カスハラの暴言例と刑法一覧|現場を守る判断基準5選【完全版】

カスハラの暴言例と刑法一覧|現場を守る判断基準5選【完全版】

「お客様は神様」という言葉を盾に、人格を否定するような暴言や、身の危険を感じる脅迫を受けて苦しんでいませんか?

「お前なんか辞めろ」「死ね」「土下座しろ」……。 毎日浴びせられるその言葉、決して我慢する必要はありません。なぜなら、その暴言はもはやクレームではなく、刑法に触れる「犯罪行為」である可能性が極めて高いからです。

しかし、多くの現場スタッフや管理者が「どこからがカスハラなのか分からない」「警察を呼んでいい基準が曖昧だ」という理由で、泣き寝入りしています。これでは、従業員の心は壊れてしまいます。

この記事では、厚生労働省の定義や過去の判例に基づき、「カスハラ認定される具体的な暴言例」をレベル別に一覧化しました。さらに、その言葉を言われた瞬間に取るべき「証拠保全」と「法的措置」の手順まで、実務的な視点で徹底解説します。

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目次

どこからがアウト?カスハラの暴言の3つの判断基準

どこからがアウト?カスハラの暴言の3つの判断基準

現場で最も迷うのは、「顧客が怒っているだけなのか」、それとも「悪質なカスタマーハラスメントなのか」の線引きです。ここが曖昧だと、スタッフは自信を持って対応を断ることができません。

まずは、厚生労働省が示している明確な基準を理解し、「ここからはアウト」という境界線を頭に叩き込みましょう。

厚生労働省が定める「精神的攻撃」の定義

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを判断する軸として以下の2点を挙げています。

  1. 要求内容の妥当性(その要求は正当か?)
  2. 手段・態様の相当性(その言い方ややり方は社会通念上許されるか?)

特に暴言において重要なのは、「2. 手段・態様の相当性」です。

たとえ「商品に虫が入っていた」という店側のミス(要求内容に妥当性あり)があったとしても、それに対して「死んで詫びろ!」「バカ野郎!」と怒鳴り散らすことは、手段として「社会通念上不相当」であり、完全にアウトです。

「店側に落ち度があっても、暴言を吐いていい理由にはならない」

このロジックが、カスハラ認定の根幹です。

(出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

単なる「お叱り」と「違法な暴言」の境界線

では、具体的にどのような言葉や態度が境界線を超えるのでしょうか? 現場感覚としては、以下のように分類して判断してください。

【セーフ(受忍限度内のお叱り)】

まだ「お客さま」として対応すべき段階です。

  • 商品やサービスに対する不満・指摘
  • 敬語を使わない、タメ口
  • 一時的に声が大きくなる(感情の高ぶり)

【アウト(違法性のあるカスハラ)】

即座に警告し、対応を打ち切るべき段階です。

  • 人格否定: 能力や容姿、人間性を攻撃する言葉(バカ、無能、ブスなど)
  • 脅迫: 生命、身体、財産に害を加えると告げる(殺す、火をつけるなど)
  • 執拗な繰り返し: 同じ文句を何十分も繰り返す、連日電話をかけてくる
  • 大声での威嚇: 他の客が怖がるレベルの怒号、机を叩くなどの威嚇行為

この「アウト」の領域に入った瞬間、相手は「顧客」ではなく「加害者」に変わります。遠慮なく、組織として守るべき手順(録音・通報)へと移行してください。

カスハラの暴言例一覧と適用される刑法

カスハラの暴言例一覧と適用される刑法

「カスハラ暴言は何罪になるのか?」 ここからは、実際に現場で投げかけられる暴言を3つのレベルに分類し、それぞれ「どの法律(刑法)に触れる可能性があるか」について解説します。

これらの言葉が出たら、もはや対話の余地はありません。「これは〇〇罪だ」と心の中で認定し、証拠保全モードに切り替えてください。

レベル1:侮辱・名誉毀損系(人格否定)

相手のミスを指摘するのではなく、相手の「人間性」や「能力」を攻撃する言葉です。

  • カスハラ暴言例:
    • 「バカ」「アホ」「無能」「役立たず」「給料泥棒」
    • 「ブス」「デブ」「ハゲ」(身体的特徴への攻撃)
    • 「親の顔が見たい」「育ちが悪い」
    • 「頭おかしいんじゃないの?」
  • 適用される刑法:
    • 侮辱罪(刑法231条): 公然と(他の客や従業員がいる前で)人を侮辱した場合。法改正により厳罰化されました。
    • 名誉毀損罪(刑法230条): 公然と具体的な事実(「前科があるくせに」など)を挙げて、社会的評価を低下させた場合。

レベル2:強要・脅迫系(身の危険・不当要求)

相手を怖がらせたり、無理やり何かをさせようとする言葉です。これらは即座に警察通報(110番)を検討すべきレベルであり、カスハラ暴言で逮捕につながる典型例です。

  • カスハラ暴言例:
    • 「殺すぞ」「ぶっ殺す」「夜道に気をつけろ」
    • 「店に火をつけるぞ」「お前の家に行くぞ」
    • 「土下座しろ」「今すぐ自宅まで謝罪に来い」
    • 「誠意(金)を見せろ」「タダにしろ」
  • 適用される刑法:
    • 脅迫罪(刑法222条): 生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知して脅した場合。
    • 強要罪(刑法223条): 暴行や脅迫を用いて、義務のないこと(土下座や念書の作成など)を行わせた場合。
    • 恐喝未遂罪(刑法249条): 暴行や脅迫を用いて、金銭等を脅し取ろうとした場合。

レベル3:執拗・業務妨害系(拘束・拡散)

長時間にわたり業務を停滞させたり、嘘の情報を流したりする言葉です。

  • カスハラ暴言例:
    • 「辞めろ」「クビにしろ」「上(社長)を出せ」を延々と繰り返す
    • 「ネットで潰してやる」「明日から街宣車を回すぞ」
    • 「お前じゃ話にならん、代われ」(何時間も居座る)
  • 適用される刑法:
    • 威力業務妨害罪(刑法234条): 威力(大声や威圧)を用いて業務を妨害した場合。
    • 信用毀損罪(刑法233条): 嘘の風説を流布して、信用を傷つけた場合(「この店の食品には毒が入っている」とネットに書くなど)。
    • 不退去罪(刑法130条): 「お引き取りください」と退去を要求したにも関わらず、居座り続けた場合。

(参考条文:e-Gov法令検索「刑法」

カスハラとは?カスタマーハラスメントとクレームとの違いをわかりやすく図解!

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カスハラの暴言集とプロの切り返しマニュアル【業界別】

カスハラの暴言集とプロの切り返しマニュアル【業界別】

カスハラの暴言の内容は、業種によって傾向が異なります。 ここでは、特に被害が多い「小売・サービス」「医療・介護」「役所・公務員」「コールセンター」の4業種について、典型的な暴言とその場で使える「切り返しトーク(カウンター)」を紹介します。

現場スタッフにこの台本を共有するだけで、心の余裕が劇的に変わります。

1. 小売・サービス・飲食業

この業界で多いのは、「お客様は神様」という歪んだ優越感に基づく暴言と、SNS拡散をちらつかせた脅しです。

  • 暴言例:
    • 「お客様は神様だろ! その態度はなんだ!」
    • 「土下座して謝れ!」
    • 「この動画、SNSに晒して炎上させてやるからな」
  • 【プロの切り返し】:
    • 神様発言へ: 「お客様は大切ですが、従業員の人権も同様に大切です。そのような発言をされる方へのサービスは提供できません」
    • 土下座要求へ: 「最大限の謝罪は言葉で尽くしております。土下座の強要は強要罪にあたりますので、お断りします」
    • SNSの脅しへ: 「無断での撮影・投稿は名誉毀損や肖像権侵害にあたります。投稿された場合は、こちらも法的措置を検討させていただきます」
【カスハラ・クレームの事例】スーパーや飲食店などの食品業界におけるケーススタディ

2. 医療・介護現場(認知症患者含む)

患者や利用者、その家族からの暴言は、「命を預けている」「金を払っている」という意識から過激化しやすい傾向があります。また、認知症による暴言の判断が難しいケースもあります。

  • 暴言例:
    • 「医療ミスだろ! 訴えるぞ!」
    • 「高い金払ってるんだから言うこと聞けよ!」
    • 「お前の介護が下手だから親が怪我したんだ(言いがかり)」
    • 「ヤブ医者」「バカ看護師」
  • 【プロの切り返し】:
    • 医療ミス主張へ: 「事実確認を行いますので、一方的な断定はお控えください。大声を出されると他の患者様の診療の妨げ(業務妨害)になります」
    • 金銭的な優位性へ: 「費用の支払いと、スタッフへの暴言は別問題です。信頼関係が築けない場合、診療(介護サービス)を継続できません(応招義務の例外)」
    • 認知症患者の場合: 病気が原因である場合、カスハラとして直ちに警察に通報するかは判断が分かれます。しかし、暴力やセクハラなど職員の安全に関わる場合は、認知症であっても毅然とした対応(複数名での対応や専門医への相談)が必要です。「病気だから仕方ない」で現場を犠牲にしてはいけません。

3. 役所・公務員

「税金」を盾にした理不尽な要求や、長時間窓口を占拠するケースが目立ちます。

  • 暴言例:
    • 「俺たちの税金で飯食ってるくせに生意気だ!」
    • 「お前じゃ話にならん、市長を出せ!」
    • 「役所なんて暇なんだから俺の話を最後まで聞け!」
  • 【プロの切り返し】:
    • 税金発言へ: 「納税者としてのご意見は承りますが、職員への暴言が許されるわけではありません。公務の執行を妨害される場合は警察へ通報します」
    • 市長を出せへ: 「担当は私です。市長が対応することはありません。これ以上同じ要求を繰り返されるなら、業務妨害として対応を打ち切ります」
    • 長時間拘束へ: 「他のお客様もお待ちですので、お引き取りください。これ以上は不退去罪にあたります」

4. コールセンター

顔が見えない分、陰湿で執拗な攻撃が多く、オペレーターの精神的摩耗が激しい現場です。電話でのカスハラ暴言対策は急務です。

  • 暴言例:
    • 「死ね」「バカ」「無能」(終わらない罵倒)
    • 「名前(フルネーム)と住所を教えろ」
    • 「今すぐ家に来て謝れ」
    • 「逃げるのか! 電話を切ったら承知しないぞ」
  • 【プロの切り返し】:
    • 罵倒へ: 「これ以上の暴言は業務の妨害になります。通話を終了させていただきます」
    • 個人情報要求へ: 「規定により、フルネームや個人の連絡先はお伝えできません」
    • 訪問強要へ: 「ご自宅への訪問謝罪は行っておりません。必要であれば弁護士を通じてご連絡します」
    • 切断への脅しへ: 「脅迫的な発言と受け取りました。録音データを持って警察に相談させていただきます。失礼します(ガチャ切り)」
電話でのカスタマーハラスメント(カスハラ)やクレームへの対応方法

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カスハラから暴言を吐かれた瞬間にやるべき3つの初動

カスハラから暴言を吐かれた瞬間にやるべき3つの初動

相手が暴言を吐き始めたその瞬間、「接客」から「証拠収集」へと頭を切り替えましょう。 頭が真っ白になる前に、以下の3ステップを反射的に実行してください。

1. 「録音」の開始と告知(証拠保全)

カスハラの暴言対応において、録音データは「最強の武器」です。「言った言わない」の水掛け論になれば、企業側が不利になることが多いからです。

  • 対面の場合: ボイスレコーダーやスマホの録音機能をオンにします。
  • 電話の場合: 通話録音システムが作動しているか確認します。

【ポイント】
「秘密録音(無断録音)」について心配する方がいますが、カスハラ被害の証拠として録音することは、正当防衛として法的に認められるケースがほとんどです。 また、「品質向上のため録音させていただきます」と相手に告知すること自体が、強力な抑止力になります。

2. 毅然とした「警告」と「記録」

暴言が出たら、謝罪はストップしてください。 相手の目を見て、事務的に以下のフレーズを伝えます。

「お客様、そのような大声や暴言は、当店の業務妨害にあたります。おやめください。」 「その言葉は脅迫と受け取れますが、よろしいですか?」

それでも止まらない場合、それは「警告を無視して犯行を継続した」という、警察を動かすための重要な事実になります。 また、その場のメモ(いつ、どこで、誰が、どんな言葉を言ったか)も、後で記録を補完する重要な証拠です。

3. 組織的な対応(エスカレーション)

暴言を吐かれている当事者は、冷静な判断ができません。 「死ね」「殺す」といった言葉が出た瞬間、あるいは恐怖を感じた瞬間に、迷わず上司や同僚に助けを求めてください。

  • 役割分担: 「交渉役」と「記録役(または通報役)」に分かれます。
  • 担当者変更: ターゲットにされている従業員をバックヤードに下げ、責任者が対応を引き継ぎます。

組織として「従業員を守る」という姿勢を見せることが、相手の暴走を止める壁になります。

クレーマーからの謝罪要求には適切な対応を!謝罪の区別と4つのステップ対応

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カスハラの暴言を証拠に「警察・弁護士」を動かす手順

カスハラの暴言を証拠に「警察・弁護士」を動かす手順

証拠が集まったら、次は反撃のフェーズです。 泣き寝入りせず、加害者に社会的制裁を与えるための具体的なロードマップを示します。

警察への「被害届」と「告訴状」の違い

警察署の生活安全課などに相談に行きますが、単なる「相談」で終わらせてはいけません。

  • 被害届: 「犯罪の被害に遭いました」と申告するもの。捜査のきっかけになります。
  • 告訴状: 「犯人を処罰してください」と強く求めるもの。受理されれば警察に捜査義務が生じます。

本気で相手を罪に問いたい場合は、弁護士と作成した「告訴状」と、整理された「録音データ・反訳書(文字起こし)」を持参するのが最も効果的です。

(参考:警察庁「110番通報のポイント」

弁護士による「内容証明郵便」の送付

警察が「民事不介入」として動きにくい場合でも、弁護士を通じた民事上の措置は可能です。

  • 出入り禁止通知: 「今後一切の来店・連絡を拒否する」旨を通告。
  • 慰謝料請求: 精神的苦痛(慰謝料)や業務妨害による損害賠償を請求。

弁護士名の入った内容証明郵便が届くだけで、多くの加害者は事の重大さに気づき、行動を停止します。

組織を守る!カスハラ対策マニュアルへの「暴言基準」の盛り込み方

最後にご紹介するのは、カスハラ対策マニュアル作成のポイントです。 現場の判断ミスをなくすためには、定義を具体化する必要があります。

現場が迷わない「NGワードリスト」の作成

マニュアルに「著しい暴言」と書いても、現場は迷います。 以下のように、具体的なトリガーワードを設定しましょう。

  • 即時対応打ち切り(切断・退去)レベル:
    • 「死ね」「殺す」「火をつける」(生命への脅迫)
    • 執拗な人格否定(バカ、無能など)が〇回以上続いた場合
    • 性的な発言(セクハラ)

このように基準を明確にすることで、現場スタッフは「マニュアル通りに対応した」という安心感と自信を持つことができ、負担が激減します。

従業員のメンタルケア(安全配慮義務)

暴言を浴びたスタッフは、外見上は平気そうでも、深く傷ついています。 「大丈夫?」と声をかけるだけでなく、産業医との面談を手配したり、一時的に配置転換を行ったりするなどのフォローが必須です。

何より、「あなたが悪いのではない」「会社はあなたの味方だ」と言葉にして伝えることが、従業員の心を救います。

カスハラ対策

まとめ|カスハラの暴言は暴力である!毅然とした拒絶を

まとめ|カスハラの暴言は暴力である!毅然とした拒絶を

ここまで、カスハラの暴言に対する判断基準と具体的な対処法を解説してきました。

最後に、これだけは覚えておいてください。 言葉による暴力は、殴られるのと同じくらい、あるいはそれ以上に人の心を深く傷つけます。それは我慢すべきものではなく、法的に対処すべき「犯罪行為」です。

【あなたの会社が今すぐ取るべきアクション】

  1. NGワードの共有: 記事内の暴言例を参考に、自社の「レッドライン」を策定する。
  2. 録音環境の整備: 全店舗・全回線での録音体制を整える。
  3. 専門家との連携: いざという時に告訴状作成や交渉を依頼できる弁護士(例:咲くやこの花法律事務所などの企業法務専門)を見つけておく。

知識と準備があれば、過度に恐怖を感じる必要はありません。 従業員の尊厳を守るために、毅然とした態度で「NO」を突きつけましょう。

香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。

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