マンション管理業界は、多くの住民が共同で生活する環境ならではの課題に直面しています。特に、カスタマーハラスメント(カスハラ)やクレームは頻繁に発生し、その対応に頭を悩ませる管理会社も少なくありません。
この記事では、マンション管理業界におけるカスハラやクレームの特徴を掘り下げ、具体的なケーススタディを通じて、効果的な対応策を紹介します。マンション管理の現場で直面するさまざまな問題を解決するためのヒントをお届けします。
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目次
マンション管理業界のカスハラの特徴
マンション管理業界のケーススタディを見ていく前に、まずはマンション管理業界におけるカスハラの特徴や注意点を見ていきましょう。
マンション管理業界にクレームが多い理由
マンション管理業界は「クレームのるつぼ」や「クレーム産業」とも称されます。なぜこれほどまでにマンション管理業界にクレームが多いのでしょうか。
理由①人的距離・物理的距離が近いこと
マンションには、多数の住民が一つ屋根の下に集合して暮らすという特徴があります。エントランスやエレベーターは共通して使用し、壁や天井を一枚隔てた先には別の家族が生活しています。このような人的距離や物理的距離の近さが、カスハラやクレームが多発する一因となっています。
例えば、管理組合内の理事会やサークルなどの「人的距離の近さ」から派閥争いやいじめ問題に発展することもありますし、「物理的距離の近さ」から天井や壁を伝って騒音問題が発生することもあります。人的距離や物理的距離が近いと、感情的になりやすくなります。一般的に、300キロメートル先の親族よりも1メートル隣の隣人の方が感情的になるものです。
さらに厄介なことに、エントランスやエレベーターなどで、トラブルの当事者同士が会いたくなくとも会ってしまう場面が生じます。これは、例えば交通事故の当事者が会おうとしなければ滅多に会わないことと比較すれば一目瞭然です。
理由②閉鎖的であること
マンション管理組合は、外部からは運営の実態が分からず、閉鎖的であるという特徴があります。隣のマンションの管理組合がどのように運営されているのか、どのような問題を抱えているのかなどは外から把握することができません。どんなに外観が綺麗なマンションであっても、区分所有者同士の長年の対立や、旧役員と現役員で意見が対立しているなどの問題を抱えていることがあります。そのことは部外者には分からないのです。
区分所有者はマンションを購入してしばらく住んで初めて、マンション内の文化や人間関係を把握します。したがって、購入前と購入後のギャップからマンション管理会社へのクレーム問題に発展することもあります。また、外に助けを求めることができないため、憂さ晴らし的にマンション管理会社へのクレーム問題に発展することもあります。
理由③一度購入したら離れることが困難であること
マンション管理業界は、感情面の対立や人間関係のいざこざ、クレーム問題へと発展しやすい特徴がありますが、さらに厄介なことに、その状態から抜け出すことが困難であるという特徴もあります。
マンションの購入は通常、一生に一度の大きな買い物です。衣服や車の購入とは違い、頻繁に行うものではありませんし、住み替えが容易な賃貸マンションへの入居とも異なります。したがって、上記のような感情面の対立や人間関係のいざこざなどの悩みを抱えた区分所有者が「この状態が嫌だから抜け出そう」と思っても、その選択をすることは極めて難しいです。
その結果、これらの悩みを抱えた区分所有者の怒りやストレスのはけ口は、より一層強烈なクレームとしてマンション管理会社に向かうことになります。
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マンション管理業界のクレーム対応が難しい理由
マンション管理業界は「クレーム産業」と称されるほどにクレームが多いですが、クレーム対応にも特有の難しさがあります。
当事者が多数存在すること
まず、マンション管理業界のクレーム対応を最も難しくしている理由は、当事者が多数存在することです。通常の取引では、契約当事者は1対1であり、クレームを主張する相手もその契約の相手方のみです。しかし、マンション管理会社には、契約の相手方以外の多数の区分所有者がクレームを主張してくるという特徴があります。
マンション管理会社は管理組合と管理委託契約を締結しています。したがって、契約の相手方は管理組合(および業務執行機関としての理事長や理事会)です。もちろん、マンション管理会社に対して、その契約の相手方である管理組合(および業務執行機関としての理事長や理事会)がクレームを主張することもあります。
しかし、マンション管理会社に対するクレームの特徴的な点は、契約の相手方以外の多数の区分所有者もクレームを主張してくる可能性があるということです。しかも、大規模マンションであれば、その区分所有者が1,000を超えることもあります。
そして、単純に「区分所有者は契約の相手方ではない」という理由で意見を跳ねのけることはできません。なぜならば、区分所有者は管理組合の構成員であり、次期以降の業務執行機関としての理事長や理事会役員の候補者でもあるからです。
さらには、理事役員同士の意見が対立しているときに管理会社はどちらにつくべきか、区分所有者同士の意見が対立しているときに管理会社はどちらにつくべきかなど、多数の当事者が存在するマンション管理業界ならではのカスハラやクレーム対応の難しさがあります。
長期間・長時間にわたるクレーム
マンション管理業界のクレームの特徴として、クレームが長期間にわたるという点があります。その理由として、マンション管理会社と管理組合との契約が単発のものではなく、継続的なものであることが挙げられます。
単発の契約であれば、仮にクレームトラブルが発生しても、業務が完了していることなどを理由に毅然と対応し、クレームが自然に消滅するのを待つという対応も可能です。しかし、継続的契約であるために、業務が完了しているともいえず、他の場面でクレームを主張している住民に顧客として接しなければならない場面が生じ得ます。
したがって、マンション管理会社へのクレームとして、何年間も同じクレームが繰り返されることや、数年後にクレームをぶり返されることもよく起こります。
さらに、マンションは生活の本拠であり滞在時間が長いこと、管理組合役員には定年退職後などで時間が有り余っている者が多い場合があることから、クレームが長時間に及ぶことが多いのも特徴的です。
多角的・専門的知識の必要性
マンション管理会社の業務は非常に幅広いです。共用部分の管理、管理組合の会計業務、区分所有法や管理規約に沿った総会や理事会の支援業務などが含まれます。したがって、管理会社の社員もそれに応じて、建築の知識、会計の知識、法律の知識などが必要となります。
ここで問題となるのが、前述したクレームを主張し得る区分所有者の多さです。大規模なマンションではその区分所有者の数が1,000を超えることもあります。そして、その区分所有者の中には、建築士、公認会計士や税理士、弁護士なども当然存在し、それらの者が専門的知識を駆使してクレームを主張してくる場面もあります。
専門家の主張が正しいことも多いですが、例えば、企業会計とマンション会計は微妙に異なることや、弁護士でも区分所有法に詳しくない場合があるため、必ずしも専門家の主張が正しいとは限りません。そのような間違った専門家のクレームにも対抗するために、多角的・専門的知識を持つことが管理会社のカスハラやクレーム対応には必要となります。
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マンション管理業界におけるカスハラケーススタディ
それでは実際にケーススタディを交えながら、どのようにカスハラに対応していくべきか、見ていきましょう。以下はマンション管理業界におけるカスハラ対応として、押さえておくべきポイントになります。
- 管理会社と管理委託契約を締結している当事者は「管理組合」であって,個々の区分所有者ではない。
- 管理組合運営の主体は飽くまで「管理組合」であって,管理会社ではない。
- 管理委託契約において管理事務の対象となる部分は共用部分等であり,専有部分は管理事務の対象外である。
- 管理組合からクレームを受けた際には,管理委託契約を確認し,業務内容の範囲内か否かを確認する必要がある。
マンション管理業界におけるカスハラ事例①区分所有者からのクレーム
管理会社は、その管理するマンションの区分所有者から次のようなクレームを受けました。「この前の総会で審議された案件はきちんと理事会で議論したのか。そのようにいい加減な管理組合運営をしているならば、管理委託契約を解約するぞ(リプレイスするぞ)」。
管理会社はどのように対応すればよいのでしょうか。
1. 管理会社と区分所有者の関係の確認
まず、管理会社は区分所有者から「管理委託契約を解約する」と述べられていますが、そもそも区分所有者には管理委託契約を解約する(リプレイスする)権限はありません。なぜならば、管理委託契約は管理会社と管理組合との間で締結されるものであり、管理会社と区分所有者との間で締結されるものではないからです。
したがって、管理会社としては、個々の区分所有者からクレームを受けた場合には、「管理委託契約の当事者は管理組合であって個々の区分所有者ではない」ことを認識すべきです。
2. 管理組合の運営主体の確認
また、管理会社は区分所有者から「きちんと理事会で議論したのか。いい加減な管理組合運営をするな」と指摘を受けていますが、これも区分所有者のよくある勘違いです。
確かに管理会社は管理委託契約の業務内容の一つとして、通常、理事会支援業務を請け負っています(標準管理委託契約書別表第1・2(1))。しかし、標準管理委託契約書のコメントにもあるとおり、「理事会支援業務は、理事会の円滑な運営を支援するものであるが、理事会の運営主体はあくまで管理組合である」ことに留意するべきです。
したがって、管理会社としては、「理事会での議論や管理組合運営に異議があるならば、管理組合(理事会)に意見を述べるべきである」と回答すれば足ります。
マンション管理業界におけるカスハラ事例②管理組合からのクレーム
あるマンションにおいて、上下階の区分所有者同士で騒音トラブルが発生し、半年以上もめていました。そんな状況において、理事会(理事長)は管理会社に対し、「問題になっている騒音トラブルを半年以上も解決できないのは管理会社として管理委託契約の債務不履行に当たるのではないか。もっと積極的に関与して解決せよ」とのクレームを受けました。
管理会社はどのように対応すればよいのでしょうか。
1. 管理委託契約の範囲
管理委託契約において管理事務の対象となる部分は共用部分等であり、専有部分は管理事務の対象外です(国土交通省「マンション標準管理委託契約書」2条)。したがって、上下階の騒音問題のような専有部分間のトラブルは管理会社の業務の対象ではないため、これを解決できなかったとしても管理委託契約の債務不履行に当たることはありません。
なお、管理組合の目的も専有部分ではなく共用部分の管理であるため(区分所有法3条)、管理組合自身も専有部分間のトラブルに積極的に関与する必要はありません。専有部分間のトラブルは、当事者同士の話し合いにより解決することが原則です。
2. 管理委託契約の業務内容の確認
上記のとおり、専有部分間のトラブルは管理委託契約の範囲外であるため、本来的には管理会社は関与する必要はありません。しかし、管理会社担当者が当事者同士のメッセンジャー的役割を果たしたり、両当事者を理事会に呼んで話し合いの機会を設けるなどの業務を「サービス」として行っている場合もあります。
ここで重要なのは、これらの業務が「管理委託契約の内容となっている業務」なのか「サービスとして行っている業務」なのかを区別し、管理組合にもその区別を認識させることです。そうでなければ、専有部分間のトラブルであるにもかかわらず、解決に至らないことを「管理委託契約の債務不履行である」などと主張され、責任を負わされかねません。
管理会社は、管理組合から他にも多種多様なクレームを受けることがあります。その際も管理委託契約の業務内容を確認し、契約で定められた業務内容を要求されているのか、それとも業務内容を超えるサービスを要求されているのかを確認する必要があります。
カスハラ・クレーム対応に
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まとめ
マンション管理業界は、多くの住民が共同で生活する特殊な環境ゆえに、クレームやカスタマーハラスメント(カスハラ)が発生しやすい特徴があります。人的距離や物理的距離が近いことで感情的なトラブルが生じやすく、管理組合の閉鎖性や一度購入すると簡単には離れられないという特性が、問題を複雑化させる要因となっています。
さらに、クレーム対応においては、多数の当事者が存在し、長期間・長時間にわたるクレームや多角的・専門的知識が必要な場面が多々あります。これらの特性から、マンション管理業界のクレーム対応は非常に難しいものとなっています。
事例1や事例2のような具体的なケーススタディを通じて、適切な対応方法を学び、管理会社としての対応力を高めることが重要です。管理委託契約の範囲や業務内容を正確に把握し、区分所有者や管理組合との適切なコミュニケーションを図ることで、クレームの円満な解決を目指しましょう。
香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。
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