとめ|泣き寝入りせず適切な法的手段を

いかがでしたか。
カスハラ被害を放置すると従業員の離職やブランド毀損といった二次被害が拡大します。本記事で紹介した「定義の確認→証拠収集→準備5ステップ→民事・刑事選択」の流れを実践すれば、加害者に正当な責任を問うことが可能です。
一人で抱え込まず、専門家や公的機関へ早めに相談し、組織と従業員を守るための行動を今日から始めましょう。
また、当事務所もカスハラに対して、サポートしております。
マニュアル作成から、企業内研修、クレーム対応まで、さまざまな業界・業種で実績をあげてきた弁護士が、企業の抱えるハラスメント問題を解決致します。
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