冠婚葬祭業界では、結婚式や葬儀といった人生の重要な節目を扱うため、感情が高まりやすく、カスハラ(カスタマーハラスメント)やクレームが発生しやすい業界です。
特に、やり直しがきかないという特性から、一度のミスが大きなトラブルに繋がることが少なくありません。
本記事では冠婚葬祭業界におけるカスハラの特徴と具体的な事例を紹介し、効果的なクレーム対応方法について解説します。
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目次
冠婚葬祭業界におけるカスハラの特徴
まずは冠婚葬祭業界におけるカスハラの特徴を見ていきましょう。カスハラの特徴としては以下の点があります。
冠婚葬祭業界におけるカスハラの特徴①情緒的になりやすい
冠婚葬祭は人生の大切な節目となるイベントであり、本人やその家族にとって非常に重要なものです。このため、感情が高ぶりやすくなることがあります。
例えば、結婚式は一生に一度の晴れ舞台と考える人が多く、期待値が高くなりがちです。当日の運営に不満があると、運営会社へのクレームにつながることがよくあります。当事者は自分たちの満足感だけでなく、招待した出席者の満足感も気にするため、結婚式場のスタッフは当事者だけでなく、多くの出席者にも気を遣う必要があります。
しかし、冠婚葬祭業界の中でも、最も情緒的になりやすいのは葬儀の場です。喪主や関係者は、大切な親族を失ったばかりで精神的ショックが大きく、非常にナーバスな状態にあります。葬儀業者は、他のどの業種よりも言葉遣いや態度に気を遣い、些細な言い間違いやミスが大きなクレームにつながることに注意する必要があります。
冠婚葬祭業界におけるカスハラの特徴②取り返しがつかない
冠婚葬祭業界のもう一つの特徴は、「取り返しがつかない」という点です。
結婚式や葬儀をやり直すことはその性質上不可能です。そのため、顧客は感情的になり、「取り返しのつかないミスをしてくれたな!」、「もうやり直すことはできないんだぞ、どうしてくれるんだ」などと言って、執拗にクレームを続けることがあります。冠婚葬祭業者としても、もう一度挽回の機会があれば、サービスを充実させることで以前のミスを帳消しにすることも可能ですが、通常は挽回の機会がありません。
このような「取り返しがつかない」状況から、要求内容や要求手段が過剰になる傾向があります。
冠婚葬祭業界におけるカスハラの特徴③慰謝料請求が多い
冠婚葬祭業界では、「取り返しがつかない」という特徴から、カスハラ(カスタマーハラスメント)が発生しやすいです。特に葬儀や結婚式のような一度きりのイベントにおいては、やり直しが不可能なため、クレームが金銭的な賠償に向かいやすくなります。物を壊したり、身体を傷つけたりといった明確な損害よりも、業者の対応によって精神的に傷つけられたかどうかが問題となることが多いのです。
法的には、損害が発生したと主張する側に立証責任があります。そのため、通常のクレーム対応では慰謝料請求を否定することが一般的です。しかし、冠婚葬祭業界、特に葬祭業界では、他の業種に比べて慰謝料請求が認められやすい傾向があります。
例えば、東京地判令元・8・20ウエストローの判例(事件番号:平30ワ17407号)では、葬祭業者が生活保護葬を行う際に、遺族の宗教感情や故人に対する追慕の感情を尊重する義務があるとされました。遺族にとって故人の葬儀のあり方は非常に重要であり、葬祭業者はこれを配慮する社会的義務があると判示され、慰謝料請求が認められました。
このように、葬祭業界では他の業界に比べて慰謝料請求が認められやすいことを踏まえ、クレーム対応には細心の注意を払う必要があります。
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冠婚葬祭業界におけるカスハラ・クレームのケーススタディ
それでは、実際に冠婚葬祭業界におけるカスハラにおけるカスハラ・クレームの事例と対応方法とを見ていきましょう。なお、冠婚葬祭業界におけるカスハラ対策としては、以下のことに注意する必要があります。
- 葬儀社と遺族との間で特段の合意の不履行が問題になっている場合、「特段の合意の存在」及び「特段の合意の不履行」の主張立証責任を負うのは、葬儀社ではなく遺族側である
- 葬祭業界は、他の業種に比べて慰謝料請求が認められやすい傾向にある。仮に慰謝料を支払うという選択肢をとる場合には、単に慰謝料を支払うだけではなく、合意書も締結するべきである
- 合意書には、最低限、①清算条項、②口外禁止条項を入れるべきである
冠婚葬祭業界におけるカスハラ事例①ミスが認定できなかった場合
葬儀社はどのように対応すれば良いでしょうか。
確認すべき事項
まず、葬儀社が「遺影として自然なものになるように点滴の管を消去する加工を行った」こと自体は不適切ではありません。多くの遺族は、このような配慮を感謝することが多いです。したがって、単に加工を行っただけでは、債務不履行にはなりません。
しかし、遺族との間で「遺影の写真の加工に関する特別な合意」、つまり「故人の闘病生活を称えるため、点滴用の管を残す」という合意があれば、その合意に反する加工を行ったことが問題となります。したがって、クレームを受けた場合には、遺族との間でそのような合意があったかどうかを確認することが重要です。
主張立証責任について
葬儀社と遺族との間で「点滴用の管を残す」合意があったかどうかの立証責任は、葬儀社ではなく遺族側にあります。葬儀社は、担当者への聴き取りや当時の資料を確認し、そのような事実が認められなければ、「そのような合意はなかった」と主張すれば十分です。
遺族側から合意があったことを証明する証拠(合意書、録音データなど)が提出されなければ、慰謝料請求に応じる必要はありません。
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冠婚葬祭業界におけるカスハラ事例②ミスが認定できた場合
葬儀社が納棺の際に、仏式の葬儀で行われる旅支度(故人が無事に来世へ到着できるように仏衣や杖、足袋などを身に着けること)を施しました。しかし、遺族から「故人は仏教でも旅支度をしない宗派であり、さらに故人自身も仏衣ではなく愛着のある衣服を着たいと希望していた」として、慰謝料を請求されました。
この場合、葬儀社はどのように対応すればよいでしょうか。
確認すべき事項
まず、この事例では、葬儀社と遺族との間で「旅支度をせず、仏衣ではなく愛着のある衣服を身に着ける」という特別な合意があったかどうかが問題となります。そして、その特別な合意があったかどうかの立証責任は、葬儀社ではなく遺族側にあります。
ミスが認定できた場合の対応
葬儀社が担当従業員に聴き取りを行い、特別な合意の存在が認められた場合、まずは真摯に謝罪することが重要です。しかし、謝罪だけでは遺族が納得せず、慰謝料を執拗に請求された場合には、次の対応が必要です。通常の事件では、慰謝料請求を否定することが考えられますが、冠婚葬祭業界では他の業種に比べて慰謝料請求が認められやすい傾向があります。
例えば、東京地判令元・8・20ウエストローの判例(事件番号:平30ワ17407号)では、(当事者双方に合意があったにもかかわらず)「旅支度を施さなかったこと」に対して、遺族2名にそれぞれ10万円の慰謝料が認められました。本件でも、特別な合意に反する死装束を施してしまった場合、慰謝料が認められる可能性があります。ただし、慰謝料の金額は数万円から数十万円の範囲内であることが多いです。
慰謝料を支払う場合の留意点
葬儀社に慰謝料支払義務が認められる裁判例はありますが、これらはあくまで事例判断に過ぎません。実際に裁判になった場合に慰謝料支払義務が認められるか否かはケースバイケースです。裁判外の交渉段階では、慰謝料を支払わない選択肢もありますが、ミスが事実であり紛争を長引かせたくない場合、慰謝料を支払って円満に解決する選択肢も考えられます。
慰謝料を支払う場合には、慰謝料支払いと同時に合意書を締結することが重要です。合意書には、清算条項や口外禁止条項を最低限含めるべきです。これは、慰謝料を支払った後に、さらに慰謝料を請求されたり、インターネットなどでミスを書き込まれるなどの事態を防ぐためです。冠婚葬祭業界では、カスハラやクレーマーからのクレーム対応が特に重要です。適切な対応を掛けることで、トラブルを最小限に抑えることができます。
本事例で慰謝料を支払う場合には、例えば、以下のような合意書を締結することが考えられます。
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まとめ
冠婚葬祭業界では、感情が高ぶりやすい場面が多く、特に葬儀の際には喪主や関係者が非常にナーバスな状態にあります。このため、些細なミスでも大きなクレームに発展しやすい傾向があります。
クレーム対応においては適切な確認作業と真摯な謝罪が求められますが、必要に応じて慰謝料の支払いも検討する必要があります。
カスハラやクレーム対応は、冠婚葬祭業界において特に重要な課題です。適切な対応を心掛けることで、トラブルを最小限に抑えましょう。
香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、冠婚葬祭業界向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。
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葬儀社は、遺族から遺影に使用する写真を受け取りました。しかし、その写真には入院中の点滴用の管が映っていたため、葬儀社は遺影として自然なものになるようにその管を消去しました。ところが、遺族から「故人の闘病生活を称えるため、点滴用の管を残すよう依頼したはずだ」とのクレームがあり、慰謝料を請求されました。