クレームにも様々な方法がありますが、スマートフォンの普及によりだれでもインターネットを利用できるようになった現在、メールによるクレームは格段に増えました。
顧客による嫌がらせのことをカスタマーハラスメント(略してカスハラ)と呼びますが、メールでのしつこいクレームにはどのように対応すべきなのでしょうか。
このページでは、メールでのしつこいクレームによるカスハラへの対応方法についてお伝えします。
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目次
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?
メールでのしつこいクレームなどのことを「カスハラ」と呼んでおり、会社として取り組むべきものなのですが、「カスハラ」とはどのようなものなのでしょうか?
カスハラとは
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略で、厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアルによると、次のように定義されます。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
カスハラがどのようなものか、「クレーム」という言葉との関係については、「カスハラとは?カスタマーハラスメントとクレームの違いをわかりやすく図解において詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
企業のカスハラ対策の必要性
次の2つの理由から、企業はカスハラ対策に取り組む必要があります。
- 従業員の精神的負担を取り除き生産性を高める
- 雇用契約における安全配慮義務を履行する
具体的に見てみましょう。
従業員の精神的負担を取り除き生産性を高める
カスハラ対策により、従業員の精神的負担を取り除くことは、生産性を高めることに繋がります。
カスハラ対策が何もできていないと、従業員に対するカスハラが横行し、カスハラに対応する従業員が現場で判断のみを求められる結果、精神的負担も増えます。
カスハラの対応に忙殺され本来の業務に取り組むリソースが削がれ、また当該従業員が精神疾患に罹患する、離職してしまうなどに繋がりかねません。
適切なカスハラ対策は、カスハラを抑制し・カスハラに対応する従業員の精神的負担を取り除き、生産性を高めます。
雇用契約における安全配慮義務を履行する
法務的な側面からの重要性としては、カスハラ対策によって雇用契約における安全配慮義務の履行を行なうという点が挙げられます。
労働契約において、使用者は労働者の「生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」必要があります(労働契約法5条)。
カスハラが横行するような状況を放置することによって、労働者が怪我をさせられた・精神疾患を患うことになった、というような場合、安全配慮義務違反であるとして、従業員に損害賠償をすることになります。
カスハラ対策は、従業員への安全配慮義務の履行として、避けられないといえるでしょう。
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メールでのカスハラの特徴
メールで行われるカスハラにはどのような特徴があるでしょうか。
カスハラが行われやすい
メールでのカスハラの特徴の1つ目はカスハラが行われやすいことが挙げられます。
例えば来店して土下座を要求する、というタイプのカスハラの場合、店舗・営業所に直接出向く手間があり、いろいろな人に見られ、ケースによってはそのまま逮捕される可能性もあるものです。
しかし、メールの場合は、インターネットにつながっていて、相手のメールアドレスを知っていれば、自宅で行えます。
そのため、カスハラを行なうためのハードルが低く、カスハラが行われやすいです。
長文で送る・大量に送るなど
メールでのカスハラの特徴の2つ目は長文で送ったり・大量に送ることが考えられます。
時間がある人である場合、読むのが大変なレベルの長文のメールを送付したり、大量にメールを送付することが可能という特徴があります。
直接訪問や電話でのカスハラは、営業時間の問題や、自分がその時間に仕事など他のことをする場合には、行えません。
しかし、メールの場合には、時間的な制約がないことから、時間のあるときに長文のメールを書いたり、大量のメールを書いたりして送ることが可能です。
また、プログラムなどを用いて、大量に迷惑メールを送ることも可能です(「メール爆弾」と呼ばれています)。
拡散しやすい
メールはやりとりがお互いに証拠として残ります。
そのため、メールの内容をSNSやインターネットの掲示板に投稿するなどして、拡散しやすいことが特徴です。
万が一不適切な返信を行なうと、その内容をSNSやインターネットで拡散されることになり、会社のイメージダウンなどに繋がりかねず、注意が必要です。
メールでのカスハラ対策の方法
メールでのカスハラについてはどのような対応が必要なのでしょうか?
大きく分けると、
- 会社の中で事前にメールでのカスハラに備えたマニュアルの整備等
- 現場でカスハラのメールにどのように返信をするか
- メールでのカスハラが行われた場合の事後の対応
に分けて考えることができます。
会社の中で事前にメールでのカスハラに備えたマニュアルの整備等
どのようなカスハラについても共通して言えることですが、事前にカスハラが行われたときに備えて、マニュアルを整備したり、相談体制を作ることが重要です。
メールに関しては、
- メールアドレスの外部発信
- 名刺に個人のメールアドレスを表記するか否か
- ウイルスソフトの導入
- カスハラがあったときの相談・報告体制
- メールによるカスハラに対する対応をする際のルール作り
以上のようなものを事前にルールとして策定、マニュアル化をして周知徹底をはかります。
マニュアル化をすることで、組織としての対応が可能となり、個人で対応に苦慮することが無くなります。
対応が難しくなった場合に、一人で対応せずに相談をして一緒に対応してくれる体制を作っておくことも、カスハラに対応する従業員の精神的負担を軽減する上で重要です。
現場でカスハラのメールにどのような返信をするか
カスハラのメールへの返信については、怒りを和らげる・事実を整理する・対応可能なことを伝える、などのコツがあるので確認してみましょう。
メールでのカスハラが行われた後の対応を行います
メールが脅迫を内容とするものである、メール爆弾等で業務に支障をきたしているような場合には、メールの差し止めや被害届・刑事告訴などの対応を行います。
また、メールでのカスハラの中にも、クレームとして正当なものがある場合には、きちんとした対応を行います。
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カスハラのメール対応のコツ
カスハラのメール対応をするにあたっては次のようなコツがあります。
クッション言葉で和らげる
たとえば、店舗で購入した物をめぐって、クレーム・カスハラに発展してしまっている場合に、その分を郵送してもらうことがあります。
このような場合に、「大変お手数ですが」など、次に続く文章への印象を和らげるクッション言葉を利用しましょう。
事実関係がわからない場合には整理をする
メールの内容では事実関係がわからない場合があります。
例えば、「お宅の製品で嫌な思いをした」という場合、「嫌な思い」が何を指すかわからないことがあります。
また「誠意を見せてほしい」と主張された場合に、商品の交換を求めているのか、返金を求めているのか、あるいは土下座など不当な要求をしたいのか、などが不明です。
事実関係がわからない場合には、これらをきちんと整理するようにしましょう。
対応可能なことを伝える
メール対応をする場合に、対応可能なことを伝えるようにしましょう。
例えば、購入した商品についての不満を訴えるクレームのメールがあったときに、交換する・返金するなど会社としてできることを伝えることで、相手が主張しやすいようにすると、解決がスムーズになるでしょう。
メールでのカスハラへの法的対応
メールでのカスハラで、不当なものについては、こちらから可能な対応を伝え、後は取り合わないようにします。
しかし、脅迫めいた内容のものが送られる、コンピューターウイルスなどを送付してくる、あまりにも大量で継続して送ってくる、という場合には法的な対応が必要です。
被害届の提出・刑事告訴
メールによるカスハラによって次のような犯罪行為となる場合には、被害届の提出・刑事告訴を検討しましょう。
- 脅迫罪:生命身体財産に危害を加えるなどを告知すること(刑法222条)
- 恐喝罪:脅迫によって財産を交付させる(刑法249条)
- 強要罪:脅迫によって義務のないこと(土下座など)をさせようとする(刑法223条)
- 不正指令電磁的記録に関する罪:コンピューターウイルスに感染させる(刑法168条の2)
被害届の提出や、特に刑事告訴について警察は非常に消極的なので、証拠となるメールや電話・訪問などのカスハラも同時に行っている場合には、その頻度や内容などを証明できる証拠を収集するようにしましょう。
メール禁止の仮処分命令
あまりにも大量にメールを送ってくるなどで業務に支障をきたすような場合には、メールをしてこないように裁判を行なうことになります。
このときに、民事保全法に基づき、裁判を行なう前の「仮処分」として、メール禁止の仮処分命令を出してもらうことが可能です。
「メールをするごとに○万円支払え(事案による)」という命令がされ、万が一それでもメールを送ってくる場合には、相手の財産に強制執行をします。
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カスハラのメール対応で注意すべき点
カスハラのメール対応で特に注意すべき点には次のようなことが挙げられます。
CC・BCCの扱いには細心の注意を
カスハラのメール対応をする際には、責任者やカスハラ担当者などにも認識できるようにしておく必要があります。
メールでの連絡の宛先にCCを利用して上司や関係者にもメールを送ることがありますが、カスハラの対応をするメールにCCを利用してはいけません。
CCを利用すると、送った相手全員がわかってしまい、カスハラのターゲットが増えることになります。
相手に送信先を隠して送るBCCでの送信を利用するようにしましょう。
返信等はカスハラ対応用のメールアドレスで行なう
たとえば、会社HPのメールフォームを利用して、メールをしてきた場合には、返信をすることになります。
このときに、個人のメールアドレスから送ると、そのメールアドレスに対してカスハラが行われることになります。
メールアドレスに氏名を含めている場合には、氏名がわかってしまうことがあり、指名しての電話・訪問などに発展することがあります。
メールでの対応が必要な場合には、カスハラ対応用にメールアドレスを用意し、そのアドレスでやりとりを行なうようにしましょう。
なお、電話でのカスハラへの対応方法については「電話でのカスタマーハラスメント(カスハラ)やクレームへの対応方法」で詳しくお伝えしておりますので参考にしてください。
ファイルを開ける・URLのクリックはしない
メールにファイルを添付して送ってきたり、URLを本文中に記載して送ることがあります。
当然ですが、コンピューターウイルスに感染する危険などがあります。
送られてきたファイルを開ける・URLのクリックはしないようにし、どうしても必要な場合には、ウイルスセキュリティソフトを必ず利用、URLについてはURLが安全なものかどうか(表示されているものと別のURLに飛ばされる可能性もあるので注意)、遷移先のURLを調べるwebツールを利用するようにしましょう。
メールでのカスハラの対応をする場合と弁護士
メールでのカスハラ対応をするときに、マニュアル作成への助言と、対応しきれなくなった相手に代理人として対応を依頼するために、弁護士に依頼することも検討してください。
マニュアル作成の際には、法的リスクが発生した場合にスムーズに対応が可能かという観点からの作成が避けらず、弁護士に相談してしっかりとマニュアルを作成すべきです。
また、どうしても対応できないようなカスハラには、弁護士が代理人として対応すれば、スムーズに収めることができることがほとんどです。
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まとめ
本記事のまとめは以下の通りです。
- カスハラとは何か
- 会社は安全配慮義務違反を問われないためにカスハラ対策が必要
- メールでのカスハラの特徴
- メールでのカスハラへの対応方法
スマートフォンの普及によってだれでもインターネットを利用することになった結果、メールでのカスハラも増加しています。
個人に対応を任せてしまうのは、個人の精神的負担としても、組織的な対応ができない点でも適切ではありません。
しっかりとしたマニュアルを作成して、対応を心がけるようにしましょう。
香川総合法律事務所では、当該企業の実態に添った具体的なマニュアル作成及び実演を交えたコーチング研修等を行っております。クレーマー顧客対応や訴訟になった場合のシームレスな訴訟対応も可能ですので、クレーム対応に不安がおありの場合は是非ご相談なさってみてください。
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