インターネット上の誹謗中傷・カスハラ対応ガイド②|効果的な対策と法的手続きの解説

インターネット上の誹謗中傷・カスハラ対応ガイド②|効果的な対策と法的手続きの解説

インターネットの普及により、誰もが自由に情報を発信できる時代になりました。この変化は多くのメリットをもたらしましたが、一方で、企業や個人に対する根拠のない誹謗中傷が簡単に拡散されるリスクも高まっています。特に、食品販売会社など、消費者の健康や安全に直接関わる業界では、インターネット上の誤情報や誹謗中傷が企業の信用や売上に甚大な影響を及ぼす可能性があります。

今回は、ある食品販売会社がインターネット上で誹謗中傷に直面し、その対応に法的措置を検討した事例を取り上げ、企業がオンライン上での誹謗中傷にどのように対処すべきか、法的な側面から考察していきたいと思います。この事例を通して、カスハラやクレーマーによる不当な攻撃に対して企業が取り得る適切な対策や、事前に備えておくべきポイントについても考えてみましょう。

インターネット上の誹謗中傷・カスハラ対応ガイド①|クレームへの効果的な対処法

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インターネット上に誹謗中傷を書かれたケース

インターネット上に誹謗中傷を書かれたケース

以下は、今回取り上げる事例になります。

フウズ株式会社は日本全国で食品販売を行う会社である。
インターネット上の掲示板に「フウズは外国産の商品を日本産と偽って表記して販売している」という書込みが発見された。
掲示板のログを遡ってみると、同旨の書込みが同じ時間帯に繰り返されていることが分かった。また、フウズ株式会社の代表取締役山田太郎についても「フウズの山田太郎は稀代の悪人」などと中傷されていることが分かった。
フウズ株式会社では、産地偽装の事実は一切なく、日本産の原産地証明を取得している。
フウズ株式会社は、当該書込みの発信者に対して,法的措置を検討することとした。

この事例をもとに、考察していきましょう。

本事例における法的措置の検討

フウズ株式会社がインターネット上で不当な誹謗中傷に直面した事例では、「外国産の商品を日本産と偽って表記して販売している」という虚偽の内容が投稿され、会社の評判を著しく低下させました。このような事実無根の投稿は、フウズ株式会社の名誉権を侵害する行為とみなされ、民事上の損害賠償請求や差止め請求が可能です。

また、この行為は偽計業務妨害の疑いがあり、刑事上の責任を追及することも検討されます。しかし、刑事事件への移行は難易度が高いため、通常は民事訴訟による解決が優先されます。

プロバイダ責任制限法に基づく情報開示の手続き

プロバイダ責任制限法に基づく情報開示の手続き

インターネット上のクレームへの対応方法として、プロバイダ責任制限法に基づく開示手続きがありますこれは、誰がそのクレームを書き込んだのかを特定するために必要な手続きです。

たとえば、あなたの会社に対して不当なクレームやカスハラがインターネット上で行われた場合、法的な対応をするためには、まずその書き込みをした人の情報を知る必要があります。しかし、インターネット上の書き込みはほとんどが匿名で行われます。

そのため、訴訟を起こすなどの法的措置を取る前に、書き込んだ人の氏名や住所などの情報をプロバイダ責任制限法に基づいて開示してもらう必要があるのです。

情報開示手続きの方法

インターネット上でのカスハラや不当なクレーム、誹謗中傷に適切に対応するためには、問題のある投稿をした方、つまり発信者の情報を特定する必要があります。このために、プロバイダ責任制限法に基づいた発信者情報の開示手続きが用いられるのが一般的です。ただし、このような手続きは投稿者のプライバシーに関わるため、通常は裁判を通じて行われることが多く、裁判外での開示は稀です。

開示手続きの対象となるのは、投稿者自身ではなく、その投稿が行われたサイトを管理している「特定電気通信役務提供者」、例えばSNSやブログのサイト管理者、またはその投稿を通じて情報をやり取りしている通信事業者です。これらの管理者や事業者は、問題の投稿に関連する発信者の氏名や住所、メールアドレス、IPアドレスなどの情報を持っています。

法改正により、従来の民事保全や民事訴訟による開示請求に加えて、非訟事件手続きが新設されました。この新しい制度を利用すると、裁判所に対して直接、発信者情報の開示命令を申し立てることが可能になります。この手続きにより、複数の裁判所を通じた審理が必要だった従来の方法と比べて、より迅速かつ簡単に情報の開示が行われることが期待されています。

このような手続きを通じて、インターネット上の不適切な投稿によるカスハラやクレームに対して、クレーマーの情報を特定し、適切に対処するための法的な基盤が整備されています。

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プロバイダ責任制限法に基づく開示請求の要件

プロバイダ責任制限法に基づく情報開示請求には、以下の要件があります。

特定の電気通信による情報の流通

これは、公にアクセス可能な情報発信を意味し、メールやチャットなどのプライベートな通信は含まれません。

情報の「保有」

情報を保有していることが必要で、特にインターネットプロバイダーの情報保持期間(通常は3〜6ヶ月程度)に注意が必要です。

権利侵害の明白性

総務省は、不法行為などの成立を否定する理由がないことを意味するとしています。名誉毀損の場合、違法性阻却事由の不存在も主張・立証の対象になる点に注意が必要です。また、名誉毀損に基づく損害賠償請求では「同定可能性」が問題となります。これは、一般の読者がインターネット上の書き込みを見たときに、対象者を特定できるかどうかを意味します。このため、書き込みの前後関係などを含めた広範な証拠収集が有益です。

正当な理由

情報開示を求める合理的な必要性を指します。権利侵害に対する民事上の請求を行うために開示を求める場合には、正当な理由が存在します。

特定発信者情報の開示を求める場合の追加の要件

改正プロバイダ責任制限法では、「特定発信者情報」の開示も可能であることが明記されています。これには、問題の書き込みを行った際のログイン・ログアウトなどの通信情報が含まれます。特定発信者情報の開示を求める場合は、上記の要件に加え、特定の追加要件を満たす必要があります。これは主に、ログイン型サイト(例: Twitter、Facebook)において利用されることが想定されます。

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ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|確認・調査・判定

ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|確認・調査・判定

インターネット上でカスハラやクレームに対処する際、最初のステップとして「確認」、「調査」、「判定」の3つのプロセスを行います。

①書き込み日時の確認

まず、問題となる書き込みがされた日時を確認します。インターネットプロバイダーがIPアドレスなどの情報を保持している期間は一般的に3か月から6か月ほどです。また、情報開示請求の手続き自体にも時間がかかるため、書き込みがされてから時間が経過しすぎていると、情報の開示を受けることが難しくなる可能性があります。

②IPアドレスなどの開示請求の対象者の確認

次に、問題の書き込みが行われたウェブサイトの管理者、つまりコンテンツプロバイダーを特定する必要があります。ウェブサイトのフッターに記載されている権利者情報やドメインの所有者から、管理者を調査することが多いです。たとえば、インターネット上の掲示板「5ちゃんねる」であれば、フィリピン法人のLoki Technology, Inc.が情報開示請求の相手方となります。

③権利侵害の存在と開示請求の要件の検討

損害賠償請求の根拠となる権利侵害が実際に存在するか、また、その権利侵害が明白かどうかを検討する必要があります。

名誉毀損の場合など、違法性阻却事由がないことを証明する必要があります。また、特定の書き込みだけでは請求者が誰を指しているのか不明瞭な場合があるため、書き込みの文脈や他の書き込みとの関連性を明らかにし、自社の権利が侵害されていることを示す必要があります。例えば、他の書き込みで自社の代表者に対する侮辱的な発言がある場合、それらを根拠に自社への書き込みであると特定する工夫が求められます。

ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|記録と証拠化

ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|記録と証拠化

インターネット上でカスハラやクレームに適切に対処するためには、問題のある書き込みを発見した際に、情報が改変されたり失われたりすることを防ぐために、すぐに記録と証拠化を行うことが重要です。

記録と証拠化の必要性

問題のある書き込みを見つけたら、すぐに記録と証拠化を行う必要があります。これは、情報の改変や散逸を防ぐためです。

証拠化の範囲

証拠として必要なのは、問題の書き込み自体はもちろん、権利侵害の明白性、書き込みが特定の個人や組織を指していることの同定可能性、違法性を否定する事由がないことを示す証拠も含まれます。これらの要素を網羅するために、できるだけ広範囲の情報を保存することが望ましいです。

具体的な証拠化方法

証拠化する際には、問題の書き込みがあるウェブサイトを開いて、アドレスバーにURLを全て表示させた状態でスクリーンショットを撮ります。スクリーンショットが取れない場合は、ウェブサイトを印刷することも一つの方法です。印刷する際には、印刷日時とURLが分かるように、ヘッダーやフッターにこれらの情報が出る設定で印刷しましょう。

このようにして、カスハラやクレームに対応する際の重要な第一歩として、証拠を確実に保存することができます。

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ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|発信者情報開示手続き

ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|発信者情報開示手続き

インターネット上でのカスハラやクレームに効果的に対処するためには、問題のある書き込みをした発信者の情報を開示してもらう必要があります。このプロセスは、主に民事保全や訴訟のルートを通じて行われます。

コンテンツプロバイダー(CP)への対応

まず、問題の書き込みに関連するIPアドレスやタイムスタンプなどの情報を開示してもらうために、コンテンツプロバイダーに対して発信者情報の開示を求める仮処分命令を申し立てます。この際、情報の開示が急務であることや、開示請求の正当性を明確に主張する必要があります。また、開示請求には通常、10万円ほどの担保金が必要となる場合があります。

特に、外国法人が運営するウェブサイトの場合、適切な裁判管轄を選定することが重要です。たとえば、「5ちゃんねる」のようなサイトの場合、東京地方裁判所が管轄となることが多いです。管轄を間違えると手続きに支障が出るため、注意が必要です。

インターネットプロバイダー(AP)への対応

IPアドレスなどの情報を開示してもらった後、発信者の具体的な契約者情報を開示してもらうためには、インターネットプロバイダーに対して、さらなる手続きを進める必要があります。その際、開示手続きが完了するまでの間、重要な通信ログが消去されないよう、消去禁止の仮処分命令を申し立てることが求められます。ただし、すでに仮処分が認められている場合、プロバイダーが自主的に情報の保持に協力してくれることもあります。

この手続きを経ることで、最終的に発信者の具体的な情報、例えば住所や氏名などを開示してもらうことが可能となります。これにより、インターネット上の不適切な書き込みに対して、適切な法的措置を講じることができるようになります。

ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|発信者情報開示手続きの非訟事件ルート

インターネットでのカスハラやクレームに対応するため、発信者の情報開示を求める手続きには、裁判を伴わない「非訟事件ルート」があります。

コンテンツプロバイダー(CP)への開示命令申立て

この非訟事件ルートでは、まずコンテンツプロバイダー(CP)に対して、発信者の情報開示を求める開示命令や提供命令の申立てを行います。これは従来の民事保全や訴訟ルートで行う発信者情報の開示仮処分命令申立てと同様の手続きです。ただし、大きな違いとして、民事保全のような仮処分手続きではないため、保全の必要性を主張する必要がなく、担保金や送達も不要です。これにより、申立人は手続きにかかる費用と時間を大幅に節約できます。

インターネットプロバイダー(AP)への開示命令申立て

次に、インターネットプロバイダー(AP)に対しても開示命令の申立てを行います。これは、従来の民事保全や訴訟ルートで行う発信者情報の開示請求訴訟や消去禁止の仮処分命令申立てに相当します。非訟事件ルートでは、開示命令申立てが行われる裁判所で、消去禁止命令の申立ても一緒に行われ、審理がより迅速かつ簡便に進められるようになっています。

異議申し立て

開示命令申立てに関する決定に不服がある場合、当事者は決定の通知を受けてから1ヶ月以内に異議申し立てを行うことができます。これにより、迅速な手続きと慎重な審査のバランスが保たれています。

このように、非訟事件ルートを利用することで、インターネット上の問題行為に対して、よりスムーズに発信者の情報開示を求めることが可能になります。

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ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|発信者への損害賠償請求

ネット上のカスハラ・誹謗中傷への対応プロセス|発信者への損害賠償請求

インターネットでのカスハラやクレームへの対応として、問題のある投稿をした発信者に対する損害賠償請求があります。発信者が特定された場合でも、その人は基本的にインターネットの契約者であり、具体的な投稿者を特定するためには、さらに詳細な情報が必要になることがあります。

具体的な投稿者の特定

具体的な投稿者を特定する過程では、住民票の請求など、さらなる情報が必要になる場合があります。投稿者が明らかになった後は、どのような法的措置を講じるかを慎重に検討する必要があります。

投稿者の属性による対応の違い

投稿者が一般の消費者である場合、社内従業員である場合、または競業他社である場合など、その属性に応じて取るべき措置が異なります。それぞれのケースで損害賠償請求、懲戒処分、競業他社への特定依頼などの対応が考えられます。

損害賠償請求における弁護士費用

発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行う際には、開示請求にかかった弁護士費用も損害として請求することが一般的です。実際の裁判例では、開示請求に要した費用が相当因果関係のある損害として認められた事例もあります。

このように、インターネット上の問題行為に対しては、発信者の情報開示を経て、適切な損害賠償請求を行うことが重要です。その過程で発生する費用も含め、適切な法的措置を講じることがカスハラやクレームへの対応策となります。

まとめ

インターネット上の誹謗中傷・カスハラ対応ガイド②|効果的な対策と法的手続きの解説のまとめ

インターネット上でのカスハラやクレームへの対応は、企業や個人にとって大きな課題となっています。本記事では、プロバイダ責任制限法に基づく情報開示手続きを中心に、適切な対応方法を探りました。

問題のある書き込みに対しては、まず確認、調査、判定のステップを踏み、必要に応じて記録と証拠化を行います。その上で、発信者情報の開示請求を通じて、具体的な対処を行うことが重要です。

発信者情報の開示手続きには、民事保全・訴訟ルートと非訟事件ルートがあり、それぞれに適した手続きが存在します。これらの手続きを通じて発信者が特定された場合、さらなる情報の収集が必要となり、最終的には損害賠償請求などの法的措置を検討することになります。

インターネット上のカスハラやクレームに適切に対応するためには、法的知識だけでなく、迅速かつ的確な対応が求められます。企業や個人が自力で対応するには限界があるため、専門家のアドバイスやサポートを受けることが望ましいでしょう。

香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。

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