【カスハラ・クレームの事例】金融業界におけるケーススタディ

金融業界では、顧客の財産や信用に直接関わる業務が多いため、クレームやカスハラ(顧客ハラスメント)が発生しやすい環境にあります。

銀行窓口での待ち時間や煩雑な手続き、リスク性金融商品の取り扱いなど、さまざまな場面で顧客からのクレームが生じることがあります。これらのクレームに対して適切に対応することは、金融機関にとって非常に重要です。

本記事では、金融業界におけるカスハラやクレームの具体例を紹介し、それぞれの対応方法について解説します。

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金融業界におけるカスハラの特徴

金融業界におけるカスハラの特徴

金融業界におけるカスハラの事例とその対処法を解説する前に、金融業界におけるカスハラの特徴を見ていきましょう。

金融業界におけるカスハラの特徴①顧客の財産や信用に関わるため、精神的余裕を奪いやすい

金融業界では、法人や個人の財産や信用、個人情報を取り扱っています。そのため、顧客は財産への損害に敏感であり、たとえ小額であっても「財産を毀損された」と感じると、窓口従業員に詰め寄ることがあります。このような状況は、顧客の精神的余裕を奪い、カスハラ(顧客ハラスメント)の原因となることが多いです。

銀行の窓口における具体例

例えば、顧客が窓口に持参した現金の金額を確認する際、顧客が一時的に席を外した場合を考えます。顧客の目の前で現金を数えることができず、結果として顧客が主張する金額よりも1万円足りないことが判明する場合があります。「それでは困る。よく探してほしい。確かに100万円あるはずだ」といったやり取りが平行線をたどることがあり、これがカスハラの一例です。

融資の場面における具体例

融資の場面でも同様です。事業融資や住宅ローン融資では、急を要する事情がある顧客がいます。融資担当者が安易に「融資は可能だと思いますよ」と回答すると、顧客はその言葉を信じて取引を始めてしまうことがあります。その後、融資ができないと通知されると、顧客は「融資は可能だと言いましたよね。もう取引を始めており、融資が下りないと損害が出てしまいます」と不満を抱き、金銭的損害や信用の毀損につながります。これも金融業界のクレームの一例です。

個人情報の取扱いに関する具体例

銀行は、顧客の財産や個人情報を扱っており、これらの情報が第三者に漏れると大きな問題になります。例えば、携帯電話番号を間違えてかけ、「○○銀行○○支店の○○ですが、○○会社様でございますか。いつもお世話になっています」と話してしまうと、かけ間違えた相手に「○○という会社が○○銀行○○支店で取引がある」と知られてしまいます。このようなミスが犯罪に悪用されたり、不当な金銭要求に繋がるリスクがあります。

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金融業界におけるカスハラの特徴②法令や通達による多くの制限

金融業界は、法令や通達により多くの制限があります。例えば、リスク性金融商品を顧客に勧めた結果、顧客が損失を被り、クレームが発生することがあります。このような場合でも、金融機関側に落ち度がない場合には、損害を賠償して解決することができません。

顧客は、大きな財産的損害が出るほど精神的にも追い詰められ、自分のリスク判断で購入した金融商品でも誰かに責任を転嫁したいと考えます。「信用しているあなたの会社から『儲かるから』と勧められて購入した商品なのに、どうしてくれるんだ」といった感情的なクレームを金融機関に対して行い、損失補填や損害賠償を求めることがあるのです。

一方で、金融機関はこのような場合に安易に落ち度を認めることができず、謝罪も慎重に行う必要があります。そのため、話し合いで円満に解決することが難しく、クレームが長期間にわたって続いたり、法的紛争に発展することがよくあります。

金融業界におけるカスハラの特徴③窓口やATMの待ち時間、煩雑な手続きによる精神的負担

銀行窓口は平日の昼間しか営業していないため、平日に働く個人や法人従業員は仕事を調整して時間を作り、金融機関に行かざるを得ません。そのため、窓口やATMが混雑する時間帯があります。また、仕事を調整して作った時間内に銀行手続きを済ませなければならないという焦燥感が顧客にあります。

その結果、金融機関の混雑や煩雑な手続きにより、顧客は精神的ストレスを感じることが多いです。人間は経済的・精神的・時間的に余裕があれば、小さなミスや言い回しに寛大になれますが、金融機関の混雑や煩雑な手続きはその寛大さを奪います。そのため、クレームが発生しやすく、カスハラの原因にもなりやすいのです。

金融業界におけるカスハラ・クレームのケーススタディ① 銀行の窓口におけるクレーム対応

金融業界におけるカスハラ・クレームのケーススタディ① 銀行の窓口におけるクレーム対応

それでは、実際に金融業界におけるカスハラにおけるカスハラ・クレームの事例と対応方法とを見ていきましょう。なお、金融業界におけるカスハラには以下の特徴があります。

ポイント

・銀行の窓口の混雑や煩雑な手続は、顧客にとって心理的負担となり、精神的余裕を奪うため、カスハラが生じやすい状況にある。また、金融機関における手続は、財産や信用に関わり、(金融機関側に落ち度がなかったとしても)同手続はこれらの毀損につながりかねず、精神的余裕を奪う。これらの状況が合わさり、顧客が感情的になりやすい。

・顧客の要求の中には、不当要求として拒絶すべきものがあり、話が平行線となりやすく、カスハラが解決困難になり、長期化しやすい。

<事例>
ある日の午後、窓口業務が混んでいたため、顧客が14時前に銀行に来店し、1時間近く待って窓口で振込を済ませました。

しかし、その日中に振込先に着金しませんでした。後日、その顧客が来店し、「窓口が混んでいて待たされたおかげで、相手方への着金が翌日になり、信用を失った。どうしてくれるのか」と大声で怒鳴り、応接室で担当者とその上司が謝罪しても許さず、数時間にわたり叱責を続けました。

その後も「社長を出せ。窓口ではいつも待たされる。社長名義で改善策を出せ」「SNSで拡散するぞ」「誠意を見せろ」などと執拗に話を繰り返しました。

どのように対応すればよいのでしょうか。

確認すべき事項

まずはクレーム対応の基本ルールに従い、窓口が混んでいて不快な思いをさせたことに対する謝罪を行います。その後、確認すべき事項をしっかりと確認し、後日改めて話し合う場を設けるようにします。

最初に顧客がどのようなクレームを述べているのかを傾聴し、把握することが重要です。さらに、顧客が帰った後には、当日の振込や窓口対応状況を確認し、「今日中に着金します」などと約束したにもかかわらず着金が間に合わなかった場合など、当方に落ち度がないかを確認します。

落ち度が認められない場合の対応

もし金融機関側に落ち度がないと判定された場合、「窓口が混んでいて不快な思いをさせた」ことについて丁寧に謝罪し、それ以上の対応は控えます。

金融機関に落ち度がないにもかかわらず、数時間にわたり叱責を受けたり、社長名義の改善策を要求されたりすることは不当クレームにあたります。また、「誠意を見せろ」といった言動(金銭を要求することが多い)には対応する必要はありません。

落ち度が認められる場合の対応

もし金融機関側に落ち度があったと判定された場合、「○○○○(具体的な落ち度)により不快な思いをさせた」ことについて丁寧にお詫びし、それ以上の対応は控えます。金融機関に落ち度があったとしても、基本的には振込期日の窓口時間終了の少し前に来店し振込手続きを行い、当日中に着金を期待する顧客にも責任があります。

落ち度の重さによって対応は変わることもありますが、基本的には「社長を出せ」「社長名義の窓口混雑改善策を出せ」「誠意を見せろ」といった要求は不当なクレームにあたります。また、「SNSで拡散するぞ」といった要求手段は不当なクレーム手段です。金融機関ごとの企業経営方針にもよりますが、丁寧に謝罪した後は毅然とした態度で応対することが重要です。

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金融業界におけるカスハラ・クレームのケーススタディ② リスク性金融商品に関するクレーム対応

金融業界におけるカスハラ・クレームのケーススタディ② リスク性金融商品に関するクレーム対応

<事例>
銀行の担当者が高齢の顧客に対してリスク性金融商品を勧めて購入してもらいました。後日、この金融商品の価値が下落し、その顧客から「この金融商品は損をしないと聞いて購入したにもかかわらず、損をしてしまった。どうしてくれるのか。損失を補填してほしい」「親しい弁護士がいるが、その弁護士から訴訟を起こしてもらいましょうかと言われている」とクレームを受けました。

どのように対応すれば良いのでしょうか。

確認すべき事項

まず、顧客のクレームをしっかりと聞き取り、そのクレームに対する法的責任を判定するために必要な情報を確認することが重要です。また、顧客が帰った後には、勧誘した従業員が持つ同金融商品に関する知識や、顧客への説明内容、交付した資料、顧客の状況(特に高齢であることから認知能力の衰えがないかなど)、顧客の資金力、従前の金融商品の取引実績など、法的責任を判定するために必要な事項を確認します。

通常のクレーム対応では会話冒頭に「不快な思いをさせて申し訳ありません」といった道義的謝罪を行いますが、リスク性金融商品のクレーム対応では基本的には不要です。

法的責任が認められない場合の対応

法的責任が認められないと判定された場合、訴訟リスクを回避するために、顧客に対して金融商品の内容やリスクの説明を行い、資料を交付していることを丁寧に説明します。その上で「損失補填はできない」と明確に伝えます。

この際、「説明が不十分だった」「誤解をさせた」など、法的責任を認める発言は避けるべきです。金融機関に落ち度がない場合、このようなクレーマーのクレームは自身の損失を金融機関に責任転嫁する不当クレームとみなされ、金融機関としては毅然とした態度で対応する必要があります。

もし、丁寧に説明しても顧客が納得せず、カスハラや紛争に発展する可能性がある場合は、金融ADR(金融分野の裁判外紛争解決機関)を紹介することも検討されます。どのケースで、どのタイミングで金融ADRを紹介するかは、各金融機関で事前に話し合っておくと、事案解決が後手に回るリスクを減らせます。

法的責任が認められる場合の対応

法的責任が認められる場合、金融機関にどのような点で法的責任があるかを確認し、金融庁に届け出て、同庁に損失補填の可否を決めてもらう必要があります。また、顧客に対してその旨を説明し、場合によっては顧客側に協力を依頼する可能性があることも事前に伝えます。

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まとめ

【カスハラ・クレームの事例】金融業界におけるケーススタディのまとめ

金融業界におけるカスハラやクレーム対応は、顧客の財産や信用に直接関わるため、特に注意が必要です。顧客の精神的余裕を奪う要因が多いため、適切な対応が求められます。窓口での混雑や待ち時間、煩雑な手続き、リスク性金融商品の説明不足など、さまざまな場面でクレームが発生する可能性があります。これらのクレームに対して、冷静かつ適切に対応することが重要です。

まず、顧客のクレームをしっかりと傾聴し、必要な情報を確認することが大切です。法的責任がある場合とない場合で対応が異なるため、慎重に判断しましょう。不当なクレーマーの要求には毅然とした態度で対応し、必要に応じて金融ADR機関を紹介するなどの措置を講じることも重要です。

リスク性金融商品に関するクレームでは、顧客に対する説明や資料の交付が十分に行われているか確認し、法的責任を明確にします。顧客に対する誤解を避けるため、丁寧な説明と冷静な対応が求められます。

カスハラやクレーム対応は、金融機関にとって避けられない課題です。適切な対応を行うことで、顧客との信頼関係を維持し、トラブルを最小限に抑えることができます。

香川総合法律事務所では、カスハラ顧客やクレーム顧客の対応をはじめ、企業向けのカスハラマニュアルの作成や、研修等も行なっております。カスハラやクレームにお困りの場合は、是非ご相談ください。

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