顧客とのやり取りは、ビジネスにおいて不可欠ですが、時には不当な要求や圧力を行う顧客、すなわち「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に直面することがあります。このような状況に適切に対応することは、企業と従業員の両方にとって重要です。本記事では、カスハラに遭遇した際の効果的な初動対応と、誤った対応からのリカバリー方法について解説します。
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目次
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
カスタマーハラスメント、通称カスハラは、顧客から従業員への不適切な要求や圧力を指します。これには、理不尽なクレーム、不当なサービス要求、威圧的または侮辱的な態度などが含まれます。このような行動は従業員の心理的なストレスを引き起こし、職場の士気に影響を与える可能性があります。
また、企業のブランドイメージや顧客サービスの質にも悪影響を及ぼすことがあります。したがって、カスハラへの効果的な対処は、従業員の福祉を守るとともに、企業の継続的な成功を確保するために重要です。
カスハラやクレームにおける初動対応のミスとその事例
不適切な謝罪
法的責任がないにも関わらず謝罪することは、顧客からの不当な要求を受け入れたと解釈されるリスクがあります。例えば、顧客が感じた不快感に対して謝罪する際、それが法的な認知とみなされると、後に顧客からの無理な要求や法的な訴えにつながることがあります。
このため、事実確認を行い、法的な責任が明らかになるまで、謝罪は慎重に行うべきです。
不必要な念書や合意書の作成
顧客の圧力に屈して不必要な念書や合意書を作成することは、後に企業に不利な状況を招く可能性があります。例えば、顧客が損害賠償を求めた場合、念書や合意書を作成することで、その要求に合意したと見なされる可能性があります。
これは、将来的に企業に対する不当な要求の根拠となり、企業の資源や時間を浪費することにつながります。
不当な要求の実現
顧客の不当な要求に応じることは、将来的に同様の要求が繰り返される原因となります。例えば、一度特別な割引を提供すると、その顧客は将来的に同じような割引を期待するようになります。
誤った初動対応からのリカバリー方法
顧客に誤って法的責任を認めたと受け取られた場合
法的責任がないにも関わらず、法的責任を認める発言を行なったり、法的責任を認めたと顧客から言われかねない謝罪を行なってしまった場合は、法的責任はない旨を、顧客に文書やメールで明確に伝えることが重要です。特に、合意書や念書等を作成するなど合意してしまった場合には、速やかに内容証明等を発送し、その合意書や念書等の効力を取り消す必要があります。
文書は、後の法的な問題が発生した際の重要な証拠となる可能性があるため、専門的かつ明確な言葉を使って、誤解の余地を残さないようにすることが大切です。
不当な要求に応じてしまった場合
不当な要求に応じた後は、本来は不当な要求に応じる法的義務は存在しないこと、またそのような要求に今後は応じることができないと明確に伝える必要があります。
この対応は、従業員が毅然とした態度を保つことが重要であり、必要に応じて文書で確認することも効果的です。
リカバリーを行う人は別の従業員もしくは弁護士が○
初動対応にミスがあった際、そのリカバリーは、初動対応を行った従業員ではなく、別の従業員や場合によっては弁護士による対応が効果的です。
初動対応を誤った従業員がそのまま対応を続けると、顧客は過去の発言に固執し、クレームを継続する傾向があります。また、一度不当な要求に応じてしまった従業員は、心理的に毅然とした態度を取り続けるのが難しくなります。
そのため、別の従業員や弁護士が対応することで、客観的かつ公正な視点から問題にアプローチできます。この新しい担当者は、「初動対応を間違った従業員は誤っていたが、企業としては法的な責任はない」といったスタンスで、法的責任の否定や不当な要求の拒絶を行いやすくなります。このアプローチは、顧客に対する企業の主導権を取り戻す上で非常に有効です。
カスハラ対応のリカバリー戦略として、適切な担当者の変更は、企業の対外的なイメージを守り、従業員の心理的負担を軽減する上で重要な手段となります。
初動対応を誤ってしまった場合の対応リカバリーの手段
文書を使って法的責任や不当な要求をはっきりと否定することは、非常に重要です。これにより、顧客がインターネット上で「法的責任を認めた」と不当に拡散した場合でも、効果的に対抗することができます。
また、将来的にカスハラ顧客から法的責任を問われた際には、裁判所での判断にも良い影響を与える可能性があります。このように文書を活用することで、法的な責任の不認定や不当な要求の拒絶をスムーズに行うことが可能になります。
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カスハラ・クレームにおける初動対応ミスの裁判例
カスタマーハラスメントに関連する裁判例を検討することは、法的責任の有無を判断し、類似の問題への対処法を学ぶ上で非常に有効です。過去の判例に基づく判断は、類似の状況が発生した際のガイドラインを提供し、法的なリスクを減らすことに役立ちます。
また、裁判例の検討は、法的な責任の有無を明確にし、従業員と企業の権益を守るための戦略を立てる上で重要な役割を果たします。
カスハラに対する裁判例として、以下があります。
企業役員の責任を認めるような発言や社長の謝罪についての裁判例
以下は、役員や社長の責任を認めるような発言や謝罪がどのように裁判で扱われるかを示す裁判例です。
この例では、システム開発におけるプロジェクトマネジメントの義務不履行が問題となっています。東京地方裁判所(平成24年3月29日判決、タ1405号254ページ、金法1952号111ページ)は、役員や社長の発言や謝罪を一つの事情として取り扱い、プロジェクトマネジメントの義務不履行を認めました。
しかし、控訴審の東京高等裁判所(平成25年9月26日判決、金判1428号16ページ)では、これらの発言や謝罪が「許容しがたい誤りがあるかもしれない」としながらも、発言が具体的な事実や実証的な分析に基づいていないことを理由に、これらを根拠として責任を認めることはできないと結論づけました。この判断は、基本合意締結前のプロジェクトマネジメント義務の不履行を認めないという結果に至りました。
医師の謝罪についての裁判例
東京地方裁判所 平成20年2月20日判決(医療判例解説20号129頁)
この裁判例では、謝罪した医師が尋問中に謝罪が不本意であったと述べました。
また、謝罪の趣旨が不明確で、治療行為による想定外の結果に対する謝罪であったという点が、当時の状況と矛盾しないと認定されました。このため、裁判所は謝罪が過失を基礎づけるものではないと判断しました。
東京地方裁判所 平成19年5月31日判決(事件番号:平成18ワ14387号)
この事例では、保険会社の社医が、上司と共に採血行為について謝罪しました。
原告はこの採血による動脈損傷を認めたと主張しましたが、裁判所は上司の発言から、「謝罪」は原告の皮下出血に対するものであり、動脈損傷や静脈の過度の損傷を認めるものではないと判断しました。
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裁判例から見る謝罪と法的責任の認定
上述の裁判例によれば、謝罪や法的責任を認めるような発言をしてしまった場合でも、裁判所はその謝罪や発言の趣旨や経緯に基づいて、法的責任を認めているとは限らないと認定することがあります。具体的には、発言や謝罪が具体的な事実に基づいていない場合や、円滑な進行のために謝罪が必要だった場合などです。
このような裁判例から、初動対応で誤って謝罪や法的責任を認める発言をしてしまっても、法的責任が認められない可能性があります。ケースバイケースではありますが、なぜそのような初動対応が行われたのか、その趣旨が何であったのかを明確にした内容証明を作成しておけば、裁判で有利な証拠として提出することができます。
まとめ
カスタマーハラスメントへの対処は、従業員の心理的負担を軽減し、企業のビジネス環境を守るために非常に重要です。初動対応の際は、法的責任の有無を明確にし、不適切な謝罪や合意書の作成を避けることが肝要です。
また、誤った対応からのリカバリーには、法的責任の明確な否定や、毅然とした態度での対応が求められます。このように適切に対応することで、従業員と企業の双方の権益を守り、持続可能なビジネス環境を築くことができます。
香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。
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