昨今、カスハラが問題になる中、「お客様は神様」という認識は昔のものになってきました。
理不尽な暴言や要求への我慢は、美徳ではありません。あなたと大切なスタッフの心を殺す自傷行為と同じです。
悪質なカスタマーハラスメント(カスハラ)は、もはや「クレーム対応」や「接遇」で解決すべき問題ではありません。必要なのは、法的に排除する「撃退」の意思と技術です。
「カスハラを撃退するにはどうすればいいですか?」 「カスハラ撃退方法を間違えて、逆上されたら怖い」
そんな不安を抱える現場責任者の方へ。 この記事では、企業法務に強い弁護士監修のもと、「相手が一発で黙る魔法の言葉」や「警察を確実に動かす証拠セット」など、明日から現場で使える具体的な武器を網羅的に解説します。
もう、クレーマーに怯える必要はありません。毅然とした対応を心がけましょう。
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目次
どこからがカスハラ?撃退前に正当なクレームとの決定的な違いを知る

現場スタッフが最も迷うのは、「これを断ったらクレームになるのでは?」という境界線です。 しかし、正当なクレームと悪質なカスハラには、決定的な違いがあります。
まずはこの「線引き」を理解し、「ここまでは聞く(仕事)」「ここからは戦う(防衛)」と腹を括ることが、カスハラ撃退の第一歩です。
判断のモノサシは「要求内容」と「要求手段」の2軸
厚生労働省の指針に基づくと、両者の違いは以下の2軸で整理できます。
- 正当なクレーム:「企業にとって有益な情報」
- 特徴: 商品不備や接客ミスへの指摘、改善要求。
- 判断: 「要求内容」が妥当で、かつ「手段」が穏当。
- 対応: 謝罪、改善、規定範囲内での補償。(これは「仕事」です)
- カスタマーハラスメント:「従業員を傷つける攻撃」
- 特徴: 要求内容が不当、または**「手段が攻撃的」**であること。
- 判断: 「土下座しろ(強要)」「SNSに晒すぞ(脅迫)」など、手段が社会通念上許されない。
- 対応: 拒絶、警告、警察通報。(これは「防衛」です)
「お客様」が「加害者」に変わる瞬間
重要なのは、「たとえ店側に100%のミスがあっても、相手が許されるわけではない」という点です。
例えば、料理に異物が混入していたとします。これは店側のミスであり、謝罪と交換が必要です。 しかし、その客が「店長を出せ! 土下座しろ! 慰謝料100万払え!」と大声で怒鳴ったり、暴言を吐いたりした瞬間、その人は「お客様」から「加害者(犯罪者)」に変わります。
このロジックを社内で徹底してください。 「相手が加害者に変わった」と認識できれば、社員は罪悪感なく、「接客モード」から「撃退モード」へスイッチを切り替えられます。
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なぜ丁寧な対応ではカスハラは撃退できないのか?
多くの人が陥る間違いが、「もっと丁寧に謝れば、いつか分かってくれる」という思い込みです。 しかし、悪質なクレーマー相手にその常識は通用しません。丁寧さは火に油を注ぐだけです。
カスハラ・クレーマーは「謝罪」を「攻撃の合図」と捉える
悪質なカスハラやクレーマーの心理的欲求は、「問題の解決」ではなく、「相手を屈服させ、優越感に浸ること」にあります。
あなたが「申し訳ございません」と頭を下げるたび、彼らの脳内では「俺が正しいから謝った」「もっと強く言えばもっと言うことを聞くぞ」という報酬系回路が刺激されます。つまり、謝罪は彼らにとって「攻撃の合図(エサ)」なのです。
「申し訳ございません」は、最初の1回(または事実確認ができるまで)で十分です。
不当な要求が出た時点で、「謝罪」から「拒絶」へとフェーズを変える勇気を持ってください。
「撃退」とは相手に「リスク」を認識させること
では、カスハラを撃退する方法は何か? 答えはシンプルです。「これ以上やると、自分(クレーマー)が損をする」と認識させることです。
説得や議論は無意味です。 「あなたの行為は犯罪になる」「これ以上は警察沙汰になる」という事実(リスク)を突きつけ、相手のメリットを消滅させることが、唯一かつ最強の解決策です。
業種別・カスハラを撃退した成功事例

カスハラやクレーマーの撃退などが漫画になったり、スカッとする話が人気なのは、誰もが理不尽な客を成敗したいと願っているからです。 しかし、現実にお客様や周りの人が助けてくれるとは限りません。自分たちで身を守るしかありません。
ここでは、実際にあったカスハラの撃退事例を業種別に紹介します。これらはフィクションではなく、マニュアルと法律を武器に戦った現場の記録です。
事例1:コンビニ・小売店「レジ前居座りおじさん」の撃退
【状況】 夕方の混雑時、50代男性客が「態度が気に入らない」と女性アルバイトを怒鳴りつけ、レジを占拠。「店長呼べ!」と叫び続け、他のお客様の会計ができない状態が20分続いた。
【撃退アクション】 駆けつけた店長は、男性客の要求(謝罪)には一切耳を貸さず、「業務妨害」の一点張りで対抗した。
- 警告: 「お客様、他のお客様のご迷惑になります。お引き取りください」と退去要請(不退去罪の要件作り)
- 証拠: 「これ以上は警察を呼びます」と告げ、スマホで動画撮影を開始(証拠保全と心理的圧力)
- 通報: 「帰らない」と言った瞬間に110番。「客と揉めている」ではなく「業務妨害の現行犯がいる」と通報
【結果】 警察官到着後、店長は「被害届を出します。処罰を望みます」と毅然と主張。男性客は連行され、後日、店への接近禁止誓約書を書かせることで解決。
事例2:医療・クリニック「特別扱い強要患者」の撃退
【状況】 「俺は常連だぞ! 順番を先にしろ!」と受付で怒鳴る高齢男性。待合室の他の患者も怯えていた。
【撃退アクション】 院長は応招義務(医師法上の診療義務)の例外規定である「信頼関係の喪失」を適用し、診療拒否を通告した。
- 記録: 受付スタッフがボイスレコーダーで暴言をすべて録音
- 通告: 院長が出ていき、「大声での威嚇行為は、他の患者様の迷惑であり、当院の診療業務を著しく妨害するものです」と明言
- 拒絶: 「信頼関係が築けないため、今後の診療は一切お断りします。他院へ行ってください」と診療拒否を通達
【結果】 「医師法違反だ!」と騒いだが、院長が「警察を呼んで判断してもらいましょうか」と受話器を取ったところで退散。毅然とした態度は他の患者からも称賛された。
事例3:コールセンター「執拗なリピートコール」の遮断
【状況】 商品に対する些細な不満から、毎日1時間以上の電話をかけてくる男性。担当者の人格否定や「死ね」などの暴言を繰り返していた。
【撃退アクション】 組織として「特定顧客対応フロー」を発動し、個人の判断ではなくシステム的に遮断した。
- 定義: 「1日〇回以上、または通算〇時間以上の架電」「暴言が含まれる」を基準に、カスハラ認定。
- 警告: 「これ以上の暴言は録音データを警察に提出します」と最終通告。
- 遮断: 着信拒否設定を行い、担当者には「かかってきても繋がない」ことを徹底。
【結果】 電話がつながらなくなったことで相手は諦めた。会社が「切っていい」と許可を出したことで、オペレーターの離職も防げた。
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カスハラを一発で黙らせる撃退キラーフレーズ集

ここからは、実際に現場で使えるカスハラ撃退方法(トークスクリプト)を紹介します。 ポイントは、感情を殺し、事務的に、壊れたレコードのように繰り返すことです。
レベル1:理不尽な要求を断ち切る「壊れたレコード戦法」
「誠意を見せろ」「特別に認めろ」としつこく食い下がられた時、言い訳や新たな提案はNGです。相手に「交渉の余地がある」と思わせるだけです。
【最強の返し技】
「恐れ入りますが、ご要望にはお応えできません。」 「それが当店のルールとなっております。」
どんなに言葉を変えて要求されても、このフレーズを一字一句変えずに繰り返してください。 「なぜだ!?」と聞かれても、「規定ですので」「ルールですので」とだけ答えます。
これにより、相手は「こいつには何を言っても無駄だ」と悟り、諦めます。
レベル2:暴言・威嚇に対する「警告フレーズ」
大声で怒鳴る、机を叩く、人格を否定する暴言が出たら、即座に法的リスクを提示します。
【脅迫・暴言へのカウンター】
「お客様、そのような大声での発言は『威力業務妨害』にあたる可能性があります。おやめください。」 「その言葉は『脅迫』と受け取れますが、よろしいですか?」
「やめてください」と懇願するのではなく、「その行為は法律違反だ」と通告するのがポイントです。 具体的な罪名を出すことで、相手は「こいつは法律を知っている、ヤバい」とひるみます。
(参考条文:刑法第223条(強要)、第234条(威力業務妨害))
レベル3:電話・コールセンター向け「ガチャ切り通告」
顔が見えない電話では言いたい放題になりがちですが、電話には最強の防御策「切断」があります。 無言で切ると逆上を招くため、必ず「通告」してから切ります。
【切断の決定打】
「これ以上お話ししても平行線ですので、電話を切らせていただきます。」(ガチャン) 「これ以上の暴言は業務の妨害になります。録音データを持って警察に相談させていただきます。失礼します。」(ガチャン)
また、通話開始時に「サービス向上のため、通話を録音させていただきます」というアナウンスを入れるだけで、悪質クレーマーの半数は抑制できるというデータもあります。録音は最強の盾です。
これらは自らを守るためのマニュアルと法律です。現場の従業員自身撃退できる力をつけることこそが、真の対策となります。
カスハラを撃退!警察への通報と出入り禁止(出禁)の完全手順

言葉での警告が通じない場合、もはや躊躇は無用です。 速やかに公権力(警察)と法的措置を発動させましょう。これは、従業員の安全を守るための管理者の義務です。
警察を呼ぶタイミングと「110番」での伝え方
「これくらいで呼んでいいのかな?」と迷う必要はありません。 「身の危険を感じた時」「業務に支障が出た時」が通報のタイミングです。
110番通報の際、伝え方を間違えると「民事不介入」と判断され、到着が遅れるリスクがあります。 「お客様とトラブルになっています(民事)」ではなく、以下のように「事件性(刑事)」**を強調して伝えてください。
- ×NG: 「お客さんと揉めていて困っています」
- ◎OK: 「店内で暴れている人がいます。従業員に危険が及んでいます」
- ◎OK: 「帰ってくれと言っても帰らず、業務妨害を受けています」
(参考:警察庁「110番通報のポイント」 ※各都道府県警察共通)
最強の通告書「内容証明郵便」の書き方とテンプレート
その場を収めても、また来店されたら意味がありません。悪質客との縁を完全に切るために、「出入り禁止(出禁)」を書面で通知しましょう。
口頭での「もう来ないでください」だけでは、後で「聞いていない」と言われます。 内容証明郵便(誰が、いつ、どんな内容の手紙を出したかを郵便局が証明してくれるサービス)を使うことで、強力な証拠となります。
【内容証明に記載すべき5つの要素】
- 被通知人: 相手の住所・氏名
- 通知人: 自社の住所・代表者名(店長名でも可)
- 事実の摘示: 「貴殿は〇年〇月〇日、当店において〇〇という迷惑行為を行った」
- 通告内容: 「今後、当店の敷地内への立ち入り、および電話等での連絡を一切拒否する」
- 法的措置の予告: 「違反した場合は、直ちに建造物侵入罪および不退去罪として警察に通報する」
【そのまま使えるテンプレート】
通知書
〇〇県〇〇市〇〇町〇ー〇 〇〇 〇〇 殿
冠省 貴殿に対し、以下の通り通知いたします。
貴殿は、令和〇年〇月〇日、当店(店舗名)において、従業員に対し長時間にわたり大声で罵倒し、業務を著しく妨害いたしました。 このような行為は、当店の業務遂行を妨げるものであり、断じて容認できません。
つきましては、本日以降、当店の敷地内への立ち入り、および電話・メール等による一切の接触をお断りいたします。
万が一、本通知に反して来店された場合、または当店の業務を妨害する行為が確認された場合は、直ちに**建造物侵入罪(刑法130条)および威力業務妨害罪(刑法234条)として警察に通報し、法的措置を講じますので、ご承知おきください。
令和〇年〇月〇日 〇〇県〇〇市〇〇町〇ー〇 株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇
これを送った後に来店すれば、その時点で「建造物侵入罪」の現行犯になります。警察も即座に動けます。
(参考条文:刑法第130条(住居侵入等))
警察に提出するための「証拠セット」の作り方
警察を動かすためには、客観的な証拠が不可欠です。 「言った言わない」の水掛け論にならないよう、以下の3点を確保してください。
- 防犯カメラ映像: 相手の暴力的な態度や居座っている時間の証明。
- ボイスレコーダー(録音): 暴言や脅迫の内容証明。
- 対応記録メモ: 日時、場所、相手の発言、こちらの対応を時系列で記録したもの。
※「秘密録音(相手の同意なしの録音)」は違法ではありません。 自分の身を守るための正当な行為として、証拠能力も認められます。堂々と録音してください。
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カスハラから物理的に身を守る!防犯グッズと環境整備の鉄則

言葉や法律だけでなく、「物理的な環境」を変えることで、カスハラを未然に防ぎ、発生時の被害を最小限に抑えることができます。
「名札」はイニシャルか名字のみに変更する
近年、名札のフルネームからSNSアカウントを特定され、ストーカー被害に遭うケースが急増しています。 従業員のプライバシーを守るため、名札は「名字のみ」、あるいは「イニシャル」「ビジネスネーム」に変更することを強く推奨します。これは多くの自治体や企業(バス、タクシー業界など)でも導入が進んでいる対策です。
「防犯カメラ作動中」ステッカーの抑止力
「見られている」という意識は、犯罪心理を抑制します。 高価なシステムを入れなくても、レジ前やカウンターの目立つ位置に「防犯カメラ作動中」「トラブル防止のため録音・録画しております」というステッカーを貼るだけで、一定の抑止効果があります。
カウンター越しの対応を徹底する(空間支配術)
- 座らせない: 椅子に座ると相手はリラックスし、話が長期化します。立ったまま対応することで、「早く終わらせたい」という心理的圧力を与えます。
- カウンターを挟む: 物理的な障壁を作ることで、相手の侵入を防ぎ、心理的距離を保ちます。
- バックヤードに入れない: 密室に連れ込まれると、脅迫や暴力のリスクが高まります。必ず**「衆人環視(他の客やスタッフの目がある場所)」**で対応してください。
一人で戦わない「複数人対応」の鉄則
クレーマーは、弱そうな相手(特に一人で対応している女性など)を狙い撃ちします。 対応が長引くと判断したら、すぐに「複数人」で囲んでください。
- 役割分担: 「交渉役」と、その横で黙ってメモを取る「記録係」を配置します。
- 無言の圧力: 記録係がスマホを構える(撮影するフリをする)だけでも、相手は「証拠を撮られている」と警戒し、トーンダウンします。
もし「SNSで晒すぞ」と脅されたら?【ネット・炎上対策】

スマホ全盛の今、「動画に撮ってネットに晒すぞ」という脅し文句が増えています。 しかし、ここで怯んではいけません。
「どうぞ」と開き直るのが正解である理由
結論から言うと、「どうぞ、ご自由に」という態度で構いません(実際に口に出すと挑発になるので、冷静に毅然と)。
なぜなら、従業員の顔が映った動画を無断で公開し、誹謗中傷することは、「名誉毀損罪」「肖像権侵害」「侮辱罪」などの不法行為にあたるからです。 逆に相手を訴える材料を、相手自らが提供してくれているようなものです。
また、理不尽なクレーマーに対し、店員が毅然と対応している動画が拡散された場合、ネット上の世論は「店員がかわいそう」「立派な対応だ」と店側を擁護する傾向にあります。
削除請求と発信者情報開示請求の流れ
万が一、悪質な書き込みをされた場合は、以下の手順で対応します。
- 証拠保存: 投稿のURL、スクリーンショットを保存。
- 削除請求: サイト管理者(X、Googleマップ等)に対し、削除フォームから依頼。
- 開示請求: 弁護士を通じて「発信者情報開示請求」を行い、投稿者を特定して損害賠償を請求する。
このロードマップを知っていれば、「晒すぞ」という脅しはもはや脅威ではありません。
(参考:総務省「プロバイダ責任制限法 Q&A」)
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カスハラの撃退まとめ|あなたの勇気が、従業員とお店の未来を守る

ここまで、カスハラを撃退する具体的なマインドとテクニックを解説してきました。
最後に、これだけは覚えておいてください。 カスハラを撃退することは「冷たい対応」ではありません。それは、他の善良なお客様と、大切な従業員を守るための「正義の行使」です。
あなたが勇気を持って「NO」と言うことで、救われるスタッフがいます。 一人で抱え込まず、法律、警察、そして組織の力をフル活用して戦ってください。
【あなたの会社を守るための次のアクション】
- 撃退トークの共有: 記事内のフレーズを印刷し、レジ横などの見えない場所に貼っておく。
- 証拠確保の準備: ボイスレコーダーを常備し、即座に録音できる体制を作る。
- 専門家との連携: いざという時にすぐ相談できる弁護士や、マニュアル作成のプロを見つけておく。
理不尽な暴力に屈することなく、誇りを持って働ける職場を取り戻しましょう。
現場を守る「備え」は万全ですか?
「内容はわかったけれど、実際にトークスクリプトを作成する時間がない」 「万が一のために、プロにフォローしてもらえる体制を作っておきたい」
そんな現場責任者の方や経営者の方々へ、私たちはカスハラ対策の専門家として、無料相談を実施しています。
カスハラ関連の著書出版・講演多数の実績ある弁護士が、企業の抱えるハラスメント問題を解決致します。
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