クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を!謝罪の区別と4つのステップ対応

クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を!謝罪の区別と4つのステップ対応

カスタマーハラスメント対応に関して日常的に相談を受ける例には、下記のような「謝罪」にまつわる事例が多くあります。

「顧客から『従業員の対応が悪いので店長が謝罪しろ!』と求められた。確かに、弊社従業員の落ち度もありそうだったので急いで店長が出ていって謝罪したら、店長が頭を下げている様子を動画撮影されてしまった。」

「クレーマーに対して店長から口頭で謝罪したところ、クレーマーから『謝罪したということは責任を認めたということだ!責任を認めたんだから慰謝料100万円を払え!録音もある!』と言われた。そんなつもりではなかったのに……。」

「顧客から『商品に不備があったので謝罪文を出せ!』といわれ、返金のうえ謝罪文を交付したところ、インターネット上に謝罪文の画像が返金を受けた事実とセットで晒されてしまった。これを見た他の顧客からも『自分にも返金してくれるのか』という問い合わせが多数来て困っている。」

上記例は、「謝罪の持つ意味」や「適切な対応」を検討しないで、場当たり的に対応してしまった結果、クレーム対応に失敗した例といえます。

この記事では、謝罪を求められた事例をピックアップして、4つのステップに分けて対応を解説していきます。また、それぞれ実例を交えて解説していきますので、すぐにでも現場で参考になる内容になっています。

さらに、より詳しい対応マニュアルの作成についても解説していますので、謝罪要求を含めた不当クレームやカスタマーハラスメント対応へのご対応の参考にしてみてください。

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謝罪要求に対応する4つのステップ

謝罪要求に対応する4つのステップ

謝罪を要求された場合の4ステップは、以下のとおりです。

①【聴取】顧客の主張のヒアリングを行う。
②【調査】聴取を踏まえ、客観的事実関係の確認を行う。
③【判定】調査を踏まえ、法的責任について判定を行う。
④【回答】判定を踏まえ、回答を行う。

謝罪要求がなされた場合、①【聴取】⇒②【調査】⇒③【判定】⇒④【回答】の4ステップを踏んで、順次対応することが重要です。

この4ステップの「各段階」及び③【判定】の内容に応じて、以下で述べる「道義的謝罪」と「法的謝罪」を意識的に使い分けて行動するのが有効です。

以下の記事では、その要求が正当かどうかを見極める方法を解説しています。是非合わせてご覧ください。

カスハラとは?カスタマーハラスメントとクレームとの違いをわかりやすく図解!

道義的謝罪・法的謝罪の区別とそれぞれの具体例

道義的謝罪・法的謝罪の区別とそれぞれの具体例

謝罪要求への対応における重要なポイントは、「道義的謝罪」と「法的謝罪」を区別して使い分けることです。

道義的謝罪(読み:どうぎてきしゃざい)
道義的謝罪とは、顧客の主張する事実又は要求を認める内容を含めずに、顧客の感情に寄り添うために道義的な限度で行う法的責任を承認又は発生させない謝罪のことをいいます。

◆法的謝罪(読み:ほうてきしゃざい)
法的的謝罪とは、顧客の主張する事実又は要求を認める内容を含み、法的責任を承認又は発生させ得る謝罪のことをいいます。

イメージを分かりやすくするために、道義的謝罪と法的謝罪の具体例を見てみましょう。

道義的謝罪の具体例

例えば、顧客から「店で買った商品が腐っていた!返金しろ!」とクレームを受けた場合を想定して解説します。

道義的謝罪の具体例

・ご不快なお気持ちにさせてしまい申し訳ありません。
・ご不便を感じさせてしまいお詫び申し上げます。
・お手間を頂戴し、恐れ入ります。

道義的謝罪を行う際のポイント

①顧客側の感情に寄り添う限度にすぎない。
②企業側における具体的な事実の発生は認めない。
③謝罪表現も、社会通念上一般的な道義的対応として相当な限度に留まる。

道義的謝罪の例は、上記のとおりです。道義的謝罪の具体例では、「ご不快なお気持ち」「ご不便を感じ」「お手間を頂戴し」という顧客側の感情の限度で謝罪を行っているにすぎません。そして、“商品が腐っていたかどうか”といった企業側における具体的な事実の発生を認めていません。また、顧客からクレームがあった場合に、当該感情に対して一応の謝罪を行うというのは日本において社会通念上一般的な道義的対応の範疇といえます。

以上のようなポイント①②③を満たしている謝罪は、「道義的謝罪」に当たるといえる可能性が高いでしょう。

法的謝罪の具体例

次に法的謝罪の具体例を見てみましょう。

法的謝罪の具体例

・申し訳ありません、返品交換させていただきます。
・商品の管理を怠り、申し訳ありません。
・私どもの落ち度でした、大変恐れ入ります。

法的謝罪の注意点

①具体的な義務を認めてしまっている。
②具体的な事実の発生を認めてしまっている。
③落ち度を真正面から認めており、道義的対応として相当な限度を逸脱してしまっている。

法的謝罪の例は、上記のとおりです。

上記例では、“返品交換する”という具体的な義務を認めてしまっています。さらに“商品管理を怠り”“落ち度”という企業側における具体的な事実や過失の発生を認めてしまっています。また、顧客からクレームがあった場合に、感情への寄り添いを超えて“落ち度”まで認めるというのは社会通念上一般的道義的謝罪の範疇を些か逸脱しているといえそうです。

以上のようなポイント①②③を満たしている謝罪は、「道義的謝罪」を超え「法的謝罪」に至ってしまっている可能性が高いといえるでしょう。

なお、この記事を読んだクレーマーが、上記表現を引き合いに出して法的責任の発生を主張する可能性を考慮して念のため付記しておきますが、上記表現があれば直ちに法的責任を認める法的謝罪になるという訳ではありません。結局のところ、謝罪のタイミング・状況、その後の対応などの総合的な判断が最も大切です。上記表現は、「法的謝罪に当たる可能性もある表現」だというだけです。

例えば、謝罪の形式・態様(口頭・書面、書面の体裁等)、謝罪がなされた時期・場面、謝罪行為者、謝罪の手続過程、謝罪対象者との力関係等により、謝罪の意味合いは変動しうるので注意が必要です(東京高判H25・9・26金商1428号16頁など)。

とはいえ、上記の例のような謝罪の表現は、企業側において気を付けなければならない表現であることには間違いありません。したがって、既にこのような表現を含む謝罪をしてしまったところクレーマーの行動が激化してしまったような場合は、そのような謝罪をしてしまったことを明らかにして早期にクレーム対応を専門とする弁護士にご相談なさってください。当該謝罪を踏まえたうえでの対応をご検討していただけるでしょう。

道義的謝罪と法的謝罪の効果の違い

以上のように、謝罪は道義的謝罪法的謝罪に区別できることがわかりました。では、道義的謝罪と法的謝罪にはそれぞれどのような効果の違いがあるのでしょうか。

最も大きな違いは、「法的責任」を発生させる根拠事情となるかどうかです。

具体的にいえば、道義的謝罪は「企業側に落ち度があった」という主張や「返金をしろ」という請求が正しいと認定される根拠事情にはまずならないということです。

反対に、法的謝罪は、企業側の法的責任があると認定される根拠事情になり得るということです。初動対応で顧客に対し「返金します」と法的謝罪をしてしまうと、その謝罪自体が新たな義務を発生させてしまう可能性さえあります。

したがって、安易に法的謝罪を行ってしまわないよう、道義的謝罪と法的謝罪を区別して対応することが重要です。

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謝罪要求に対応した4つのステップでとるべき謝罪とは

謝罪要求に対応した4つのステップでとるべき謝罪とは

冒頭でお話ししたように、謝罪要求に対する対応も一般的なクレーム対応のステップと同じく、①【聴取】⇒②【調査】⇒③【判定】⇒④【回答】の4ステップを踏んで、順次対応することが重要です。この4ステップの対応を復習したうえ、各段階において取りうる謝罪の区別をしていきましょう。

NOステップ作業内容とるべき謝罪
1聴取顧客の主張のヒアリングを行う道義的謝罪のみ
2調査聴取を踏まえ、客観的事実関係の確認を行う道義的謝罪のみ
3判定調査を踏まえ、法的責任等について判定を行う道義的謝罪のみ
4回答判定を踏まえ、回答を行う【法的責任なしと判定の場合】
→道義的謝罪のみ
【法的責任ありと判定の場合】
→道義的謝罪又は法的謝罪

ポイント①謝罪の時期 -【回答】の前は道義的謝罪のみ

謝罪を行うときの1つ目のポイントは、【回答】ステップの前は道義的謝罪のみ行うということです。

従業員に対し厳格なマニュアルの教育が難しい状況であれば、「現場従業員は、道義的謝罪のみに留める」と指導することも有益でしょう。現場従業員レベルでは常に道義的謝罪に留め、管理責任者クラスにて判定して法的謝罪の要否を検討するという運用にするとよいでしょう。

ポイント②法的責任の有無 – 法的責任の有無を踏まえつつも、顧客の感情面へのケアを踏まえた適切な対応を

謝罪を行うときの2つ目のポイントは、法的責任の有無に従って2種類の謝罪を使い分けることです。企業側の責任の有無は、大きく3つのパターンに分かれます。これに対応して道義的謝罪と法的謝罪のいずれの謝罪を行うかが変わってきます。

NO企業側の法的責任の有無取りうる謝罪
1一切の落ち度なし道義的謝罪のみ
2法的責任には至らないが落ち度あり(基本的には)道義的謝罪のみ
3法的責任あり道義的謝罪又は法的謝罪を使い分ける

それぞれ簡単に説明していきます。

「一切の落ち度なし」の場合

「一切の落ち度なし」の場合でも、道義的謝罪は、顧客の感情を鎮める方法としてクレーム対応上とても有効です。対応の初期段階から、道義的な謝罪を行うことで早期かつ紛争ボリュームを抑えることができる場合があるからです。したがって、法的な謝罪に至らない道義的対応としての謝罪文言は積極的に利用して差支えありません。ただし、後記「ポイント③拡散リスク」及びむやみにへりくだることによって受け手となるクレーマーに対し誤解を与えないように注意してください。

「法的責任には至らないが落ち度あり」の場合

「法的責任には至らないが落ち度あり」の場合とは、例えば、レジ担当の従業員が勤務時間中に顧客の目前で私語をして顧客対応が遅れたような場合です。確かに、勤務時間中の私語によってお客様をお待たせしてしまった場合には、当該事実に対して謝罪の意を示すのが一般的でしょう。とはいえ、一般的に私語程度で企業側が顧客に対して法的責任を負うことはありません。したがって、この場合にも、法的責任がない場合であるとして、基本的には道義的謝罪で対応します。

ただし、企業側で「謝罪の対象となる事実関係を摘示・記載をした方が事後的な証拠として有効」と判断した場合は、当該事実に限って事実を認める旨の回答をすることも検討できますが、このような判断の際にはクレーマーの請求を認める内容に至っていないかよく検討のうえ対応してください。

「法的責任あり」の場合

「法的責任あり」の場合に、道義的謝罪に留めるか、法的謝罪まで行うかは、非常に難解な問題です。

基本的には、「法的謝罪を行うことが企業側にとってメリットがあるか」を検討して、メリットがあると判定できれば、法的謝罪を行うべきでしょう。

企業側が法的謝罪を行うメリットは、例えば下記のようなものがあります。

企業が法的謝罪を行うメリット

①紛争の早期解決に役立つ
②社会的評価の低下を防ぐことができる
③顧客側の精神的損害を緩和することができる

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メリット①紛争の早期解決に役立つ
法的責任の有無 - 法的責任の有無を踏まえつつも、顧客の感情面へのケアを踏まえた適切な対応を

例えば、顧客側が有している客観的証拠によって明らかに企業側の責任が認められ、訴訟になれば明らかに企業側の法的責任が認められてしまうような場合にまで企業側が法的責任を認めず謝罪しないとすれば、その紛争は訴訟などの裁判手続にまで拡大してしまい、結局企業側は訴訟対応にさらなるコストを負担することになってしまいます。

しかし、紛争解決において適切な時期に法的責任を認め、解決策を提案できれば、訴訟等の「紛争コスト」を圧縮することができます。

メリット②社会的評価の低下を防ぐことができる

今日、企業の社会的評価は重大な問題です。法的責任があるにもかかわらず、これを認めずになおざりな対応を行えば、その情報がインターネット上に公開され企業の社会的評価が低下する恐れがあります。これらのレピュテーションリスクは無視できないほど大きなものになっています。

逆に、企業側の誠実な対応が評価され、良い評判として拡散されることもあります。

したがって、企業としては、法的責任の有無や波及効果も見極めたうえで、適切な段階で法的責任を認め、法的謝罪を行う判断が必要となります。

メリット③顧客側の精神的損害を緩和することができる

死亡事故や重大な身体障害などの結果が伴う事案においては、本人や遺族に対する精神的損害に対する損害賠償責任(慰謝料)が発生することがあります。

そのような事案の場合に、企業側の責任が明白であるにもかかわらず、企業側が責任を回避する姿勢を取り続けているような場合、このような企業側の態度はさらに精神的損害を拡大させる態度であるとして企業側に不利な証拠になってしまう可能性があります。逆にいえば、適切なタイミングで適切な謝罪を行えば、顧客側の精神的な損害を緩和しうるということです。(謝罪の事実を認定し慰謝料増額が排斥された例:東京高判H19・9・20判タ1271号175頁)

ポイント③拡散リスク – 適切な証拠保存を

謝罪を行う際の3つ目のポイントは、拡散リスクに備えて、企業側でも適切な証拠保存を行うということです。

拡散リスクとは、「謝罪の一部だけが切り取られてSNSにアップロードされ、あたかも企業側に重大な侵害行為があったかのように拡散されてしまった」というように、企業側の謝罪が意に反する態様で一般大衆に周知されてしまうリスクのことです。

したがって、基本的には、顧客側が録音・録画を行っているつもりでの対応が必要になります。

予め道義的謝罪対応のマニュアルを作っておくと、不用意な発言を録音等されることを回避することができます。

また、特に、法的謝罪を行う場面は、事後の紛争を回避するために、なるべく企業側でも録音・録画による証拠保存を行います。自己の管理する施設内で証拠保全のために録音する場合で顧客のプライバシー権等を侵害しない場合は、顧客側に対して敢えて録音・録画することを伝えなくても構いませんが、クレーム対応の多い窓口などには予め掲示とともに防犯カメラ等を設置をしておくとよいでしょう。

また、書面回答の場合には、必ず原本の写しの保管を行い、適宜、「内容証明郵便」の方法で送付するなどして、通知した内容は事後的に確認できるようにしましょう。

以上のような対応によって、意図しない切り抜き等に対して反論することが可能です。

また、そもそもの録音・録画を阻止するために、施設内に「施設内での撮影・録音は禁止いたします」等の掲示を行うことも有益です。

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【まとめ】クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を

クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を

以上で見た通り、顧客側から謝罪を求めらたときには、落ち着いて4つのステップ(①【聴取】⇒②【調査】⇒③【判定】⇒④【回答】)を踏んで対応することが大切です。

・【聴取】⇒【調査】⇒【判定】のステップまでは、道義的謝罪のみ行う
・【判定】のステップで「法的責任あり」と判断された場合に限り、【回答】のステップにおいて法的謝罪を行うことを検討する
・拡散リスクに備えて、適切な証拠保存を並行して行う

以上のような対応を行うことが理想ですが、現場においてはなかなかそのような対応を行うことは簡単ではありません。初動対応において法的謝罪ととられる謝罪を行しまい紛争が拗れてしまった段階でご相談に来られる例も多くあります。

紛争を予防するために、スムーズに対応を行うためには、「NGワードや回答パターンを予め作成しておく」、「法的責任の判定基準を予め作成しておく」などの事前のマニュアル作成とマニュアルに添った対応の練習が非常に有益です。

香川総合法律事務所では、当該企業の実態に添った具体的なマニュアル作成及び実演を交えたコーチング研修等を行っております。クレーマー顧客対応や訴訟になった場合のシームレスな訴訟対応も可能ですので、クレーム対応に不安がおありの場合は是非ご相談なさってみてください。

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香川 希理(香川総合法律事務所)
香川総合法律事務所は、カスハラ問題やクレーム対応など、企業法務全般を得意とした法律事務所です。東京の銀座にて、多くの企業様の法的サポートを行っています。マニュアル策定、企業研修、契約書の見直し、クレーム対応等、お困りごとがあればお気軽にご相談ください。カスハラの著書・講演多数の実績ある弁護士が、お客様のお悩みを解決致します。