悪質なクレームやカスタマーハラスメント(カスハラ)を行う顧客の中には、「誠意を見せろ」、誠意の中身については「自分で考えろ」など、曖昧な要求をしてくるケースがあります。
飲食店の店員が顧客の洋服にお茶をこぼしてしまった。丁寧に返答をすべきと考えていたが、顧客はどうコミュニケーションをとっても「誠意を見せろ」としか言わない。どのように対応すべきかわからず協議をしていたところ、顧客を更に怒らせてしまった。
自社の製品が原因で怪我をしたという顧客からクレームを受けた。顧客は「誠意を見せろ」との一点張りで、何をして欲しいか全くわからない。その結果、本来の損害額よりも多額の金銭の賠償をすることになった。
これらは、「誠意を見せろ」と曖昧な要求をしてくる場合の対応について、適切な対応を知らなかったために発生した事態です。
この記事では、「誠意を見せろ」と曖昧な要求をしてくるケースの対応方法についてお伝えします。
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目次
「誠意を見せろ」と曖昧な要求をするクレーマー
クレームの内容として、「金銭の支払いを求める」、「返品・交換を求める」、「謝罪を求める」など、何をして欲しいか伝えるのが通常です。
しかし、これらの要求を伝えず、「誠意を見せろ」と曖昧な要求のみをするケースがあります。
「誠意を見せろ」と曖昧な要求をする理由
なぜ「誠意を見せろ」と曖昧な要求をするのでしょうか。
その理由としては、
- 企業側が余りに不誠実な態度であったために感情的になっている
- 金品・過剰なサービス・土下座など不当な内容を要求しようとしている
ことが考えられます。
企業側があまりにも不誠実な態度であったために感情的になっている
まず、前者のケースを確認しましょう。
例えば、飲食店において、従業員が顧客の衣服にお茶をこぼしたとします。
このときに、衣服にお茶をこぼした従業員が、終始不満そうな顔で謝らなかったらどうでしょうか。
その態度を見て感情的になった顧客が、「誠意を見せろ」と発言することが考えられます。
金品・過剰なサービス・土下座など不当な要求をしようとしている
問題になるのは、後者のケースです。
同じ飲食店で従業員が顧客の衣服にお茶をこぼした事例で検討してみましょう。
本来であれば、こぼしてしまったお茶を拭いて、謝罪をし、場合によってはクリーニング代を支払う等の対応で解決するのが通常でしょう。
これに対し、顧客が迷惑料としてクリーニング代以上の金銭の要求をしたい、飲食代の免除を要求したい、土下座を要求したいなど、不当な内容の要求を意図していることがあります。
しかし、具体的に「金銭を払え」、「飲食代を免除しろ」、「土下座をしろ」等の発言をすると、強要罪(刑法223条)・恐喝罪(刑法249条)・恐喝罪(刑法249条)などの犯罪が成立する可能性があります。
これを避けながら、不当な要求をするための方法として、「誠意を見せろ」などと曖昧な主張することがあります。
「誠意を見せろ」と要求することで脅迫罪・恐喝罪が成立するか
「誠意を見せろ」と要求すること自体が、脅迫罪・恐喝罪が成立することはないのでしょうか。
脅迫罪は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者」に成立します(刑法222条)。
恐喝罪は、「人を恐喝して財物を交付させた者」に成立します(刑法249条)。
「恐喝」とは、反抗を抑圧するに至らない程度の暴行・脅迫をいいます。
脅迫罪、恐喝罪における「脅迫」とは、「一般人をして畏怖させるに足りる害悪の告知」でなければならず、相手方を単に困惑させる場合は含まれません。
そのため、「誠意を見せろ」との単なる言葉だけでは、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し」害を加える旨の告知をしたとはいえず、また、「一般人をして畏怖させるに足りる害悪の告知」でもないため、脅迫罪・恐喝罪は成立しないと解されます。
ただし、脅迫や恐喝に当たるか否かは、告知の内容、相手方の性別、年齢、周囲の状況等が考慮されます。
例えば、神戸地方裁判所平成19年5月10日判決では、被告人が暴力団員と共に、正座した相手に火のついたたばこを投げ、「誠意を見せろ」、「おれら、どんな人間か分かってるやろう」などと発言して、暗に金銭の交付を要求し、応じなければ危害を加える気勢を示した行為につき、恐喝未遂罪が認定されました。
「誠意を見せろ」という曖昧な要求への対応を誤った場合
曖昧な要求への対応を誤ると、「誠意を見せる」努力をしても顧客の要求を満たせなければ「誠意がない」、「誠意が足りない」という論争に巻き込まれます。
また、論争をしている中で、本来認める必要のない法的責任を認めさせられることにも繋がりかねません。
また、一度金品を給付してしまうと、法的責任を認めたものとして、更なる金品等の要求につながってしまう可能性もあります。
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「誠意を見せろ」という曖昧な要求への対応方法
では、「誠意を見せろ」という曖昧な要求にはどう対応すべきでしょうか。
要求が何かを聴き取る
まず、「誠意」とは何かを聴き取り、相手の要求を確認しましょう。誠意の中身については「自分で考えろ」と言われた場合であっても、可能な限り何を求めているかを聴き取るように努めましょう。
その結果、相手の要求を明確に特定できれば、あとは通常のクレーム対応として取り扱うことが可能です。
要求の具体的内容が明らかにならない場合
相手が要求することを聴き取ろうと努めたものの、なおも具体的要求が明らかにならない場合にはどのように対応すべきでしょうか。
まず、いつまでも「誠意」とは何かを顧客と議論する必要はありません。
この場合、要求内容を聴き取る時間を決めておき、決められた時間が過ぎれば対応を打ち切ることを検討しましょう。そして、聴き取る時間を決めておいたとしても、同じ事ばかり繰り返す場合には対応を打ち切ることを検討しましょう。
対応を打ち切る場合には、「これ以上は私の判断では回答できませんので会社において事実関係を確認した上で会社として回答をします」と告げて対応を終えます。
その上で、事実関係を確認して、責任の判定を行い、会社として回答を行います。
組織として回答する
回答をする場合には、個人が独断で回答するのではなく、会社として回答をするようにしましょう。
責任については個人ではなく企業としての責任判定を行い、その結果として企業が行うべき対応を行えば、誠意ある対応としては十分です。
過剰な要求に対しては、「これが当社の誠意ある回答です。これ以上は応じかねます」と拒絶するようにしましょう。
まとめ
本記事のまとめは以下の通りです。
- 「誠意を見せろ」と曖昧な要求をする理由は、”感情的になっている”、”不当な要求をしようとしている”のどちらか
- 問題になるのは”不当な要求をしようとしている”場合
- 「誠意」とは何かを聴き取り、相手の要求を確認すること
- 最終的には個人が独断で回答するのではなく、会社として回答をする
香川総合法律事務所では、当該企業の実態に添った具体的なマニュアル作成及び実演を交えたコーチング研修等を行っております。クレーマー顧客対応や訴訟になった場合のシームレスな訴訟対応も可能ですので、クレーム対応に不安がおありの場合は是非ご相談ください。
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